旧ジャニーズ性加害で注目...見えにくい男性の性被害 背景に「男性は大丈夫」というバイアス

県の電話相談窓口

 旧ジャニーズ事務所の性加害問題で男性の性被害に注目が集まっているが、その多くが潜在化しているのが実態。背景には「男性は性被害に遭わないだろう」というジェンダーバイアス(性別に基づく固定観念)がある。男性の性被害について、あらためて認識を深めたい。

 県内で若者の支援活動を行っている男性は、複数の男性から性被害の話を聞いたことがある。「専門機関への相談を促したが、『どう考えても難しい』と言ってそのままになってしまった」と声の上げにくさを実感している。「被害者の中には仕事や生活に影響が出る人もおり、根が深い問題。相談できず、ケアに行き着かない被害者が県内にも多くいるのではないか」と懸念する。

 「『男は能動、女は受動』という男性優位の社会構造、男らしさにとらわれたジェンダー規範などが男性の性被害を見えにくくしている」と話すのは、「男性の性暴力被害」(共著、集英社新書)を今月出版した臨床心理士宮崎浩一(みやざきひろかず)さん。子どもや若者の性被害防止に向けて政府が今夏開いた関係府省庁合同会議に学識経験者として参加した。

 「『男は性被害に遭わない』という思い込みや『男だから大丈夫』『いたずらに過ぎない』という矮小(わいしょう)化は、男性の性が守られていないジェンダーバイアス」と指摘。バイアスを持つ社会が加害をなかったことにし、加害者を守ることにつながると警鐘を鳴らす。被害者も「男の自分が性被害に遭うなんて」というジェンダーイメージに縛られ、「被害を言えない」「言っても信じてもらえない」と追い込まれてしまう。

 被害の潜在化は、さらなる潜在化を招くことにもなる。「被害に遭ったとしても、実態がよく分からず情報も少ないため、自分の体験を被害として意味づけられない」ためだ。

 県のとちぎ性暴力被害者サポートセンター(とちエール)がこれまでに相談を受けた男性の被害は、強制的に性行為をさせられた、性器の露出や自慰行為を強要された、裸を撮影された、など。担当者は「性行為に同意してしまったと自責の念にかられる男性が多いが、心と体の反応は別物。意志でコントロールできないため、同意には該当しない」と話す。

 被害を相談された場合、周囲はどう対応すればよいのだろうか。宮崎さんは「ジャッジせず、寄り添って聞くことが大切。『本当なのか』と疑念があったとしても、否定的なことは言わない。一緒に考えたり、性被害のワンストップサポートセンターにつないだりしてもいい」とアドバイスする。

 見えにくい男性の性被害を防ぐのは容易ではないが、宮崎さんは「知識のなさは、無意識の加害にもつながる。性的に侵害されるとはどういうことか、基本的な性教育が必要だ」と説く。

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