社説:少子化対策 「異次元」の的外れにならぬか

 京都市は、女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率が1.15(2022年)になったと公表した。6年連続の低下で、出生数は8千人余りにとどまり過去最少を更新した。

 全国でも同じ流れだが、特に京都市は子育て世代の市外流出も加わり、少子化が象徴的に表れている大都市といえよう。

 人口の急減は社会、経済に大きなひずみを招く。減少速度をゆるやかにする方策は重要だ。

 にもかかわらず、岸田文雄首相が鳴り物入りで進める「異次元」の少子化対策への期待は一向に高まっていない。共同通信の8月世論調査では約7割が期待感を示さなかった。

 巨費を投じるのに、中身は寄せ集めの域を出ない上、安定財源が見通せないからだろう。大盤振る舞いはいつまで続けられるのか。子育て世代の不安は逆に高まっているのではないか。

 規模ありきでなく、施策の目標と中身を再検討し、裏付けとなる長期財源を確保すべきだ。

 岸田氏は先週の国会でも少子化対策の財源を繰り返し問われたが、「実質的な追加負担を生じさせないことを目指す」と曖昧な答弁でかわし続けた。

 一方で政府・与党は社会保険料に年6千円程度上乗せする「支援金」新設や社会保障の歳出改革、国債発行を検討する。

 政府が6月にまとめた異次元少子化対策(こども未来戦略方針)は、1.2兆円を要する児童手当の所得制限撤廃・拡充や、育児休業支援などで3年間に3.5兆円程度かかる。

 支援金は、肝心の子育て世代の手取り収入を減らす上、歳出改革は医療や介護の給付減・負担増につながり、借金は次世代へ負担の押しつけになる。

 それでも一時的な財源の捻出にとどまり、持続可能な制度とはなるまい。安心して出産・育児をする環境整備にはほど遠く、現実離れという意味の「異次元対策では」との声さえ聞く。

 出産適齢期の女性自体が減っているため、出生率が多少改善しても人口減少にブレーキはかからない。「半世紀かけて低落した出生率の回復には、それ以上の時間が必要になる」と専門家は指摘する。歴代政権が思い思いに繰り出した少子化対策も、効果を上げなかった。

 新聞通信調査会の全国世論調査では、少子化対策について「本腰を入れるべきだ」が42%に上る一方、「一定程度必要だが、過度な財政投入は控えるべきだ」(19%)、「少子化・人口減は政策では解決できない」(15%)との回答が続いた。

 政治は過剰な幻想を振りまかず、産みたい、育てたいという人が思いをかなえられる社会に向け、非正規と正規の賃金格差是正、男性の働き方改革、子育ての社会化などに長期的視野から地道に取り組む必要がある。

 併せて、人口減を前提とした国家戦略も考える時だろう。

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