「物流の2024年問題」って株式市場にどんな影響があるの?

「物流の2024年問題」というご存じでしょうか。ニュースなどで度々取り上げられているため、目にされた方が少なくないでしょう。運送業界では来年春から時間外労働の規制が始まるため、運送業者は対応が求められています。もっとも、現実と法規制との間には大きなギャップがあり、それが運送会社にとって問題になっているのです。

ここでは、その「物流の2024年問題」が皆さんの生活や株式市場にどのような影響を与えるかについて考えてみましょう。


「物流の2024年問題」とは

Amazonや楽天市場などのEC(電子商取引)サイトで注文すると、翌日には商品が手元に届く。現在では、当たり前の出来事です。2023年6月に行われたあるアンケート調査では、ネットでよく購入する商品として、1位が日用品、2位が衣類、3位が食料品という結果になりました。コロナ以降、スーパーなどに直接出向かず、日用品や食料品、衣類などをネットで購入するケースが増えていると思われます。

翌日配送を可能にしているのが、運送業界の存在です。Amazonなどの大手ECサイトの物流の自動化も翌日配送に大きく寄与していますが、倉庫から荷物を運び、実際に個人宅に配送しているのは物流業者。物流業者の努力なしに、翌日配送は行えません。

2024年4月から物流会社にとって死活問題になりかねない「時間外労働の上限規制」がスタートします。自動車運送業者の年間時間外労働の上限が960時間に制限されるため、トラックドライバーの不足が深刻化。従来のようなスムーズな物流が難しくなるのが、いわゆる「物流の2024年問題」です。

なぜ、この規制が物流会社にとって大きな問題になり得るのでしょうか。それは、月60時間を超える時間外労働に対して、50%以上の賃金の割増が必要になるからです。2019年、「働き方改革」関連法案が施行され、大企業は時間外労働に対して50%、中小企業に対しては25%の割増賃金の支払いが必要となりました。2024年4月からは、中小企業にも「50%」の割増賃金率が適用されます。要は、中小企業であっても、時間外労働に関して大幅な賃金引上げが求められるわけです。

全日本トラック協会の例示では、1月の所定労働時間173時間(労働基準法で定められた上限時間)、時間外労働時間を80時間とすると、2024年4月以降は一人のドライバーあたり8,500円のコスト増になるもようです。ドライバーが10人いれば、85,000円、年間では102万円のコスト増。ただでさえガソリン価格の高騰などによってコスト負担が重くなっているところに、労働時間外の賃金引上げが加わり、物流業者は「ドライバー不足」と「コスト増」のダブルで収益が圧迫されることになります。

国土交通省など3省によって設置された「持続可能な物流の実現に向けた検討会」に提出された資料で、2024年4月の規制によって、全日本トラック協会は「輸送能力は2019年度比で14.2%不足する」、「ドライバー不足はより深刻化し、これまでのような輸送が難しくなる」などと指摘しています。実際に規制がスタートすれば、翌日配送の中止、あるいは有料化が行われる可能性があるでしょう。そうなると、ネット通販が習慣化している人はかなり不便を感じるかもしれません。

「社会・経済の問題を解決する企業」に注目

では、「物流の2024年問題」が株式市場にどのような影響を与えるのかを考えてみましょう。株式市場において、社会や経済の問題を解決に導く企業は「〇〇関連株」と呼ばれ、注目されます。また、社会や経済にとって深刻な問題であればあるほど、関連株の注目度も上がります。

この「物流の2024年問題」を解決に向かわせる手段を考えてみましょう。ざっくり、以下の7つが挙げられます。

①物流会社が規制通りに賃金を上げる

②運送ドライバーの数自体を増やす

③問題解決に取り組む企業に対して補助金や助成金を投入

④送料の引き上げ、即日配達・再配達の有料化

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⑤物流・業務の効率化を進め、ドライバーの労働時間を短縮

⑥物流倉庫の効率化・自動化、運送ルートの見直し

⑦トラック運送を減らし、列車や船舶など代替手段の活用を増やす

この7つのうち、前半の①から④までは株式市場ではテーマになりづらいでしょう。確かに問題は解決に近付きますが、民間の負担増加や税金投入がベースになっているからです。注目は、⑤から⑦の3つ。⑤と⑥の「業務の効率化」や「倉庫の自動化」では、ITやAI(人工知能)、機械の活用によって業務の効率化、倉庫の自動化を進め、物流の無駄を省くことで、ドライバーの労働時間は短縮化されます。一口に言ってしまうと、「物流のDX(デジタルトランスフォーメーション)化」。機械やシステムの導入に費用はかかりますが、それを手掛ける企業にとっては大きな追い風になるわけです。

ただし、物流効率化を進めるためのシステム開発会社の多くは、大手物流会社やシステム開発会社の傘下である場合が多いのが難点。そうなると、物流DX単独で親会社の業績を上振れさせ、株価を何倍にも上昇させるほどのインパクトを持つかと言われると、難しいかもしれません。もちろん、物流DXという「国策」によって業績が大きく押し上げられる企業がないとも言い切れません。そうした「相場テーマ」の恩恵を受ける企業を探し当てるのは、株式投資の醍醐味の1つと言えます。

モーダルシフト関連の「現実買い」に期待

⑦に関して、政府は「モーダルシフト」を推進しようとしています。モーダルシフトとは、従来のトラックによる運送を減らし、鉄道や船舶などにシフトするというもの。10月6日、政府は物流の2024年問題解決に向けて、「物流改革新緊急パッケージ」をまとめました。支柱となる対策は、「置き配」に対するポイント付与やモーダルシフトの推進です。現段階では、貨物船や鉄道側がモーダルシフトを十分に進められる体制を構築できていないようですが、政府は船舶や鉄道による輸送をこの10年間で倍増させる方針を打ち出しています。

この方針が明らかになった時点で、株式市場では「モーダルシフト関連株」が実際に人気化しました。しかし、現時点ではどの程度のスピードでモーダルシフトが進み、それによって関連企業の業績に寄与するかは不透明。つまり、足元ではテーマ株として、いわば「理想買い」が起きているだけと言えます。今後数年の間にモーダルシフトの追い風を受け、実際に業績を拡大させてくる企業が明らかになるはずです。その段階で、今度は「現実買い」が起きることになるでしょう。そう考えると、関連株の大きな押し目(株価が急落したポイント)は狙い目かもしれません。

モーダルシフトに関しては、産業用ドローン(無人航空機)による「無人配送」もテーマとして注目されそうです。もっとも、ドローン配送が実現するには、高度なドローンの開発に加え、法律やインフラの整備が必要。仮に、政府がドローンに関するインフラ整備を進めたとしても、当面は「理想買い」にとどまるでしょう。

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