秋の行楽シーズン。気軽に楽しめるアウトドア、「チェアリング」はいかが? 折りたたみ椅子を持って公園や水辺など好きな場所に出かけ、飲食や会話、読書をしながら、くつろいだ時間を過ごすチェアリング。新型コロナウイルス禍を経て注目度が増し、六甲山などでは椅子の貸し出しも行っている。スポーツツーリズムの専門家は「座って五感で自然を感じ、身近にある幸せに気づくことができる」と魅力を語る。(中島摩子)
神戸市灘区六甲山町の「ROKKO森の音(ね)ミュージアム」(TEL078.891.1284)。約300種類の植物が育ち、四季折々の自然を感じることができる約5千平方メートルの庭「SIKIガーデン」では11月23日まで、今年初のイベント「ガーデンチェアリング」を実施中だ。
「お好きなチェアを選び、木陰や見晴らしの良い場所など、お気に入りの場所を探してゆったり過ごしていただけます」-。持ち運びができる椅子を集めた場所を設け、来場者にこう呼びかけている。
新たに導入したチェアリング用の椅子26脚のほか、揺れるタイプや木の椅子なども各所に設置。学芸員の﨑本恵里奈さん(35)は「忙しい日常の中、自然の中で椅子に座ってボーッとする。木漏れ日が気持ち良く、音に耳を澄ませていると、胸のわだかまりが解ける気がしませんか?」。
椅子に座ると、頭上の空や緑の茂みが目に入る。鳥や虫の声、水の音に加え、展示しているオルゴールの美しい音も聞こえる。敷地内にはカフェもあり、オープンの午前10時から閉館まで過ごす人もいるという。
六甲山の西、摩耶山でもチェアリングを楽しむことができる。まやビューライン星の駅2階のレンタルグッズショップ「monte702」(TEL078.882.3580)では、アウトドア用の椅子を500円で貸し出している。
展望台「掬星台(きくせいだい)」から眺める絶景や紅葉をめでながら、好きな飲み物を飲んだり、本を読んで考え事をしたり…。自転車のレンタルもあり、山中をサイクリングしながら、途中でチェアリングもできるという。
◇
そもそも、まだ一般に耳慣れないチェアリングという言葉や行為は、いつ「誕生」したのか?
チェアリングの提唱者の一人、フリーライターのスズキナオさん(44)=大阪市=によると、きっかけは、山上の茶屋や川沿いの店で飲酒するたび、仲間と「『場の力』で何倍もおいしいよね」と話していたことという。
それなら「自分たちが移動して『場』をつくればいいのでは」と考え、2016年、ホームセンターで買った千円台の椅子を担いでビーチに行き、海を見ながら酒とおつまみを口にした。
「自分だけの場所を探す楽しさがあり、簡単に撤収できるのもいい」。チェアリングと名付け、体験記をつづると注目された。
「椅子に座ると、見慣れた場所も行き慣れた近所の公園も、景色がいつもと違って見える」といい、兵庫では須磨海岸や摩耶山がおすすめと話すスズキさん。19年には共著「椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門」を出版し、コロナ禍に話題を集めた。
チェアリングについて、アウトドアスポーツやスポーツツーリズムに詳しい岡山理科大経営学部の林恒宏准教授(50)は「コロナ禍で多くの人が身近な自然の価値に気づいた。テントを持っていなくても、気軽に自然の中で幸せを感じることができるチェアリングの人気は、緩やかに持続するだろう」と話している。