按針と家康

 NHK大河ドラマの「どうする家康」に、徳川家康の外交顧問を務めた英国人ウィリアム・アダムス(日本名・三浦按針(あんじん))が登場した。按針は平戸を拠点に海外貿易に携わった本県ゆかりの人物だ▲ドラマでは、日本に漂着した按針と家康が対面。按針が「商いで互いの国を豊かにして国と民を富ませられる」と説けば、家康は目を輝かせて聞き入り、意気投合する様子が描かれた▲近年、海外資料の研究が進み、按針の実像が明らかになってきた。国際日本文化研究センターのフレデリック・クレインス教授の著書「ウィリアム・アダムス」によると、若き日の按針は、ドレーク率いる英国海軍がスペイン無敵艦隊を破ったアルマダ海戦に参加していた▲そもそも日本に漂着した船に乗り込んだのも、南米のスペイン拠点を襲って財宝を奪い、それを元手にアジアで貿易をする算段だったらしい▲按針には交易への熱い思いはもちろん「青い目のサムライ」にふさわしい勇敢さや豪胆さも備わっていたのだろう。戦国の世を生き抜いた家康は案外、そんな気風を気に入り側近に取り立てたのかもしれない▲平戸市には按針のものと伝わる墓があり、命日に近い5月下旬には市民が「按針忌」を開いて追悼している。按針もまた、長崎県が大切にしたい国際交流の記憶である。(潤)

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