近藤真彦監督「今年は強さが出てきた」高まるヨコハマタイヤの可能性とシーズン集大成となる最終戦もてぎ

 ここ数年、スーパーGTのGT500クラスで急成長を遂げているヨコハマタイヤ。WedsSport ADVAN GR Supraは2021年に2回、2022年に4回のポールポジションを獲得。リアライズコーポレーション ADVAN Zも2022年に1回ポールポジションを手にしている。今季のヨコハマタイヤ、そしてリアライズコーポレーション ADVAN Zのパフォーマンスについて、近藤真彦監督をはじめとしたKONDO RACINGの主要スタッフに聞いた。

 昨年まで予選での速さが際立っていたGT500クラスのヨコハマタイヤ陣営。今年に入ってからは決勝での強さも増し、ライバルを凌ぐ場面も見られつつある。第2戦富士ではリアライズコーポレーション ADVAN Zがアクシデントによる戦線離脱を余儀なくされた残り5周まで表彰台圏内を争う力強い走りを披露し、ヨコハマタイヤが決勝でも力強い走りをみせるようになったと印象付けたレースだった

 続く第3戦鈴鹿では、決勝での強さをWedsSport ADVAN GR Supraが発揮して、チームとヨコハマタイヤに7年ぶりとなる優勝をもたらした。

 一方、不運も重なって結果が思うように出ていないアライズコーポレーション ADVAN Zも、ポテンシャルの高さをしっかり見せつける。第3戦鈴鹿では予選のトップタイムが車両規定違反で抹消され幻のポールポジションとなってしまったが、続く第4戦富士で早くもそのリベンジを果たすポールポジションを獲得。今年の最終戦に加えて来季以降の期待も高まっている。

 そのリアライズコーポレーション ADVAN Zを率いるのが、近藤真彦監督。長年、ヨコハマタイヤとともに戦い、時には悔しい思いを味わい、時には彼らとともに勝利を喜び合ってきた。今のスーパーGTにおいてヨコハマタイヤを、良く知る1人でもある。

 そんな近藤監督は、昨今際立っているヨコハマタイヤの進化をどう見ているのだろうか。

「ひと言で言うと、ヨコハマタイヤは強くなりましたね。今までは(予選での)一撃はあったのですが、それをどう生かすかがテーマでした。リアライズコーポレーション ADVAN Zに限っては、レースも強かったですね」と近藤監督。今のヨコハマタイヤの頑張りを高く評価している様子で、それはライバルチーム首脳陣も同じ考えを持っていると語る。

「他のチームのオーナーたちとご飯を食べに行く機会があると『これまでは予選は速くても、(決勝では)心配はしていなかったけど、今年はこのまま逃げ切ってしまいそうで恐い』と。すごく良かったなと思います」

 その速さを証明するかのようにリアライズコーポレーション ADVAN Zは第3戦鈴鹿の予選で暫定ポール獲得をし、決勝でも大本命と予想されていたが、予選後の車検で失格となり、今季最大のチャンスを逃してしまった。

「あれは速さには関係ないミスだったと思っているので(燃料タンク内の容量の違反で失格)、僕の中では第4戦の富士と合わせて2戦連続でポールを獲れたと思っています。それくらいの速さがあって、今年は強さも出てきました」

 ひと言で強くなったといっても、そこに至るまでの努力は涙ぐましいものがあったという。「良くなってはダメなところが見つかり、また良くなってはダメなところが見つかる……ほんの少しずつの成長です。これはヨコハマタイヤさんの努力だと思いますし、うちのドライバー、エンジニア、メカニックたちの努力もあります」と近藤監督。

 タイヤメーカーだけでなくニッサン/ニスモの手助けも大きいようで、「あとはニスモさんでのシミュレーションも効いています。そういう意味では、シミュレーターの効果も随分と出ています」と、周囲への感謝の気持ちは大きい様子だ。

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同じGT500のヨコハマタイヤ勢、WedsSport ADVAN GR Supraとの関係性**
 一緒に戦い成長していくという観点では、現在のWedsSport ADVAN GR Supraも似たような関係にあるという。

「僕はWedsSport ADVAN GR Supraが第3戦の鈴鹿で優勝した時に、すぐに連絡しました。本当に嬉しくて。同じタイヤメーカーでライバルですけど、お互いバチバチするのは、まだ先(笑)。今は一緒に成長していかないといけないですし、お互い切磋琢磨して良いタイヤを作っていくのが大事です。だから真っ先に電話しました」

 WedsSport ADVAN GR Supraと本当のライバルになるのはまだ先、というコメントには近藤監督なりの美学がある。

「例えば、予選で僕たちが2番手で、彼らががポールポジションだったらバチバチになります。そう言う時は僕たちが、もうひとつ上に行ける可能性があったわけだから、当然悔しくなります。これが僕たちが10番手で、彼らががポールだったら、そこまで悔しくはならない。『(彼らがが速かったということは)うちらにもチャンスがあるということだな』となりますからね。だから、タイトルを争うとか、もっとレベルの高いところに言ってからバチバチになると思います」

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ヨコハマスタッフたちの『アツさ』を感じている近藤真彦監督**
 この数年で、急激にパフォーマンスを上げてきている感じがあるGT500クラスでのヨコハマタイヤ。その原動力となっているのは“現場で開発する人たちの熱量”だ。今のヨコハマ陣営の強みを聞くと、近藤監督はすぐに以下のように答えた。

「チャレンジ精神だと思います。常にチャレンジしているヨコハマが勝ったり、表彰台に上がったり、良いタイヤができた時には、いろいろな人の拍手がほしいですね。スタッフは本当にみんなアツいですよ!」と近藤監督。

 ミーティングに参加しようにも「あまりにアツすぎて、中途半端な状態ではミーティングにいけないですよ(苦笑)」と躊躇するほど、情熱を持ってタイヤ開発に取り組んでいるという。

 その辺は、これまで他のタイヤメーカーでも参戦経験のあるリアライズコーポレーション ADVAN Zの平手晃平も、ヨコハマタイヤにしかない情熱とチームワークを感じているようだ。

「僕は他にもミシュランやダンロップ、ブリヂストンでレースをしてきましたけど、今のヨコハマタイヤさんは、コンパウンド担当と構造担当の技術屋さんが、お互いに歩み寄って良い方向に進んでいるというのが感じられます。そういったところでチームワークがとれていないと、どうしてもお互いのせいにしてしまうし、タイヤをうまく作れない部分があります」

「昨年KONDO RACINGに加わってヨコハマさんと初めてお仕事するようになって、チームワーク自体がどんどん深まっていって、良い連携がとれています。WedsSport ADVAN GR Supraとのデータのシェアも含めて、うまくいっているからこそ、これだけ短期間に進化したのかなと思います」

 今季も、GT500クラスではWedsSport ADVAN GR Supraとリアライズコーポレーション ADVAN Zの2台のみにタイヤを供給しているヨコハマタイヤ。台数が少ないと得られるデータ量が相対的に少なくなるという方向で見られがちだが、近藤監督は“2台だからこそのメリット”もあると指摘する。

「ユーザーが少ないので、その辺の対応が早いです。他のメーカーは(台数が)多いと、なかなかフィードバックが遅かったりします。うちは2チームだけだから『こうしてほしい!』とリクエストを出すと、すぐにやってくれます。その中で、WedsSport ADVAN GR Supraとはクルマが違うので、クセが少し違います。リアライズコーポレーション ADVAN Zに合うものがWedsSport ADVAN GR Supraに合わなかったり、その逆もあったりしますね」と近藤監督。

 リクエストへの対応力という点では、KONDO RACINGの村田卓児エンジニアも高く評価している。

「ヨコハマタイヤは開発スピードと、その体制がいいですね。『こういうタイヤが欲しい』『こういうことをしてみたい』という要望に応えてくれるし、狙い通りのポジションのタイヤを作ってくれています」

 さまざまなことにトライし、それらを経験として蓄積していっているヨコハマタイヤ。その積み重ねが、昨年から今年にかけてのヨコハマタイヤの進化ポイントだと、平手と同じくリアライズコーポレーション ADVAN Zを支える佐々木大樹も第4戦富士でポールポジションを獲得した時に語っていた。

「タイヤというのはいろいろな要素で作られていますけど、その中で指標が大事になってきています。今のタイヤは簡単に『ソフト』とか『ハード』で表せないというところで、どういうコンディションでどのタイヤを持ち込んだらいいのか、今のスーパーGTは難しいです。さまざまな指標があるなかで、どれをどのタイミングに使うのが良いのかを把握できているというのが(ヨコハマタイヤの)一番の進化です。その中で、コンパウンドの進化や構造の進化がいろいろありますけど、一番大事なのは路面状況を把握していることと、それに対してどういうコンパウンを合わせるのかが大事です」

「それがけっこうズレることが多いです。温かいからハード側にしたらソフト側の方が良かったということもあります。スーパーGTではコンディションが刻々と変わるので、それを把握できるようになってきているのは、大きいです」

 気がつけば、上位争いの常連メンバーとなりつつあるリアライズコーポレーション ADVAN Z。ただ、今季は目標としている優勝を達成できておらず、シリーズチャンピオンを狙うとなると、さらに上を求めていかなければならない。その領域に行きつくために、近藤監督が考えるヨコハマタイヤの課題は何なのだろうか。

「もてぎは、ニッサン勢にとって苦手なコースではないです。ある意味でチャンスかなと思っています。あとは冷たい路面温度にハマるタイヤができれば、もう問題ないと思っています。ヨコハマさんは暑い時は本当に得意ですが、それに加えて寒い時にポールポジションが獲れて、そのタイヤでレースが出来てくれれば最高です」

 さらに、近藤監督は力を込めて、このように続ける。

「ただ、僕は“そういうタイヤ”(当たりはずれの大きいタイヤ)は欲しくないです。なぜか分からないけど、1レースだけ飛び抜けたパフォーマンスを出しても、意味はない。やっぱり、自分たちが計算して、『この時期ならこのタイヤ』『この状況ならこのタイヤ』というのが分かっていた方が、将来的には絶対に良いと思います」

 近藤監督の中では、以前のような“シーズンのうちに1勝できれば良い”というチームではなく“チャンピオンを見据えた戦いをしていく”ということを、今のリアライズコーポレーション ADVAN Zとヨコハマタイヤに求めているのだ。

「何年か前までは中盤ぐらいまでトップ争いをしていたこともあります。だから、出来ないことはないです。『なぜか分からないけど、上手くハマったから勝てちゃった』というタイヤはいらない。常にピンポイントに合わせ込めるタイヤ……きっとヨコハマタイヤさんは作ってくれると思います」

 村田エンジニアにも、あえての課題を聞く。

「課題としてはコンディションにちょっと左右されやすい部分があるかなと。それは温度の変化だけでなく、路面の出来具合(ゴムの乗り具合)にも左右されやすい部分があるので、エンジニアとしてはそこを読むのが難しいですね。ただ、それもこちらの経験値やデータも積み重なってきているので、これからうまく活用できるようになると思っています」

 今シーズンも残すところ最終戦のもてぎ大会のみ。ノーウエイトの勝負で予選・決勝ともに鋭い走りをするリアライズコーポレーション ADVAN Zとヨコハマタイヤが今季の集大成を見せる。

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