【角田裕毅F1第20戦分析】早めの追い抜きを試みた末に接触。新品ハードを武器に戦うも、ブレーキのオーバーヒートに苦戦

 F1第20戦メキシコシティGP(メキシコGP)日曜日の朝、メディアセンターにいる何人かのジャーナリストから「角田裕毅(アルファタウリ)は、今日のレースをピットレーンからスタートすると思うか?」という質問を受けた。その問いに、私は「ピットレーンからスタートすることはないと思う」と答えた。

 その理由はこうだ。予選でローガン・サージェント(ウイリアムズ)が記録したタイムがトラックリミット違反で抹消となり、107%以内のタイムを残していないとして、角田の後方のグリッドからスタートすることになったこと。もうひとつは、日曜日の朝にランス・ストロール(アストンマーティン)がパルクフェルメ・ルールを破って、マシンを大幅に変更したため、ピットレーンからスタートすることになったからだ。

 つまり、スタート前の時点で角田のポジションは18番手であり、スタートで1台か2台かわせば、十分入賞を狙える状況が待っていた。

 実際、角田はスタートでランド・ノリス(マクラーレン)とエステバン・オコン(アルピーヌ)を抜いて15番手にジャンプアップ。2周目にもフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)をかわして14番手まで浮上していた。

 しかし、スタート直後にケビン・マグヌッセン(ハース)との攻防でフロントウイングにダメージを負った角田は、9周目にピットイン。ノーズごとフロントウイングを交換するとともに、タイヤをミディアムからハードに変えて、最後尾からの追い上げを図った。

 この戦略変更は、予想以上にタイヤのデグラデーションが大きくなったその後のレースで功を奏し、角田と前方集団との差は周回を重ねることに小さくなり、前方集団が1回目のピットストップを行ったレース中盤の33周目には、角田は10番手まで挽回していた。

 さらにここでマグヌッセンがクラッシュして赤旗が出される。その周に角田の前にいたノリスとアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)がピットインしていたため、角田のポジションはさらにふたつ上がって8番手で赤旗中断を迎えた。

 赤旗中にドライバーはタイヤ交換を行うことができるため、角田にとってこの赤旗は千載一遇のチャンスとなった。

 8番手から新品のハードタイヤを装着して、再スタートを切った角田は、オスカー・ピアストリ(マクラーレン)と7番手を賭けた激しいバトルを展開。しかし、49周目の1コーナーで接触し、弾き飛ばされた角田は大きく後退してしまった。

レース後、接触したピアストリの横でテレビのインタビューに答える角田

 最後まであきらめずに前を追った角田は、レース終盤に何台かをパスしたものの、入賞にはあとわずか届かず12位でフィニッシュ。チームメイトのダニエル・リカルドが7位でチェッカーフラッグを受けるなか、失意のレースとなった。

 レース後、ミックスゾーンに現れた角田はメディアからの接触に関する質問に、珍しく「ノーコメント」を貫いた。その胸中は推し量ることしかできないが、自分自身に腹を立てていた可能性は高い。なぜなら、角田のペースは明らかにピアストリより速く、71周のレースの49周目に、あそこまで無理して抜かなくともよかったからだ。

レース後、取材に応じた角田は接触に関する質問に「ノーコメント」を貫いた

 なぜ、角田はあそこで仕掛けたのか。角田はリリースを通して、こう語っている。

「後半になるとタイヤが苦しくなってきて、できるだけ早くオーバーテイクしたかった」

 じつは角田のマシンはスタート直後から集団のなかでレースしていたため、ピアストリとのバトルが始まったときにはブレーキのオーバーヒートに悩まされていた。そのため、エンジニアからは「オーバーテイクしない場合は、ブレーキングでブレーキペダルを踏む前に、アクセルペダルから足を離してほしい」と指示されていた。オーバーヒートが進めば、レース終盤はさらに苦しくなる。その思いが角田に焦りを生ませた可能性は考えられる。

 もうひとつ、角田に焦りを誘発させた要因として考えられるのは、『欲』だ。レース後、メディアから「接触がなければ、どこまでいけたと思うか?」という質問に対して、角田はこう語った。

「あの状況だったら、結構いけたんじゃないですかね」

 つまり、あのとき角田は7位だけを狙っていたのではなく、ピアストリの前も見ていたのではないか。それは6番手を走るチームメイトのリカルドだ。41周目に2秒台だったリカルドとのギャップは、ピアストリとの攻防で48周目には4秒以上に広がっていた。

 自らがパワーユニット交換によるグリッドペナルティを受けたこのメキシコGPで、チームメートのリカルドが予選4番手の快走。そこに悔しさがなかったといったら、嘘になるだろう。そこに訪れた赤旗によるチャンス。早く抜かなければならないいくつかの理由が、研ぎ澄まされた角田の集中力を少しだけ狂わせていたのかもしれない。

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