住宅ローン、返済比率20%でも赤字に転落…住宅購入を進める前に知っておくべき予算の立て方

住宅購入を予定しているAさん(39歳)。住宅メーカーへ相談する際、どれくらいの予算を想定すればいいのかを相談しに、ファイナンシャルプランナーの筆者のもとに相談に来られました。住宅ローンの借入額がいくら位までであれば、無理なく返済できるのかが気になっているそうです。Aさんのご家庭の家計状況と今後の対策についてみていきましょう。


【相談内容】

新築戸建て住宅の購入を予定しています。これからどんな家がいいかを検討するにあたり、購入予算の目処を立てたいです。わが家が無理なく返済していける住宅ローン借入額の目安を知りたいです。

【相談者プロフィール】

・性別:女性

・年齢:39歳

・職業:会社員

・家族構成:夫(40歳・会社員)、8歳と6歳の子2人

・住居:関東(賃貸)

【収入】

手取り収入合計:年間812万円

・毎月の世帯の手取り金額:54万円(夫の月収38万円、妻の月収16万円程度)

・年間の世帯の手取りボーナス額:140万円

・児童手当月額2万円

【支出】

・毎月の世帯の支出目安:47万円

(内訳)

・住居費:5万円

・食費:10万円

・水道光熱費:3万円

・教育費:6万円

・保険料:6万円

・通信費:2万円

・車両費:3万円

・お小遣い:6万円

・その他:6万円(日用品・趣味娯楽費)

【世帯の資産状況】

・現在の預貯金総額:600万円(毎月の貯蓄額:5万円)

・現在の投資総額:500万円(毎月の投資額:4万円)

・現在の負債:なし

相談者の方の現状をもとに、購入予算の立て方について、確認していきましょう。

年収から考える住宅ローンの借入可能額

住宅ローン借入可能額を考える際の一般的な考え方として、「返済比率」があります。返済比率は「すべてのローンの年間返済額÷年収×100」という計算式によって求めることができます。一般的に、無理なく返済していくための返済比率は20~25%程度と言われています。

相談者様の場合、ご主人様が単独で住宅ローンを組むことを希望されています。ご主人様の税込年収は800万円のため、返済比率が20%となる年間返済額は160万円、月額13.3万円です。

例えばフラット35を利用し、以下の条件で毎月の返済額が13.3万円となるようローンを組む場合、概算で4,002万円が借入可能となります。

<シミュレーション条件>

・新機構団信つき

・金利2.02% ※2023年10月現在

・融資率9割超

・返済期間35年

・元利均等返済

ライフプランで全体像の把握が不可欠

年収から住宅ローンの借入可能額の目安を算出することはできますが、あくまで目安として捉えましょう。年収が同じであったとしても、支出や貯蓄状況などによって、住宅ローンの返済に充てられる金額は異なります。

また、子どもの教育プラン、車の購入など、ライフイベントとそれにかかる費用はご家庭により様々です。ご家族にとって、希望の住宅購入を叶えることだけが目的ではないはずです。子どもの教育にかけるお金、老後資金、余暇に使うお金など、他にも大事にしたいお考えがあるでしょう。

今後、家計の状況変化や、ライフイベントにかかる思わぬ支出が発生したとしても、住宅ローンの返済を中断するわけにはいきません。

住宅ローンの借入額を考える際には、現在から将来までの「収入」「支出」「資産」「負債」の全体像を把握した上で検討することが欠かせないのですが、多角的な視点から見る必要があるので、お客様ご自身では難しいケースもあるでしょう。そんな時は是非ファイナンシャル・プランナーを頼っていただければ嬉しいです。

今回のケースでも、上記の必要性について相談者様にお話し、ライフプランを作成した上で無理なく返済していける住宅ローン借入額の目安をお伝えしました。

住宅購入後の収支状況を確認

返済比率を元に算出した借入可能額である4,000万円の住宅ローンを上記条件にて組み、4,000万円の住宅(土地を含む、諸経費は自己資金より充当)を購入した場合のライフプランを作成しました。

すると、教育費の負担が大きくなる第二子大学進学時に赤字へ転落、預貯金のマイナス額が最大で400万円となり、住宅ローン返済の継続が困難になることが判明しました。現在はご主人の勤務先の住宅補助が手厚く住宅費が少ない一方、生活費と趣味娯楽費が多く、全体的に支出が膨らんでいます。

資産形成を行っていますが、個人年金保険などの老後への備えが手厚くなっており、預貯金額や、今後負担が大きくなる住宅費と教育費への備えが十分ではありません。

このままでは住宅ローンを抱えることに対してリスクが高いことがわかり、支出の改善と、資産運用の見直しが必要であることをお伝えしました。

早めの対策でより安心な住宅購入計画を

今回のケースでは、支出の改善のために固定費の削減から進めていきました。格安SIMへの切り替えと、保険の見直しで月2万円の削減効果が得られました。また、資金が必要なタイミングで現金化しやすいように、個人年金保険を解約し、NISA制度を活用した住宅ローンの返済にも無理のない資産運用を行っていくプランをご提案しました。

支出の改善と資産運用対策を行うことで、住宅ローン返済とライフイベントの両立が叶うライフプランとなりました。これはライフプランを作成し、「収入」「支出」「資産」「負債」の全体像を把握できたからこその成果です。相談者様も課題が明確になったことで安心され、「住宅購入の実現に向けて取り組んでいきたい」と前向きに行動を起こされています。

せっかくご自身の家を持つのですから、理想の暮らしを叶える家に住みたいものです。希望の住宅購入を叶えるためにも、ライフプランを元に資金対策を立てていくことが効果的です。

住宅購入とライフプランを叶える秘訣

住宅ローンの借入可能額を想定することを目的とされていた相談者様ですが、思わぬところに家計の課題があることがライフプランの作成を通してわかりました。

住宅購入を検討しはじめると、流れに巻き込まれてしまい、落ち着いて考える間もなく選択を迫られます。焦って判断を誤らないために、事前にゆっくり家族のお金と向き合うことが、住宅購入とライフプランを叶える秘訣です。

これから住宅購入を検討される方は、理想の住宅購入を安心して叶えるために、ライフプランを立てて家計全体を把握した上で住宅購入計画を進めることをお勧めします。

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