過去2戦のミスとプレッシャー。マルティンがフォーカスした決勝レース/第17戦タイGP

 MotoGP第17戦タイGPで接戦を制して優勝を飾ったホルヘ・マルティン(プリーマ・プラマック・レーシング)は、今回、決勝レースにフォーカスしていたという。その背景には不本意な結果に終わった過去の2戦があった。

 タイGP決勝レースは、三つどもえの優勝争いとなった。激戦を繰り広げたのは、マルティンとブラッド・ビンダー(レッドブルKTMファクトリー・レーシング)、そしてフランセスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)である。

 トップを走っていたマルティンは、残り5周でビンダーによってトップを奪われた。「2位で終わるのもアリかもしれない」とも考えたが、マルティンは前に出たビンダーの走りを見て「リヤタイヤが限界だ」とわかると、残り2周でビンダーをオーバーテイクする。その周の最終コーナー進入ではバニャイアがビンダーとマルティンをまとめてオーバーテイクしようと仕掛けたが、マルティンは譲らなかった。

 3人は僅差のまま、しかしマルティンがトップでチェッカーを受けたのである。先行して独走優勝というパターンが多いマルティンだが、今回の優勝でバトルでの強さも示した。

 決勝レース後の会見で、マルティンは今回のレースについて「僕の人生のなかでもベストレースのひとつだと思う」と語っている。

「ペコ(フランセスコ・バニャイア)もブラッドも、ブレーキングでとても強いと思う。だから、バトルで彼らに勝てて信じられない気持ちだよ。もちろん、大きな自信になっているし、ブレーキングがとても強いライダーになれたと思う」

 マルティンがこのタイGPに懸けるものは大きかった。日本GP後の3連戦初戦となったインドネシアGPはトップ走行中に転倒し、オーストラリアGPではタイヤ選択をミスして優勝を逃していた。今大会、土曜日にはオールタイムラップ・レコードを更新してポールポジションを獲得し、さらにスプリントレースで優勝を飾っているが、マルティンはその結果を「楽しめなかった」と言う。マルティンが見据えていたのは、あくまでも決勝レースだったからだ。

「ここ数戦のレースは、僕にとって厳しかったよ。オーストラリアよりもマンダリカのほうが(きつかった)。オーストラリアは、タイヤチョイスのミスだったけど、インドネシアでのミスは、大きかった。3秒の差をつけていながら、クラッシュしたんだからね。とてもつらかった」

「だから今日、プレッシャーが大きかったんだ。メンタル的に、優勝することが僕にとってとても重要だった。次のレースへの大きなモチベーションを与えてくれると思う。(昨日は)勝つことやポールポジションについては考えていなかった。今日のレースだけに集中した。そしてその甲斐はあったと思う」

 今回の結果により、マルティンは目標としていたバニャイアとのポイント差を詰めることに成功し、ふたりの差は27ポイントから13ポイントになった。「今夜、ようやくよく眠れるよ」と、マルティンは言った。

 2023年シーズンのチャンピオン争いは、実際のところ、ランキングトップのバニャイアとランキング2番手のマルティン、このふたりにしぼられている。オーストリアGP以降、苦戦を強いられていたバニャイアがインドネシアGPで5戦ぶりの優勝を飾った一方、インドネシアGPとオーストラリアGPで不本意な結果に終わったマルティンは、タイGPで優勝している。

 それぞれ調子の波があったが、バニャイアはバイクのフィーリングを取り戻し、マルティンはモチベーションにとって重要な勝利を挙げた状況である。ドゥカティライダー同士によるチャンピオン争いは、残り3戦で佳境を迎える。

接戦の最終ラップを制したマルティン。2戦の苦しいレースがあっただけに、喜びもひとしおだったようだ

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