認知症になっても働くことはできる? 専門家とともに考える認知症の社会参加の可能性

TOKYO MX(地上波9ch)朝の報道・情報生番組「堀潤モーニングFLAG」(毎週月~金曜6:59~)。「激論サミット」のコーナーでは、“認知症患者の社会参加”について専門家を交えて議論しました。

◆政府も注視…間近に迫る認知症社会

2年後には高齢者の5人に1人が患うとされている認知症。政府もその動向を注視し、岸田首相は認知症についての取り組みを経済対策に盛り込むと明言。そうしたなか、世間では今年9月に承認された治療薬「レカネマブ」への期待の声があがっています。「レカネマブ」はアルツハイマー病の進行を緩やかにする効果が期待されている薬で、認知症の専門外来がある「アルツクリニック東京」の新井院長は「レカネマブ目当てでクリニックを訪れる方が多い」と話しています。

高齢化社会が進み、企業にとっては働き手の確保が課題となるなか、早くから認知症治療を希望する人が増加し、政府も予防と共生を強化していく方針を示していますが、認知症患者が社会参加を進めるためには何が必要なのか。この日は認知症の社会参加を進める取り組みを行う「BLG八王子」の守谷卓也さんをリモートゲストに迎えて議論しました。

認知症の症状には4段階あり、「MCI」と言われる軽度認知障害は認知機能の低下はあるが生活には支障なく、「認知症初期」は認知機能が低下し、社会生活に支援が必要です。さらに、「認知症中期」になると日常生活に障害があり、介護が必要で、「認知症後期」となると常に介護が必要となります。

そこで、「BLG八王子」ではどの段階の認知症患者の社会参加を促しているのか聞いてみると、守谷さんは「特に線引きはせず、(本人が)社会参加したいという思いがあれば、いろいろな手段を使って社会参加活動を行っている」と回答。また、番組SNSへ寄せられた視聴者からの「認知症でも働かないとダメなの?」との声に対しては「多くの方は働きたいというよりも人の役に立ちたい、社会と繋がっていたいという思いが多いんじゃないか」と守谷さん。

◆認知症の社会参加を阻む障害とは?

では、認知症の人たちの社会参加の障壁となっているものは何か。気象予報士でフリーキャスターの根本美緒さんの意見は「より細かなステージの把握」。

認知症と言っても度合いが異なり、前述の各分類のなかでもそれぞれできること・できないことが違うため「まずは(認知症の本人が)自分のことを把握し、なおかつ家族や会社などみんなが把握すれば、この人はここまでできるからお願いして、これから先は他の人に任せようと、そういうことに繋がるんじゃないか」と推察。

一方、ジャーナリストの春川正明さんは、自身も含めた「知識不足」を指摘。「社会全体が(認知症は)"何もわからなくなっている人”という思いがあったと思うが、そうではなく、感情的にもセンシティブで、社会の役に立ちたいという思いもあるし、人によって違う」とそれまでの考えを反省。「認知症は一律のものではないことを含め、ちゃんと認識することが大事」と主張します。

アフリカの紛争問題を研究する東大院生の阿部将貴さんも同様に、「(認知症は)わかっているようで実はよくわからない」ことを危惧。

その上で、「認知症は当事者と非当事者しかいない。他の病気では克服した人の体験談などがあるが認知症ではない。そこが難しい部分で、そうしたなかで当事者に非当事者がいかに近づいていけるか」と課題を示すと、キャスターの堀潤も「『私』が知らないことが多すぎる」と同意します、

こうした意見に守谷さんは、まず"本人が認知症を把握すること”について「受け入れることは大事だと思うが、まだまだ社会の偏見があり、認知症であることが恥ずかしかったり、マイナスな思いが強くあったりする」と苦慮。

そして、「自分が認知症であることを人に言わなくていいかもしれないが、社会が認めてくれる、偏見がなくなると(本人も)認知症であることを受け入れやすくなると思う」と切望。認知症患者への接し方については「特別な人というイメージがありますが、普通に接してもらえれば大丈夫」と話します。

認知症の専門家である「アルツクリニック東京」新井院長によると、軽度はおおよそ5年、中等度は5~8年の間続くなか、中等度でも初期であれば仕事をすることが可能だそう。そして、「認知症になったから仕事ができないというわけではなく、認知症になっても5~8年くらいは仕事ができる。まずは世間の誤解を取り除かないといけない」と注意を促します。

◆働き盛り世代に多い若年性認知症の実態

認知症には、65歳未満が発生する"若年性認知症”もあります。これは働き盛りの40~50代に多いと言われていますが、発覚時に就労している場合、職場でどんな配慮が行われていたのかを調査したアンケート結果を見てみると、「いずれの配慮もなかった」が最多の22.9%。そして、会社の意向、自身の希望を含め、発症者の67.1%が退職を余儀なくされており、"認知症=高齢者の病気”という認識が強く、適切な対応がとられていないケースが多いそうです。

また、認知症患者が必要だと考える場所を聞いてみると、「外出や趣味が楽しめる場所」が43.6%で最多。そして、4人に1人が就労に近いようなことができる場所を求めており、社会参加へのニーズが高いことが見て取れます。

「BLG八王子」では、「イトーヨーカドー八王子店」と連携し月に1回程度お店の周囲の剪定を行うなど、認知症の方々がさまざまな活動に従事。その様子を取材してみると、みんな笑顔で楽しそうに取り組んでいる姿が見られ、そうした活動のほとんどは有償ボランティア。そこに大きな意味があるそうで、「福祉というと無償ボランティアが文化として成り立っていたが、謝礼金・報酬をいただくことが(認知症患者が)社会との繋がりを感じる一番の部分だと思う」と守谷さん。

ただ、難しい部分も多々あり、企業や相手団体のニーズに合うかは重要で、守谷さんは「働くということが一人歩きしてはいけないし、(何より認知症患者が)社会と繋がることが大事だと思うので、そこは気をつけていきたい。自治体との連携に関しても、やはり本人を中心にすることが大事」と言います。

今後は認知症患者がより一層増加していくなか、堀は対価報酬の体系の見直し、再構築が必要なのではないかと意見すると、守谷さんも「我々はまだ有償ボランティアというところまでしか認められていないが、今後はそうしたことも課題になると思う」と同意。そして、「今は企業も人手不足で、認知症のある方も働ける機会をいただいているが、やはりまずは企業側がこうした取り組みを理解すること、ノルマなど生産性が優先されてしまうと(認知症患者が働くのは)難しいと思う」との懸念も。

◆認知症患者が社会参加するために必要なこと

認知症の方が社会参加するためには何が必要か。今回の議論を踏まえ、コメンテーター陣に聞いてみると、阿部さんは「若者が接点を持つこと」。より柔軟性が高い小学生の頃から認知症の方々と触れ合う機会を設け、なおかつそれができなかった今の若者世代に対しても「自主的に認知症の方に話を聞いたり、一緒に何かをするワークショップを企画したりして理解を深めていければ良いと思う」と理想を語ります。

春川さんは「認知症は私も含め、"サポートをする人とされる人”で分けてしまうが、サポートしている人がサポートされることもたくさんあるので、この考え方を変えないといけない。それこそ共に生きる社会が大切」と主張。

春川さんの意見に、堀は「私も当事者になる未来もあるので、そういう目線を持ち続けたい」と大きく頷きます。

根本さんは、認知症患者を「社会で守っていく仕組みづくり」を提言。「(認知症であることが)恥ずかしいとか言いたくないとか、そういう気持ちを取り払ってあげる社会づくりが重要で、家族だけではなく地域や会社、みんなで支えていく雰囲気づくりを」と望みます。

これらの意見を聞き、総じて守谷さんは「認知症というフィルターを外し、認知症の方たちと一緒に活動することが大事だと思うし、フラットな関係で同じ時間を共有することが大事だと思う」と自身の見解を述べます。また、長年認知症の方々と携わり、気づいたことを聞いてみると「私も以前は偏見があった」と告白。そして、「でも、(認知症の方の)声を聞いて、共に活動することで、本人たちが持っている力が計り知れないものだということに気づき、今もいろいろなことを学ばせてもらっている」と守谷さん。

最後に、今、国政や自治体、行政に求めるものを聞いてみると「岸田首相も話していたが、認知症患者本人の尊厳を保持しながら、希望を持てる暮らしを実現してもらいたい」と話していました。

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<番組概要>
番組名:堀潤モーニングFLAG
放送日時:毎週月~金曜 6:59~8:30 「エムキャス」でも同時配信
キャスター:堀潤(ジャーナリスト)、豊崎由里絵、田中陽南(TOKYO MX)
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/morning_flag/
番組X(旧Twitter):@morning_flag
番組Instagram:@morning_flag

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