兵庫県香美町村岡区板仕野の田中侃市(かんいち)さん(96)が、約60万円の私財を投じて地元の瀞川(とろかわ)稲荷神社に簡易型の鳥居7基を寄進した。境内に点在する大きな細(さざれ)石の「岩神さま」に設置。鳥居はたつの市のメーカーが開発した樹脂製で、腐食の恐れはないという。(長谷部崇)
瀞川稲荷の境内は、礫岩(れきがん)でできた巨岩がいくつもそびえ立ち、本殿も岩をくりぬいて造られている。昔は養蚕守護、現在は五穀豊穣(ほうじょう)や商売繁盛の神社として信仰され、参道には信者が寄進した多くの鳥居が並ぶ。しかし、境内は日陰や湿気が多く、冬は豪雪で、木や鉄製の鳥居は数年で腐食が始まるという。
たつの市の「龍野コルク工業」は、約10年前から軽量で腐らない樹脂製の鳥居を製造・販売している。田中さんは3年前に新聞記事で同社を知り、今年9月に瀞川稲荷への設置を依頼した。
10月30日に田中さんと同社の社員5人が瀞川稲荷を訪れ、昔は餅まきに使ったという高さ5メートルの巨岩など、5カ所に樹脂製の鳥居7基(縦102センチ、横110センチ)を建て、土台をコンクリートで固めた。
田中さんは「そばに鳥居があれば、岩を神さまとして祭っていることも伝わりやすい」と満足げ。かつて人生のどん底を経験した時には毎晩参りに来たという。「最近は独りで来るのは難しくなったが、鳥居は来年も寄進したい」
同社技術部執行役員の山本実さん(65)は「これだけ熱心に神社を守ってきた人に初めて会った。自然石でできた無数の岩神さまがある光景にも感動しました」と話した。