37都道府県から来訪、リピート率26%… 人流データが語る館鼻岸壁朝市(青森・八戸市)の集客

 館鼻岸壁朝市の集客力がまざまざと─。全国屈指の規模とされる朝市が開かれる同岸壁(青森県八戸市)の人流データを東奥日報社が分析した。昨年9月からの1年間で、岸壁を訪れた人の居住地は37都道府県にも。観光関係者は、朝市の特性を生かしてより戦略的な周遊観光の構築が期待できるとの見方を示した。

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 データ分析には、携帯電話大手KDDIなどが提供する人流分析ツール「KLA」を利用した。昨年9月から今年8月までの1年間、「館鼻岸壁への来訪者」について、推計人数、居住地、再訪回数などを調べた。時間帯は、朝市が開催される午前5時から同9時までに限定した。対象は国内に居住する20代以上で、訪日外国人は含まれていない。一方、出店者側も地元客も青森県外からの観光客らも同様に集計されている。

 まず、1日当たりの推計来訪者数をグラフ化すると、朝市が開催される日曜日ごとに人出のピークが現れる。1月から3月上旬までの冬季休市期間はほとんど訪れる人はなく、3月の朝市再開とともに、日曜日のにぎわいが際立つようになる。最も来訪者が多かったのは昨年9月第3日曜日でデータが示す6千人を超えた。

 1年間の人出の推計は延べ約15万6千人。このうち、岸壁を複数回訪れた人の割合を示すリピーター率は約26%で、大半は2回の訪問だった。

 来訪者を居住地別に見ると、青森県内が延べ約12万3千人で8割近くを占め、次いで岩手県が8.1%。東京都、宮城県、北海道、秋田県、神奈川県、埼玉県、千葉県までが千人を超えた。最も遠いのは沖縄県。九州はこのほか、熊本県、宮崎県からも来訪者があった。

 今回のデータ分析について、朝市を運営する湊日曜朝市会の慶長春樹理事長(71)は「来場者の居住地などの詳しい調査はこれまで行われておらず、本当に遠くから来てもらっていることがあらためて分かった。(集客力は)大したものだと思う」と語り、その上で「これからも受け入れ態勢をしっかりと整え、全国からお客さんを迎えたい」と力を込めた。

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KLA(KDDI Location Analyzer) auスマートフォン契約者のうち、利用許諾を得た衛星利用測位システム(GPS)位置情報を基に、調査エリア内の滞在人口などを拡大推定する。集計に当たっては、個人を特定できない処理を行っている。

熱気・食の魅力 口コミで拡散

 全国各地から観光客を引きつける館鼻岸壁朝市。インターネット上の情報をきっかけに訪れた人々が、300店余が出店する熱気と多彩な食の魅力などに圧倒され、さらにネットに情報を拡散していく循環が生まれているようだ。

 「モモが20個1500円。野菜もすごく安くて、ついつい買い過ぎた」。9月のある日曜早朝、朝市会場を一巡りした那覇市の坂本盛男さん(67)はにっこり。

 キャンピングカーでの日本一周旅の途中、ネットで朝市の存在を知り、前日から会場に泊まり込んだという。「全国1位、2位を争うような規模と聞き、楽しみにしていた。想像以上だったのでまた来たい。知人にも教えたい」

 大型バイクで熊本県から訪れた吉井嘉基さん(27)も、ネットで朝市を知った。旅行中、フェリーで北海道函館市から青森県に渡り、朝食を取ろうと立ち寄った。「(八戸の朝市は)想像よりも規模が大きい。函館で魚介類はたくさん味わったけど、また食べたくなった」と笑顔を見せた。

 湊日曜朝市会相談役の上村隆雄さん(70)によると、2004年の館鼻岸壁でのスタート当初から一定数の県外客はいたが、現在は2割ほどまで増えたのでは─とみている。

 県外客を引きつける魅力は「八戸ならではの食」と指摘。「特に都市部の人には、ここにしかない素朴な食材や料理は新鮮に映る。八戸は全国の観光名所ほど宿泊代も高くなく、新幹線など交通の便もいい」と読み解く。

 サッカーJ3・ヴァンラーレ八戸との関連を挙げるのは、朝市で20年来コーヒー店を出店している佐々木良市さん(75)。八戸開催のアウェーゲーム観戦に合わせ、毎年のように朝市の店を訪ねてくる常連がいるという。「初めて朝市を訪れるサポーターは、例外なく出店や人出の多さに圧倒されますね」。そんなサポーターが知人などに口コミで朝市の魅力を広めているのでは─と推測した。

体験と発見 まさに旅のトレンド/秋田佳紀・青森県観光国際交流機構専務

 館鼻岸壁朝市は、ネット情報や観光パンフレットでは把握しきれない面白さ、奥深さがあり、行くたびに新たな発見がある。体験・発見型という現在の旅のトレンドに合っている。また、観光政策で重視される要素は「宿泊」「消費」「再来性」とされるが、これらを全て満たす。人流データで全国的な誘客力がはっきりと裏付けられ、観光資源としてのすごさを改めて認識した。この魅力はインバウンド(訪日客)にも広がり、行きたい場所の一つになっていくのではないか。

 朝市観光は早朝で一区切りがつくので、その後の時間をどう使ってもらうか、独特の生活文化に触れて気持ちが高まっている人たちをどこに誘導するか。朝市を起点とした周遊観光を戦略的に考え、一層の地域振興へつなげてほしい。

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