社説:日中平和条約 不信感を拭う対話を広げよ

 「すべての紛争を平和的手段で解決する」とうたった日本と中国の平和友好条約の発効から先月、45年の節目を迎えた。

 しかし現実の日中間には多くの難題が横たわり、不信感が漂う。だからこそ、条約の精神に立ち戻って相互関係の将来を考えたい。

 日中平和友好条約は、両国関係の基礎となっている四つの政治文書の一つだ。

 最初の文書が1972年の国交正常化を規定した日中共同声明で、日中平和友好条約の締結は78年だ。前文と5条からなる短い文書だが、国交正常化から6年の交渉が必要だった。

 この間の両国による知恵の出し合いには、学ぶべきところが多くある。

 中国は当時、対抗関係にあったソ連を意識して覇権反対を明記するよう主張した。

 一方、北方領土問題を抱える日本は、ソ連との対立のエスカレートを避けようと明記に難色を示した。

 最終的に、日中は互いに覇権を求めず、覇権を確立しようとする他国の試みにも反対することを確認し、それが第3国との関係には影響しない-との条項も設けた。

 こうした互恵の精神に基づく工夫が、日中関係の基礎になってきた。近年の日中間の課題でも、同様のアプローチが必要なのは明らかだ。

 この間、両国の経済関係は相互依存を強めた。中国は2010年に国内総生産(GDP)で日本を抜いて世界第2の経済大国となって、今や日本にとって最大の貿易相手国、中国にとっても米国に次ぐのが日本だ。

 一方、政治的には難しい局面が続く。沖縄県・尖閣諸島を巡る対立などは日中双方の国民感情をささくれ立てている。

 中国は近年、対外的に威圧的な行動が目立つ。習近平政権は、国内でも14年施行の反スパイ法を使い日本人会社員らを拘束するなど、強権的な政治運営を進めている。

 東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出を受け、中国が日本産水産物の輸入を停止したことも、両国関係の悪化に拍車をかけた。

 一方、米国と中国は今月末、米サンフランシスコで首脳会談を開くことで原則合意した。米中も台湾や半導体などを巡って激しい対立を続けているが、衝突回避のための対話は継続している。

 日中間もあらゆる外交チャンネルを用い、いかなる対立テーマも多層的な議論を重ねる必要がある。

 先月、日中の有識者が議論した「東京-北京フォーラム」は、日中間の「常設対話のシステム」の設置を柱とする北京コンセンサスを採択した。

 両国政府の頻繁な対話を通じた日中平和友好条約の強化、補強を呼びかけている。示唆に富む提言ではないか。

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