トムス山田淳氏が「教え子」宮田莉朋に課したチャンピオンドライバーになるための3つのタスク

 スーパーフォーミュラ最終戦、鈴鹿サーキットで開催された第9戦で3位表彰台を獲得し、見事、2023年のドライバーズチャンピオンに輝いた宮田莉朋(VANTELIN TEAM TOM’S)。スーパーフォーミュラ(SF)フル参戦3年目で見事栄冠を勝ち取ったが、その宮田の活躍は所属するチーム、トムスのバックアップなしには成し遂げられなかった。若き宮田の才能を見出し、宮田の成長を支えたトムスのチームマネージャーでありエンジニア、監督などを務める山田淳氏に、チャンピオン宮田の進化について聞いた。

 山田淳氏は“最強軍団”トムスにおいて、全日本F3から長らく外国人ドライバーを発掘して担当するなど、国内で“最強軍団”と呼ばれるチームの中核を担ってきた人物でもある。

 その山田氏と宮田との関係は、2016年に宮田がFIA-F4でチャンピオンになった頃から始まった。以来、2017年に宮田がトムスに加入して全日本F3、その後に名称が変わったフォーミュラ・ライツ、そして現在のSFと丸7年に渡って、サーキットで苦楽を共にしてきた。

「いやあ、信じられないですよね。あの莉朋がSFのチャンピオンなんですから(苦笑)」と、レース後に黒字のチャンピオン記念Tシャツを来て、宮田の表彰台でのセレモニーを見届けた後に話す山田氏。その山田氏に、チャンピオンを獲得するに至った宮田のドライバーとしての進化について聞く。

「F3をやり始めて、最終的に(2020年に)チャンピオンを獲ったのですけど、まだその時点ではね、今みたいな莉朋ではなかったんですよ。やっぱり、レースをすると前を抜けない、そしてスタートが苦手(苦笑)。そんな宮田が変わったのはやっぱり今年に入ってからですよね」

「もちろん、人間的にも少し大人になっていますけど、ドライバーとしてはレースで強くなったというのが一番ですね。速さはもともと莉朋は持っていたんですよ。ただ、レースでの強さが彼には足りないと思っていて、その強さが身についた。レースでは予選グリッドよりも順位を上げてくるようになりました。今までは前のクルマの後ろについても『抜けない』、『抜けない』、『ああ〜レースが終わっちゃった』という印象が強かったですけど、それこそ前回の鈴鹿大会(第3戦)、あのレースがある意味、ターニングポイントだったという気がしていますね」

 SF第3戦の鈴鹿では、宮田は予選12番手に沈んだものの決勝ではオーバーテイクを連発し、見事SF初優勝を成し遂げた。宮田もチャンピオン会見で「第3戦の鈴鹿で初優勝を飾ることができたことで、クルマにも自分自身にも自信がついてきた」と話しており、山田氏の感覚とシンクロする。タイミング的に国内フォーミュラのトップカテゴリーでの逆転優勝、そしてWEC(FIA世界耐久選手権)への世界を目標としたことなどが重なり、宮田の心境が大きく変わったことが想像される。

「ドライバーとして、いいドライバーになりました。本当に」と、目を細める山田氏。

 その山田氏は、これまでどのようなアドバイスや教えを宮田にしてきたのか?

「僕が教えたことはほとんどないですよ。『平常心で臨めば速いんだから』、『スタートを練習しなさい』、『レース中は前のクルマを抜きなさい』、言ってきたことはそれくらいです。今年はそれをしっかりやってくれました。本当にすごい」

 山田氏が宮田に必要と感じたこの3つのポイント、たった3つではあるが、このポイントはカテゴリーに関係なく、結果を残すドライバーの真理とも言える要素でもる。

 その山田氏、最終戦の第9戦ではレース中にトムスのサインガードを離れ、タイトルを争うライバルのTEAM MUGEN近くのプラットフォームに密着する姿がモニターに映し出され、プレスルームでも話題になった。

「(36号車のクラッシュによって)今回1台になってエンジニア勢も倍になって、こっち(サインガード)での仕事が楽になったので。相手のピットが離れているので、レース中にどのタイミングでピットに入るのか重要なところなので、近くに行った方がいいかなと思ってインパルさんとTEAM MUGENさんの間にいました。ただ、あまりにカメラに抜かれてしまったので(苦笑)、ちょっとそのあとはピット側に引いていました」

 宮田のチャンピオン獲得に向けて、少しでも役立てることを考え、労を惜しまなかった山田チームマネージャー。チェッカー後にはどのような言葉をかけたのか。

「『おめでとう。ようやくチャンピオンだね』と。そして『来週も行くぞ!』と」

『来週も』という言葉は、翌週にモビリティリゾートもてぎで開催されるスーパーGTのチャンピオン争いのこと。SFでタイトルを獲得した宮田は、GT500クラスでもポイントリーダーであることから、SFとスーパーGTのダブルタイトル獲得にリーチをかけた状況となった。

 山田氏にとって「ある意味、教え子ですよね」という宮田の存在。その言葉を発してからすぐに、「あんな息子は嫌ですけど(笑)」といじりつつ、「親の気持ちです。ずっと若い頃から成長していく過程を見ているから、ちょっと、そういう気持ちになりますよね」と、続ける。

「今の勢いがあれば、世界でも十分戦えると思うので、世界で切磋琢磨してさらに磨きをかけて、さらにいいドライバーになってほしいですね。頑張ってもらいたいです」

 SFチャンピオンに輝いたばかりの宮田だが、今週末にはスーパーGTでのダブルタイトル挑戦、そしてその後は宮田が目指す世界への挑戦が待っている。

2023スーパーフォーミュラ第8戦&第9戦鈴鹿 宮田莉朋とVANTELIN TEAM TOM’Sの皆さん
2023スーパーフォーミュラ第9戦鈴鹿で初タイトルを決めた宮田莉朋(VANTELIN TEAM TOM’S)

© 株式会社三栄