「涙が出るくらい感動させる 観客の琴線に触れる」J2なのに観客数“ほぼ過去最高”の30万人超え! 清水エスパルス『リアル半沢直樹』山室晋也社長の秘策

J1自動昇格圏の2位で、最終節を迎える清水エスパルス。2023シーズンホーム最終戦も18,431人が観戦に訪れ、チケットは完売しました。エスパルスのホームゲームの年間の観客動員数の推移をみると、J1リーグ時代の2010年、長谷川健太監督(現名古屋グランパス監督)の最後の年に最多の30万6,022人を記録しました。

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2020年にコロナ禍になると、観客数は激減しましたが、2023シーズンは、国立競技場での主催ゲームでJ2リーグ記録となる47,628人を集めるなど、過去最多にほぼ並ぶ30万2,235人を記録しました。しかも、J2リーグなのに、なぜ、観客数は“ほぼ過去最多”となったのか。『リアル半沢直樹』と呼ばれる社長と社員が取り組んでいたのは、ファンのすそ野を広げる経営でした。

10月28日に行われたエスパルスのホームゲーム。試合開始2時間前にも関わらず、早くもIAIスタジアム日本平を訪れ、記念写真を撮るサポーターの姿がありました。掲げたタオルには、「96年組」という文字が。

<サポーター>
「いまのエスパルスの中心になっている“96年組”の選手たちの企画で作られたタオルです。ぼく自身も同じ1996年生まれ。彼らへのみんな応援してるって思いを伝えたくて」

記念写真を撮っていたサポーターは、もともとは知り合いではありません。エスパルスがクラブ創設後初めてタイトルを獲得した1996年に生まれた選手を応援する「#96年組」と呼ばれる“推し活”をきっかけに集まった仲間たちです。

3年前から始まり、SNSで広がりを見せるこの“推し活”。仕掛けたのは、エスパルスの社員です。

<エスパルス 髙木純平広報部長>
「種を落としていっているイメージですね。社員が発信するのも正直、限界があります。(お客さんの)コミュニティ醸成につなげたいですね」

SBSのカメラは、ゲーム当日のエスパルス運営の舞台裏を撮影することが許されました。

「チームが強くないと客は入らない?」スポーツビジネスの“通説”を覆せ

<エスパルス社員>
「エスパルスのハロウィーンは、“パルウィン”といいます。パルの意味は、もちろん仲間。ウィンは勝つということで、サポーターのみなさんと勝利に導けたらなと思います。ハッピー・・・」
「パルウィン!」

この日、社員の発案で行われたのは「ハロウィーンイベント」。スタッフが仮装して、観客を出迎えます。山室晋也社長も仮装します。“推し活”も、“仮装”も観客に「スタジアムに来て楽しかった」と思ってもらうためです。

<エスパルス 山室晋也社長>
「(観客が)ここに来て明るく声かけてもらったり、もちろん勝った時に一緒になって喜んだり。そういう特別な空間だと思うんですよ。特別な体験をして、思い出を作るってものすごく大事なこと」

山室晋也さん。みずほ銀行の元役員で『リアル半沢直樹』と呼ばれた手腕を買われ、プロ野球・千葉ロッテマリーンズの社長に。球団初の単独黒字化を達成し、2020年1月にエスパルスの社長に就任しました。

そして、就任から4年目となる2023年、コロナ禍などの苦難を乗り越え、年間の観客動員数は、2010年の過去最多にほぼ並ぶ30万人を記録しました。

「チームが強くないと客は入らない?」
「スーパースターがいないとファンは増えない?」
そんなスポーツビジネスの“通説”を覆しそうと山室社長が取り組んだのは、社員のアイデアが実現できる組織づくりでした。

“サッカー王国”にあぐらをかいて井の中の蛙だったことは否めない

エスパルス本社の会議室に集まったのは、スタジアムを毎試合満員にすることを目的とした全社横断のプロジェクト「フルスタジアム プロジェクト」の面々。営業や広報など5つの部署からアイデアを持つ有志が集まり、新たなファンサービスを考えます。

<エスパルス 髙木純平広報部長>
「組織の中って縦割りになっているようなことって往々にしてあると思うんですけども、コミュニケーションをとることによって、みんながやりたいことが実現しやすくなっていくっていうことが、身をもって、いま、実感しています」

このプロジェクトを立ち上げたのは山室社長。就任時に感じたことがきっかけだったといいます。

<エスパルス 山室晋也社長>
「ものすごく伝統がある名門のチームだと思いますけども、また、静岡の、サッカー王国静岡というところに、私からみると、ややあぐらをかいて、井の中の蛙的な要素があったことは否めないと思います。組織の垣根を超えて同じベクトルに向かって議論していくというのが大きな狙いでした」

例えば、毎試合配られている「バースデーステッカー」。誕生月の人に記念のステッカーを渡し、スタッフや周囲から祝ってもらうというシンプルな取り組みです。

社員のアイデアから生まれた企画は、サッカーに詳しくない人たちを取り込み、ファンのすそ野を広げました。

<来場者>
「いい思い出になりました」

ほかにも、2023シーズンからナイトゲーム全試合で実施した光でスタジアムをオレンジ色に染める「ラランジャ ギャラクシア」。

スタジアムでしか食べられない選手プロデュースのメニューなど、IAIスタジアム日本平を訪れなければ体感できない演出の数々はすべて社員の発案です。

<初めて観戦に訪れた客>
Q.初めて来てみていかがでしたか?
「楽しかった。試合見てるのが楽しかった。応援もすごかった」
「入場の音がすごかった」
Q.また来たいか?
「また来たい」「また来たい」

長年、エスパルスで働く社員も手応えを感じています。

<エスパルス 石田祐理子さん(入社23年目)>
「サッカーを見るのもすごく迫力がありますけれども、それ以外の演出の部分も楽しいと思ってくださっている若い世代が増えてきたのかなと感じています」

「静岡が誇るクラブに」

<エスパルス 山室晋也社長>
「あの手、この手で、涙が出るくらい感動させるっていうのが秘訣かなと。観客の気持ちに琴線に触れるようなとこ。ものすごくうれしかったり感動したりという、そういうシチュエーション作っていければなと思います」

チームはいつも強いとは限らない。負けることもありますが、いかなる時もファンを楽しませ、感動を最大化する仕掛けを社員一丸で提供しているからこそ、多くの人がスタジアムに訪れるのではないでしょうか。

2023シーズンは、グッズや飲食店の売上高も過去最高を更新する見込みで、スポンサーの数も500社以上と、右肩上がり。山室社長は「ファンを増やすことで生まれる収益を、クラブ強化に還元する好循環を実現し、静岡が誇るクラブにしたい」と話しています。

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