【今週のサンモニ】偏向キャスティングで盲点を見抜けない|藤原かずえ 『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。今週はいつも以上にディープな左翼コメンテーターがそろってお届けしました。

多様性のカケラもない画一的なコメンテーター

2023年10月22日の『サンデーモーニング』は、『週刊金曜日』編集委員の田中優子氏、マルクス経済学者の斎藤幸平氏、ピースボート共同代表の畠山澄子氏というディープな左翼&パシフィズム系のコメンテーターを起用しました。

左翼&パシフィズム思想に偏った多様性のカケラもない画一的なコメンテーターの起用は、『サンデーモーニング』という番組の最大の特徴であると言えます。

もちろん、日本社会が【集団知 collective intelligence】を得る上で、絶滅危機にある左翼&パシフィズム系の皆さんのご意見を拝聴すること自体は貴重です。しかしながら、それは多様な論者の一部として存在するのが健全な言論空間であり、これだけ見事に偏ると、国家を特定の方向に暴走させた大本営放送を彷彿してしまいます。

多様性が欠如した画一的な集団は、木を見て森を見ないため、盲点を見抜け難いことが知られています。主張が常に一致して互いに反論することがないエコーチェンバーは、自説の死角を補うことができないばかりか、自分が所属する【内集団 in-group】を正義と確信し、自分が所属しない【外集団 out-group】に対して聞く耳を持たず、最終的には敵と認識して人格攻撃するに至ります。

『サンデーモーニング』の報道には、視聴者を特定の価値観に誘導する説明VTRを起点とし、スタジオトークでコメンテーターが一糸乱れずにその価値観を肯定してスケープゴートを叩きのめすという基本パターンがあります。

どんなに非常識な見解であっても、誰も反論しないので、あたかもそれが常識的見解であるかのように多くの視聴者は認識することになります。ここに、大衆が無意識に洗脳され、やがては世論を動かす巨大なエコーチェンバーと化すメカニズムが形成されるのです。

パレスチナへ同情するように誘導

今週の『サンデーモーニング』は、イスラエル・パレスチナ情勢について、イスラエル&米国対パレスチナという構図を強調し、一方的にイスラエル&米国を非難し、パレスチナへ同情するよう誘導しました。

アナ:国連の安全保障理事会では、米国が停戦に反対して拒否権を行使する中、全加盟国が参加する総会で「休戦」を求める決議が圧倒的な賛成多数で可決しました。法的拘束力はありませんが、国際社会としての意思が示された形です。フランス・スイス・スペイン・ノルウェーなどの欧州諸国の他、中国・ロシアも含め、121カ国が賛成、反対派イスラエルを含め14カ国でしたが、アメリカも反対しています。日本・韓国・英国・ドイツなど44カ国が棄権しました。

ここで、この国連総会決議について、番組が説明しなかった重要な情報を補足します。

今回の国連総会における休戦決議案には、イスラエルに対するハマスのテロ行為の責任を明記したカナダ案とこれを明記しないヨルダン案が存在しました。

国連総会で対イスラエル不満表面化 ハマス批判が分けた2案の成否 | 毎日新聞

カナダ案に対しては、日本・米国・欧州諸国を含む88カ国が賛成しましたが、中東諸国、中国、ロシア、アジア・アフリカ諸国など55カ国が反対して否決されました。

その直後、カナダ案に反対していた中東諸国、中国、ロシア、アジア・アフリカ諸国などが一転して賛成に回り、ヨルダン案が採択されました。

投票行動には大きな地域差がある

番組はこのヨルダン案の可決をもって「圧倒的な賛成多数」「国際社会としての意思」と報じています。

しかしながら、この投票行動には大きな地域差が存在していることを報じていません。

番組は「フランス・スイス・スペイン・ノルウェーなどの欧州諸国の他、中国・ロシアも含め、121カ国が賛成」と、いかにも欧州の大勢は賛成であるかのように報じていますが、欧州諸国のヨルダン案への実際の投票結果は次の通りです。

賛成:アンドラ・ベラルーシ・ベルギー・ボスニア・ヘルツェゴヴィナ・フランス・アイルランド・リヒテンシュタイン・ルクセンブルク・マルタ・モンテネグロ・ノルウェー・ポルトガル・ロシア・スロヴェニア・スペイン・スイス(17カ国)

棄権:アルバニア・ブルガリア・キプロス・デンマーク・エストニア・フィンランド・ドイツ・ギリシャ・アイスランド・イタリア・ラトヴィア・リトアニア・モナコ・オランダ・北マケドニア・ポーランド・モルドヴァ・ルーマニア・サンマリノ・セルビア・スロヴァキア・スウェーデン・ウクライナ・英国(24カ国)

反対:オーストリア・クロアチア・ツェコ・ハンガリー(4カ国)

欧州は、ヨルダン案に対しては、むしろ棄権と反対の方が多いのです。更に、明快な事実として、カナダ案に対しては、なんとロシアとベラルーシの2国を除くすべての欧州諸国(43カ国)が賛成しているのです。欧州諸国の一致した意見は、休戦とハマスのテロ行為の責任明記の両立でした。

また、欧州諸国がヨルダン案に反対することなく棄権にとどめたことは、ハマスのテロ行為の責任明記よりも休戦を優先したということです。もちろん、欧州諸国と同じようにカナダ案に賛成してヨルダン案を棄権した日本も、ハマスのテロ行為の責任明記よりは休戦を優先していると言えます。

自分が憎い相手のみを非難する

一方、カナダ案に反対した中国・ロシアをはじめとする55カ国は、ヨルダン案に対しては、イラクとチュニジアを除き、すべて賛成に回りました。

このことから何が言えるかと言えば、この55カ国にとっては、休戦よりも、ハマスのテロ行為の責任を明記しないことの方が優先事項なのです。

このような論理的帰結を一切説明することなく、『サンデーモーニング』は、中国・ロシアを含むヨルダン案への賛成国に対して賛意を示すと同時に、日本を含むヨルダン案への棄権国を強く非難したのです。

もちろん、イスラエルのガザに対する過剰な攻撃は、罪のない民間人の人権を蹂躙するものです。イスラエルに対して過剰な攻撃を即刻停止するよう促すことに私も強く賛同します。しかしながら、多くの民間人を殺害して人質を取っているハマスのテロリズムも同時に非難するのが公平です。日本政府と欧州諸国の投票行動はこのような理念に立脚する総合判断に他なりません。

なお、米国はヨルダン案には反対したもののカナダ案には賛成しています。これはカナダ案に反対したもののヨルダン案に賛成した中国・ロシアと同様、休戦よりもハマス非難の有無を優先する考え方です。

『サンデーモーニング』は、米国を非難するのであれば、同時に中国・ロシアも非難しないと理に適いません。憎い相手のみを非難するのは公正な報道とは言えません。

「~のような気がする」という伏線

さて、『サンデーモーニング』では、スタジオトークの前に、司会の関口氏がアジェンダに対する個人的見解を簡単に述べるのが常です。

関口宏氏:この結果は、惨状を見てというより自分の国の都合によってどっち行くかと決めているような気がして、なんか国連の意味がないなと僕は気がしちゃうのですが、皆さんはどうでしょうか?

実は、この関口氏が発する「~のような気がする」という定番の言い回しが、その後のスタジオトークの見事な伏線となるのです。

極めて興味深いことに、『サンデーモーニング』のコメンテーターは、まるで御用聞きが功を競うように、この関口氏の「~のような気がする」という当て推量を肯定する主張を展開します(笑)

田中優子氏:国連総会での人道目的の救済を求める決議は画期的だが、米国は反対した。日本はなんと棄権した。休戦に反対ということはもっと戦えということだ。棄権というのはどうでもいいということだ。本当に日本が棄権したのは恥ずかしい。

斎藤幸平氏の乱暴な【アナロジーの乱用】

先述したように、休戦を求めてハマス批判も求めるカナダ案に賛成し、休戦を求めてハマス批判を求めないヨルダン案に棄権した日本は、弱者に対する人権蹂躙に強く抗議したのであって、カナダ案に賛成している以上、ヨルダン案に棄権したことは必ずしも恥ずかしいとは言えません。

また、米国がヨルダン案の休戦に反対したことを非難するのであれば、同じくカナダ案の休戦に反対した中国&ロシアも批判するのが妥当です。米国と中国&ロシアを比較すれば、ハマス批判を求めた米国の方が、ハマス批判を求めない中国・ロシアよりもマシです。

斎藤幸平氏:日本が休戦案に棄権したのは残念だ。ジェノサイドを止めない欧米はウクライナの時と違うダブスタだとグローバルサウスの国々に思われても仕方がない。

松原耕二氏と斎藤幸平氏

これも不当な論証です。ロシア・ベラルーシ除く全欧米諸国はカナダ案の休戦案に賛成しています。また米国・オーストリア・クロアチア・ツェコ・ハンガリーを除く全欧米諸国は、ヨルダン案には反対せず、棄権または賛成しています。

また、ハマスのテロリズムに報復攻撃したイスラエルとロシアに一方的に攻撃されたウクライナを同一視してダブルスタンダードと断罪するのはあまりにも乱暴な【アナロジーの乱用】です。加えて、休戦を求めるカナダ案に反対した多くのグローバルサウスにこそ問題があります。

自らの盲点を見抜けない

畠山澄子氏:日本は何をしているのか。広島G7サミットで議長の岸田氏が国際法に基づく秩序の重要性と平和へのコミットメントが大事だとあんなに言っていて棄権している。人道支援を最優先することにイエスと言えない日本は何なんだ。

畠山氏の主張とは真逆に、岸田政権は、国際法に基づく秩序の重要性と平和へのコミットメントが大事と考えたからこそ、休戦を求めてハマスのテロを非難するカナダ案に賛成し、休戦を求めてハマスのテロを非難しないヨルダン案を棄権したものと考えます。

ちなみに、日本が全体のバランスを考えた総合判断によってヨルダン案を棄権したことは上川陽子外務大臣によって既に説明されています。

上川外相、棄権は「総合的判断」 国連総会の休戦決議案:東京新聞 TOKYO Web

結局、『サンデーモーニング』のコメンテーターは、決議案の内容を見誤って、カナダ案反対&ヨルダン案賛成という選択を正義とし、カナダ案賛成&ヨルダン案棄権という選択を非難しました。

これらの番組コメンテーターの発言は、まさに冒頭で述べた通り、多様性が欠如した画一的な集団が、木を見て森を見ずに、自らの盲点を見抜けなかった典型的な例であると言えます。

主張が常に一致して互いに反論することがないエコーチェンバーは、自説の死角を補うことができないばかりか、自分を正義と確信し、日本政府の主張に対して聞く耳を持たず、最終的には日本政府を人格攻撃したのです。

結局、左翼パシフィズムを異様に偏重する時代錯誤のキャスティングを改善しない限り、この番組はますます社会から取り残されていくものと考えられます。

藤原かずえ | Hanadaプラス

© 株式会社飛鳥新社