「ハンドルを切ったまんま左の方へ、慌てて右の方へ」方向転換でバランス崩れ2~3秒で山車横転か 引き手が感じた“異変”「涙、出ちまうよ…」悔やむ住民

3連休の初日、静岡県伊豆の国市で祭りの山車が横転し、19人が死傷した事故。山車は、地元の消防団を中心に坂の上で、方向転換する作業中にバランスを崩して、坂を下り始め、転倒まで2~3秒ほどだったことが、関係者への取材で分かってきました。長く祭りに携わってきた地元住民は、犠牲者を出した山車の転倒に悔しさをにじませます。

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「あそこの坂ってわりと短いんですけど、急なんです。出だしが。だから、あまりにもワーッと来たときから横転するまで短い時間だった。2秒か、3秒くらいの間にクックッっと」

こう振り返るのは、事故当時、山車の間近で綱を引いていた男性です。

突然起きた“異変”

3連休が始まった11月3日朝、伊豆の国市田京で祭りの山車が坂道で横転しました。運行に携わっていた男性(72)が胸から腹部を強く圧迫され、死亡。山車の上から転落したり、巻き込まれたりして、5人が骨盤骨折などの重傷、小学1年生の児童1人を含む13人が軽いけがをしました。

山車の引き手として参加した75歳の男性は、運行に違和感を感じながら、坂の上から山車に近づいた時、“異変”が起こったといいます。

「上から1人で見ていて、方向転換もチンタラやっているから眺めていた。『大丈夫かな』と思ってね。それで(引き手が)みんな坂の下に行っちゃったから、おれも下に下っていた。そうしたら、何か音がしたんだ。『キーキー』とか、『ドスン』なんてしたから、とっさに山側に倒れただよ。横を見たら2人いて、血を流している人もいるし、自分はどうかと見たら、血が出ているし、ひざの上も痛みを感じたもんで」

右手から出血したものの、軽傷で歩いて帰宅できた男性。ただ、山車や自分に何が起きたのか、まったく覚えていないといいます。

この異変の様子を、山車の前方にいた引き手の男性が証言しました。

「ただ、あそこの坂ってわりと短いんですけど、急なんです。出だしが。だから、あまりにもワーっと来たときから横転するまで短い時間だった。2秒か、3秒くらいの間にクックッっと」

Q最初に前につんのめるように倒れて、横に倒れた?
「車でいったら、左の前輪を軸に、右の角が斜面にドンとぶつかって、お尻が前に出ていくように横転した。ですから、上でしゃぎりを打っていた人は、投げ出されるように前へ飛んでった感じだった」

Q山車は亡くなった男性が引いていた側に向かって倒れていった?
「そうです」

転回をしている最中に「ドン」と

本来は、山車の後ろ側からロープを引っ張って、ゆっくり坂道を下りる手はずが、当日はその形にはならず、山車は勢いよく坂道を下り、横転しました。引き手の男性はこう続けます。

「本当なら、転回して、後ろに綱を後ろから引っ張って、ゆっくり下ろす手はずだった。転回している最中にワーッと来た感じだった」

Qロープは2本とも坂の下に?
「転回する時は、(方向転換役の)消防団の人が『離してください」』というので、引き手は綱から手を離して、転回は消防団の人がやってくれるので、それを待っている状態、坂の下で。転回している最中にバランスを崩したのか、ドンと」

Q何で落ちたのか?
「道路って、わりと山なりになっている。頂点から下ったところに寄りすぎていたか。山車は1トン以上ありますからその重みで、転回するときに『てこ棒』を5~6人くらいでやってたんですけど、その勢いのまま行っちゃった。ハンドルを切ったまんま、下りてきちゃった。最初に左の方へ行き、慌てて右の方へハンドルを切り直したんでしょうね。右の方に車輪の跡が曲がってましたから、右の前の方から突っかかるように、横転した」

関係者によりますと、山車を坂の上で方向転換する際にロープは坂の下に伸ばされ、引き手はロープから手を離していました。そして、消防団中心に「てこ棒」を使って向きを変える作業中に、山車がバランスを崩したといいます。

「大回りしてるの。やっぱりこう被ってるね」

歴史ある祭りで、初めて起きた山車の横転事故。山車を操作する消防団のリーダー、さらに引き手を経験するなど、長く祭りに携わってきた住民の男性(74)は、地元の山車で犠牲者が出た事故に悔しさをにじませます。

「もう操縦不可能だろうな」

Qチョークの線を見た時、どう思ったか?
「(かじ取りした人は)だいぶ焦っていたな、これ。切り返して、こんなとこまで行っちゃってるだもの。ここ、切れなかったんだ(体勢を整えられなかった)。これ、行けなかったんだよ。おそらく。ここまで行っちゃってんだもの。したら、もう落ちちゃうよ。これドンと。もう操縦不可能だろうなぁ。かじを切っている人は急いだと思うよ」

事故現場には、亡くなった男性に花が手向けられていました。

「涙、出ちまうよ。おれたちやったら、こんなことは…なぁ、大変だったな。ご苦労さん。なぁ。気の毒だよ、本当に気の毒だ」

Qあれだけの大きさの山車を引きまわす祭りを、安全にやるっていうのはかなり気をつかう?
「あぁ、みんな気をつかってやっていますよ。気をつかっていても、やっぱり4年間のブランクがあって、そうなったのかなっていうしかないね。私から言わせると。おそらく。何とも言えないけれどね。ただ、ここで方向転換するんだったら、ここまで坂を下がんなくてもよかった。向こうに1回まわって体勢を立て直してもよかったのになぁ」

事故を防ぐための体制に不備はなかったのか。警察は、業務上過失致死傷の疑いなども視野に関係者から事情を聴き、横転に至った原因などを調べています。

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