「ミスターラグビー」の軌跡、鮮やかに 故平尾誠二さんの写真集出版 写真家・岡村さん、撮り続けた35年

「ラグビーを愛し、ラグビーに愛された男」に掲載された写真(岡村啓嗣さん提供)

 南アフリカの連覇で幕を閉じたラグビー・ワールドカップ(W杯)フランス大会の余韻が残る中、日本ラグビー界の中心で輝き続けた平尾誠二さんの写真集が刊行される。競技の枠を超えて人々を魅了し、2016年に53歳で亡くなった「ミスターラグビー」。その活躍を35年間撮り続けたカメラマン岡村啓嗣さん=京都市=は「社会にインパクトを与えられる稀有なスポーツマンだった。W杯イヤーに彼の軌跡を残したかった」と思いを語る。(小森準平)

■出会いは大学選手権

 人物写真を専門とする岡村さんが平尾さんに出会ったのは、平尾さんが同志社大1年だった1982年の東京・国立競技場。大学選手権の準決勝で敗れて悔しがる鋭いまなざしに魅入られ、「10年、20年後の姿を見たい」と思ったという。

 以降、同選手権3連覇や英国留学、常勝集団をつくり上げた神戸製鋼、強豪スコットランドから歴史的勝利も挙げた日本代表時代-と近くで撮り続けた。将棋の羽生善治九段、世界的バレエダンサー熊川哲也さん、ノーベル生理学・医学賞を受けた山中伸弥京都大教授ら、自らが被写体とした各界の第一人者とも積極的に引き合わせ、10歳下の平尾さんの成長を見守った。

■5万枚超の写真

 いつしか親友となった平尾さんが病魔に襲われ、別れは突然訪れた。手元には5万枚超の写真が残り、時がたつにつれ「写真集にまとめておきたい」という気持ちが強くなった。新型コロナウイルス禍で外出がままならなくなり、くしくも時間が生まれた。大半がフィルムで撮った全ての写真を見返し、出版用に一枚一枚スキャンしていった。

 写真集は「平尾誠二 ラグビーを愛し、ラグビーに愛された男」と名付け、いつも渦の中心にいた選手・リーダーとしての歩みを時代ごとに収録した。一方、多彩な人々との交流の様子などが分かるプライベートショットも盛り込んだ。つながりのあった多くの人たちが、この写真集の賛同人にも名を連ねている。

 「生き方が純粋で、人間の可能性をとことん追求していた。あれほど格好良くて、魅力的な人物はいなかった」と岡村さん。早すぎる死から7年が過ぎ、「人々の記憶が薄れていくのはやむを得ない」とした上で「この写真集で彼の存在を心に刻んでもらえるとうれしい」と力を込めた。

 A4判上製216ページ、4950円(税込み)。8日から兵庫や大阪の主な書店で並ぶ。神戸新聞総合出版センターTEL078.362.7138

【平尾誠二さん】1963年、京都市出身。ラグビー日本代表などで不動の司令塔として活躍した。京都・伏見工業高(現京都工学院高)で全国制覇し、同志社大で大学選手権3連覇、神戸製鋼では89年から日本選手権7連覇を達成。W杯には87年から3大会連続で出場した。97年から2000年まで日本代表監督。神戸製鋼ラグビー部のGMなども務めた。16年死去。11日には、山中伸弥京都大教授との交流を描いた書籍「友情」を基にしたテレビドラマが放映される。

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