田中昭司(鐵槌 -Sledgehammer-)×河合信賢(envy)×Atsuo(Boris)×後藤達也(BAREBONES)- ジャパニーズ・スキンヘッド/ハードコア/オルタナティヴ・シーンを牽引し続ける独往4バンドの新しくもヴィンテージな"軸 -Axis-"

意外にも接点の多い4組の交差点

──当日の出演順に話を聞かせていただきます。まずBorisですが、今回は“boris -drone set-”名義で20台前後のアンプを大量設置するという尋常ではない機材量で臨まれます。この特別形態には鐵槌、envy、BAREBONESを相手にする上で生半可なことはやれない覚悟のようなものを感じますが。

Atsuo:11月の後半にCoaltar of the Deepersとのツアーがあって、その差をつけたいのがまずあったんです。コロナ禍以降に“drone set”でのワンマンを何度かやってきましたが、ある程度大きな会場じゃないと大量のアンプを持ち込めないんです。リキッドルームならそれが可能だし、当日はVJのRokapenisと僕らの照明チームも参加するので、今回のイベントにおける長尺のイントロダクションみたいな位置を担うことにもなると思います。

──“極限の愛撫”と称されるステージは、アンプから放たれる轟音・爆音ばかりではなく、大量のスモークや照明演出も相乗効果となる総合芸術と言えますね。

Atsuo:音圧を皮膚で体感することはもちろん、そのヴィジュアルにせよスモークの匂いにせよ、聴くと言うよりも体感してほしいんです。五感以上の感覚に訴えかけるような体感を目指しているし、それを基本に僕らは表現活動をしています。

──この日は終始、“boris -drone set-”の荘厳なアンプセットを背後にして4組のライブが繰り広げられるというのも痛快ですね。

昭司:俺たちは後ろに日の丸を掲げるかもしれない。このあいだのチッタで掲げた日の丸が8メートル×10メートルの武道館サイズでさ、リキッドの天井は4メートルしかないから日の出みたいになっちゃうって(笑)。それでも入らないから、リキッドにちょうど良いサイズで作ろうかなと思って。

──続くBAREBONESですが、Borisからの流れと言えば、今年27年振りに再発されたBAREBONESとBorisのスプリットを想起しますね。

後藤:そのスプリットに入ってる曲も当日はやるつもりです。

Atsuo:BAREBONESが去年、15年振りにアルバム(『ZERO』)を出して、アナログも作りたいと聞いていたんです。ちょうどイギリスのDOG KNIGHTS PRODUCTIONというレーベルが僕らの過去の音源をリリースしたがっていたので、1996年にBAREBONESと出した10インチにボーナストラックを入れて12インチで再発したんです。その流れで同じレーベルがBAREBONESのアルバムもアナログ化してくれて。今回、90年代の同時期から活動してきたこの4組が揃ったときに、自分たちの歴史を少し垣間見れるセットをやれたらいいなと思ったんです。これまでの時間の長さと現在進行形の音を表現できればということで、BAREBONESには僕らとのスプリットからのセットもプレイしてほしいというリクエストが出たんですよね。

後藤:俺らの出順はBorisの後だから、スプリットから1曲やってから現行のBAREBONESを見せるのが良い流れかなと思って。

Atsuo:僕らもファースト・アルバムの『Amplifier Worship』が11月にリリース25周年を迎えるので、今回はそのアルバム中心のセットにしようと考えているんです。その当時から“drone”がキーワードでもあったし、自分たちが一貫して提示し続けてきたスタイルをここで見せられるかなと。

後藤達也(BAREBONES)

──出演陣の繋がり的なことで言うと、BAREBONESのファースト・シングル『CHAKA-BUSTER』にはノブさんがコーラスで参加されているんですよね。

河合:そうなんです。対談の第一声がまさか『CHAKA-BUSTER』の話になるとは思わなかったけど(笑)。

Atsuo:20000VでやったBorisとBAREBONESの共同企画にenvyを呼んだことがあったよね。BAREBONESがenvyを呼んで、BorisがEVIL POWERS MEを呼んで。

──イベントの背景として、実はいろんな接点があったのを改めて感じますね。

河合:僕は後藤さんと長谷(周次郎)君がやっていた、BAREBONESの前身バンドであるANIMAL BOATのスタッフをやっていましたからね。一度だけやってクビになりましたけど。生意気すぎて(笑)。

後藤:あまりに使えないローディーだったから(笑)。

河合:「乾電池を買ってこい」と言われて「イヤです!」と反抗したんです。大阪まで連れて行ってもらったのに(笑)。

後藤:違うよ。「栄養ドリンクを買ってこい」と言ったら「どこに売ってるんですか?」とか聞いてきてさ(笑)。

河合:自分で調べろよ! って話ですよね(笑)。

──当日のBAREBONESのセットには、昭司さんが参加する曲もあるそうですね。

後藤:アンコールでBorisとenvyがセッションすると聞いて、俺たちも何か一緒にやろうと思って。もともと昭司君が唄ったらいいだろうなと思っていた曲があってね。

昭司:ああ、そんなこと言ってたね。

後藤:俺が好きだったEXECUTEっぽい曲を作って、それをBAKIさんに唄ってもらえたらなあ…とか妄想していて。その曲を昭司君に唄ってもらうと合いそうだなと。最初からその曲一択でしたね。

──昭司さんが他のバンドに飛び入りして唄うのはかなりレアですよね?

昭司:そうでもないよ。Motörheadのトリビュートが出たとき、そのイベントでCRACKSと一緒に「Ace Of Spades」を唄ったことがあるから。唄える曲なら唄える。(河合に)だけど今回、BAREBONESと一緒にやるときはどんな見栄えで唄えばいいんだろう?

河合:僕に聞かれてもわかりませんよ(笑)。

後藤:BAREBONESで裸で出て、鐵槌でだんだん着込んでいけば?(笑)

『New Vintage Axis』というタイトルに込められた意味

──鐵槌はどんなセットになりそうなんでしょう?

昭司:いつも通り、フラットな感じだね。どこでやっても誰とやってもそうだし、自分たちのやるべきことをただやるだけ。古い曲をやるとか、何か特殊なセットは考えてない。この日に来るオーディエンスは俺たちの客とだいぶ毛色も違うだろうし、そういう人たちに対して現状の鐵槌を見せて純粋に判断してほしいから。だって俺たちの古い曲をやったところで、鐵槌を知らない人たちには何の意味もないでしょう?

──鐵槌は今回の公演に合わせて、昨年発表したアルバム『士』(さぶらい)のタイトルトラックをミュージックビデオで公開するそうですね。

昭司:うん。本当はもっと早く公開したかったんだけど、なかなかタイミングが合わなくてね。でもアルバムを配信するので、ちょうどいいのかなって。ぜひこの機に音、映像を多くの人と愉しめればと思ってる。これも踏まえてのセットで臨むよ。

──鐵槌の東京でのライブは当分ないそうなので、今回のライブを逃すと当面見られませんね。

昭司:来年はアルバム用に曲を作ろうと考えているので、主だったライブをいくつかやる形にして、ライブをやるスパンをなるべく開けようと思ってね。

Atsuo:(iPhoneの動画を見せながら)これ、このあいだシェルターでやったCOCOBATとSMASH YOUR FACEのライブなんだけど、DJで出演していたベッド・インのちゃんまいが鐵槌の曲をかけてたんですよ。

昭司:へぇ。そう言えばFUUDOBRAINがSNSでそのイベントの告知をしていたよね。

──FUUDOBRAINと言えば、今回はFUUDOBRAINが制作するオフィシャルイベントTシャツも販売されるんですよね。

昭司:バックのバンドロゴとか、そうそう見ない並びだから面白いし、レアな一品になると思うよ。

──さて、本編のトリはenvyとなるわけですが……。

Atsuo:その話に入る前に、今回のイベントを仕掛けたのが昭司さんだってことをここで話しておいたほうがいいんじゃないかな?

昭司:このあいだゴッタツとも話したんだよ。“〇〇 presents”とかちゃんと銘打ったほうがいいんじゃないか? って。

後藤:最初はそういうのはナシで、っていう話だったんだけどね。

Atsuo:僕はそういうのはちゃんとしたほうがいいって散々話してきましたけど(笑)。

昭司:それは知ってる(笑)。

河合:“〇〇 presents”で一番しっくりくるのは鐵槌だよね。最初に僕に声をかけてくれたのは昭司さんだったから。昭司さんは20数年前から知ってる先輩だけど、歳も離れてるし、シーンも違うし、接点もなかったんですよ。それがコロナになる前、あるきっかけで一緒に飲むことになって、そのときに僕らに興味を持ってくれていることを知って。で、コロナが収束に向かう頃に「ノブ、そろそろやるか?」と声をかけてくれて。とは言え、いきなり鐵槌とenvyの2マンだとそれもかなりの劇薬だなと思ったし(笑)、昭司さんと対話を重ねていくうちに良い日程で良いハコが取れたので、じゃあやるかと。それでBorisとBAREBONESに声をかけて、OKをもらって。そもそも昭司さんが声をかけてくれなければ今回の企画はなかったし、もし“〇〇 presents”を打ち出すなら、やっぱり昭司さん発信だったから“鐵槌 presents”となるべきだと思う。

昭司:そうなるか。

Atsuo:最初のミーティングで“〇〇 presents”と表明しないようにしようみたいな流れになっちゃって、それからが大変だったんです。昭司さんが仕切ってくれないから(笑)。

昭司:だって、大バコの動かし方っていうものがあるじゃない? そういう経験はenvyとBorisのほうがあるし、俺としては動向を見ながらじゃないと表立って動けないわけだよ。いつもやってるハコのキャパとは全然違うし、だから大バコなりの動き方をAtsuoに聞いたりとかしたわけ。

田中昭司(鐵槌 -Sledgehammer-)

──そうした企画の成り立ちや趣旨、当日のトピックなどを伝えるのがこの座談会の意図なので、結果オーライでしょう。『New Vintage Axis』というイベントタイトルも実に秀逸だと感じましたが、これはどなたの発案だったんですか。

Atsuo:4人で話し合って決めました。

昭司:あれがいい、これがいいって。

Atsuo:それもまず、昭司さんにいくつかタイトルの候補を考えてもらって、それをみんなで擦り合わせて決めました。

昭司:ノブが「メールでは何なので、みんなで顔を合わせて決めましょう」って言ってね。

──“Axis”=“軸”という言葉が文字通りイベントの基軸ですよね。

河合:“New Axis”=“新しい軸”に“Vintage”=“年代物の、上質な”という言葉を足しているのがミソって言うか。僕らも歳を重ねて枯山水のような境地ですから(笑)。

Atsuo:4組のバンドが一つの軸を持っているという意味合いもありつつ、それぞれが違う4つの軸を持っているということでもありますよね。90年代前半からバンドを始めて生き残ってきた4組だし、それぞれが共通して大事な軸を持っていたっていうのを言い表しているんです。

昭司:“生き残り”っていうのが大事だね。死に損ないじゃなくて“生き残り”。

──30年ものあいだ点在していた“軸”が一本の線となって今日まで続いているという解釈もできますね。

昭司:(河合に)もう30年も経つ?

河合:BLIND JUSTICEから数えると、30年は超えてますね。

30年ものあいだバンドを続けられたのはなぜか

──ちょっと話が逸れますが、なぜここまでバンドを続けてこられたと思いますか。

河合:考えたこともないですね。僕らはいろいろあって、続けられなさそうな時期もあったけど、いろいろ乗り越えてやってこれたのは、やっぱりバンドが好きだからじゃないですかね。僕にとって音楽は少なくとも仕事ではないし。もちろん仕事としてバンドをやるのがダメってことではなくてね。たとえばBorisはバンドを生業としているけど、音楽との向き合い方は人それぞれだから。音楽をやめようと思ったことはないな。続ければ続けるほど大変だけどね。

Atsuo:続ければ続けるほど、ある時点からやめられなくなるよね。

河合:そうですね。続けていく責任も増えていくから。

Atsuo:そこまで続けると自分たちの歴史が支えてくれるものがあると言うか、その歴史から外れるのが難しくなっちゃうところもあるし。

──Borisの場合、海外へ行くたびに新規のオーディエンスを増やしている印象がありますよね。

河合:あの増え方は異常だよね。海外へ行くたびにフォロワーが1万人くらい増えるらしいから(笑)。……あ、わかった。バンドをやめられなかった理由。それは、昔作った曲を弾けなくなるのがイヤだったから。今やめたら若いときに作った曲を一生弾けないんだと考えたら、やめられなかったですね。

Atsuo:そういうのあるよね。曲は自分たちの子どもみたいなものだから、演奏しなくなるのは子どもを殺すのと同じようなものだし。「どのアルバムが一番のお勧めですか?」ってよく聞かれるけど、自分たちの子どもに優劣はつけられないよね。

河合:「三男が一番です」なんて言わないもんね(笑)。

後藤:(昭司に)そんなこと考えたことある?

昭司:全然(笑)。

Atsuo(Boris)

後藤:俺は単純にバンドが好きだし、やめる理由もなかったね。一時期、仕事や子育てで全然動かないこともあったけど、またやらなきゃと考えてたし。

Atsuo:BAREBONESは15年振りに3枚目のアルバムを出すくらいのペースだから(笑)。でも後藤さんもこれまでのバンドを数えたら30年以上でしょ?

後藤:広島時代の高校生から数えたら40年だよ(笑)。まあ、何も考えてないよね。バンド抜きの人生なんて考えたことがない。特定のジャンルとかじゃなく、いつもバンドとして何かやっていたいんだろうね。別にハードコアじゃなきゃいけないってことはないし、今はたまたま3人でBAREBONESみたいなバンドをやってるってだけでさ。

昭司:そうだよね。音楽が好きって言うよりもバンドが好きなんだと思う。バンドでライブをやるのって異空間でしょ。普通の生活からかけ離れたものだし、この歳になってもまだまだ楽しめるものだから。バンドみたいに面白いものってなかなかないよね。

河合:バンドのメンバーと言っても赤の他人なんだけど、それがいくつになっても一緒にワイワイできるのがバンドの凄いところだよね。朝まで肩組んで飲んで、年齢関係なくどれだけ言い合いをしても最後は笑顔で帰れるなんて、バンドくらいなものだし。

Atsuo:「この音楽が好き」という共通点だけで、ずっと一緒に過ごせるわけだからね。そういう数値化できないものって社会の中で蔑ろにされがちだけど、音楽の力は軽視できないものだと思う。

後藤:音楽は凄いよ。言葉は関係ないもんね。

河合:そう、海外へ行くとより実感する。いろんな国の人たちが観に来てくれるし。

Atsuo:日本語で唄っていても当たり前のように聴いてくれるしね。

昭司:海外のバンドだって鐵槌のカバーを日本語で唄うから、言葉は関係ないよね。

その日、全世界のライブハウスで最もでかい音で最も美しいセッションにしたい

──イベントの話に戻りましょう。envyのセットはどんな感じになるのでしょうか。

河合:この面子なので昔の曲をやるのもいいかなと考えたんだけど、それも当たり前かなと思って。いろいろと考えてみて、Ropesを始め数々のサポート・ボーカルでも知られるAchicoさんがゲスト・シンガーとして参加してくれたenvyの曲(『THE FALLEN CRIMSON』収録の「Rhythm」)があって、それが凄くいいんですよ。本来、そういう曲は自分たちのワンマンでしかやらないんだけど、あえてこの企画にAchicoさんを呼んで唄ってもらおうかなと思って。こういうイベントには普通呼ばないところを、逆に呼んでみたら面白いかなと。スペシャル感も出ますからね。

昭司:それはいいね。

河合:普通の発想ならこういう場でゲスト・ボーカルは呼ばないだろうし、元から引かれてもいいという覚悟でやっているから引かれても別にいいけど、鐵槌目当ての気合入ったスキンズも観てくれたら「お、なかなかいいじゃんか」と言ってもらえると思ってます。

──envyとBorisのアンコール・セッションはどんな経緯でやることになったんですか。

河合:Borisがアンプを片付けられないっていう、ただそれだけの話ですよ。これでアンプを片付けられていたなら、はっきり言ってこの話はなかったです(笑)。片付けられないからどうしようか? って話になって、それでもBorisはちゃんと“drone set”でやりたいと確固たる意思があったから、それならアンプ残したままで良いのでアンコールでセッションをやりましょうっていう話になりました。僕らがORANGE(のアンプ)を背負ったままライブをやるのもどうかと思ったんですけど(笑)、逆にそれを活かして実験的なことをやることにしたんです。

Atsuo:ロックってやっぱり、前に転がすしかないんですよ。そこで立ち止まったりやめようとするのはナシなんです。伸るか反るかじゃなく、伸るしかない。どんな事態でもどう転がすか、面白い選択をしていくべきだと思うんです。

河合:そうは言っても、熟考を重ねたんですよ。どの曲をやるのか、どういう感じでやるのか、リハは一回と決めていたし、時間も限られているし。それで先日、僕とAtsuo君、Takeshi君、今回の仕切りを任せた友人のホットスタッフの石川(純)君とで話し合って、そこでやっとコンセプトが固まったんです。

──そのコンセプトというのは?

河合:“その日、全世界のライブハウスで最もでかい音で最も美しいセッションにしたい”、それにチャレンジすること。できるかどうかわからないし、電力が足りずに電圧が落ちて音が鳴らなくなるかもしれない。でも仮に失敗してもチャレンジのしがいは凄くあるし、それに果敢に挑む実験的なセッションにしたいんです。

河合信賢(envy)

──演奏する楽曲は当日までのお楽しみですか。

河合:僕らの曲になってしまったのもあるので。本編が僕らで終わる流れもあるんですけどね。envyのレパートリーに未完成の曲があって、今回、Borisとセッションするにはそれがいいと思ったんです。特に有名な曲ってわけではないです。

Atsuo:以前、envyがその曲をライブでプレイするのを僕が観たことがあったんですよ。

河合:Atsuo君が客として観てくれて、「なぜあそこで終わるの? もっと長く演奏したほうがいいじゃん」とその曲について話してくれたのを覚えていたんです。実際、Atsuo君の言う通りで、僕も同じことを考えなら弾いていたんですよ。どんな曲かと言えば、小節ごとに音が徐々に大きくなり、エフェクターで音のレイヤーがどんどん増えていき、最後にフッと音が消えてなくなるみたいな曲で。その曲のことを思い出して、足りなかった部分を補い合ってセッションできれば面白いんじゃないかと思い立ったんです。そうして初めて、未完の曲を完成できるんじゃないかと思って。現時点ではまだリハの前だけど、上手くいけば凄いことになるんじゃないですかね。

──まるでオーケストラみたいな発想ですよね。両楽団が相まみえて音をどんどん大きくしていくなんて。

河合:僕はクラシック・バレエが好きなんですけど、さっき出たBorisの表現形態が総合芸術だという話と同じように、クラシック・バレエもまた踊りや音、照明が一体となった総合芸術なんです。そういうあらゆる要素が一体となった表現の大団円を僕も今回のセッションでやってみたいし、このセッションのテーマは『ボレロ』なんです。『ボレロ』はクラシック・バレエではなくモダン・バレエの礎になったダンスで、今回のセッションをどうするか悩んでいたときにふっとそのイメージが湧いてきました。

──モーリス・ラヴェルが1928年に作曲したバレエ曲ですね。セビリアの酒場で、一人の踊り子が舞台で足慣らしをしている。やがて興が乗ってきて、振りが大きくなってくる。最初はそっぽを向いていた客たちも次第に踊りに目を向け、最後には一緒に踊り出すという。

河合:そうです。アンコールは『ボレロ』のイメージで実験に挑みたいんです。実を言えば、僕が影響を受けた音楽はハードコア・パンクとクラシックですから。

Atsuo:その話をノブ君から聞いたとき、僕もイメージを共有しやすかったんです。Borisもダンサーに入ってもらったセットをやったり、MVでもダンサーと共演したことがあったので。

河合:実際のところ、短い時間の中でどこまでできるかはわからないけど、熱い鉄を一心不乱に叩くみたいなイメージで楽しんでやりたいですね。

このイベント自体が“チャレンジ”そのもの

──とてもコンセプチュアルなアンコール・セッションなのが窺えますし、それ以外にも各バンドのセットで意欲的な試みが一貫して盛り込まれていて、最後まで飽きさせないイベントと言えますね。

昭司:さっきノブが“チャレンジ”という言葉を使ってたけど、このイベント自体が“チャレンジ”そのものだよね。ごく当たり前のルールに則ればもっとやりやすかったのかもしれないけど、そんなことを続けてもずっと同じことの繰り返しなだけだからさ。

河合:そうなんですよ。結局、動員のことだけを考えたら無難で安全な道を選ぶしかなくなるんです。無闇にチケット代を上げることはできないし、売るものはTシャツとCDくらいなんだから、対バンをするにも同じような面子になっていく。そのほうがお客さんも入りやすいので。もちろん、今回のように一風変わった面子のイベントばかりだとバンドも疲弊してしまうかもしれないけど(笑)、年齢も音楽性も人間性もイデオロギーも全然違う面子でライブをたまにやるのも面白い。元は同じパンクロックが好きという共通点があって、今やそれぞれが独自の道を切り開いて誰にも真似できない表現をやっている…その四者四様の姿を見届けてほしいです。

Atsuo:大量に情報が溢れ返る昨今だからこそ、こうして楔を打つようなイベントを4組が集まってやれるのはとても意義深いことだと思うんです。日本のロック史の中でこんなイベントがあったと語り継げるだけの内容だと思うし。

──みなさんのキャリアを考えれば、ただ4組が集まってライブをやるだけでも充分話題になるのでしょうし、本来はここまで新たなチャンレジをしてなくてもいいのかもしれませんね。

河合:むしろイベント自体をやらないほうがラクなのかもしれない(笑)。安定や成功を求めるのならやらないほうがいい。でもそういうことじゃない。こういうイベントでしか味わえない楽しさ、イベントならではの面白い試みというのが絶対あるし、それは各自のワンマンではできないことなんです。僕らはその準備と気構えで大変だけど、お客さんには純粋に楽しんでもらいたいですね。

Atsuo:コロナ禍以降、こういうイベント形式の動員が厳しくなってきていますよね。2マンやワンマンのほうが動員がありますから。

河合:かなり顕著ですよね。イベントになるとお客さんが入らないとよく聞くし。

Atsuo:でも今回のイベントは絶対に見てほしい。凄いものを見られるはずだから。

──みなさんの下の世代のバンドもこのイベントを見て大いなる刺激を受けるでしょうね。まだまだ胡座をかいている場合じゃないと思わせるパフォーマンスの連続なのでしょうし。

昭司:そうあってほしいね。結局、先人の笠をかぶって後を辿っても面白い表現はできないんだよ。自分のやってるバンドが唯一無二じゃないとつまらないんじゃないかな。他の誰かと似てても仕方ないし、誰かの下について同じことをやったって面白くないよね。(河合に)そうしてやってきたもんね?

河合:僕らの場合、何もない荒地の中でバンドを動かしていくのが時代的に当たり前だったので。パソコンやケータイのない時代からビラを作ってアピールしていたし、誰かもわからないやつから届いたエアメール信じて海外ツアー行ったり、悩みながらも手探りで突き進むのがごく普通のことだった。客は入らないかもしれないけど自分たちのやってみたいこと、面白そうなことを優先させてしまうところがあるんでしょうね。

──みなさんはいわゆるバンドブームが過ぎ去った90年代初頭、ライブハウス冬の時代に活動を始めたので、道なき道を行くのがデフォルトみたいなところがありますよね。

後藤:そうなのかな?

昭司:わからない。そういう時代背景とかまるで関係ないから(笑)。

河合:まあ、ライブはとにかくノルマを払いながらやってましたね。客なんて全然いなかったし。

Atsuo:そんな時代を起点として生き残った4組だし、本当の意味でのインディペンデントなバンドが集結したイベントだと思います。それぞれが全く違うやり方で30年やり続けてきたし、今でこそ多様性の時代とか言われているけど、多様であることは当たり前のこととしてずっとやってきましたから。その4バンドを同時に体感できる今回のイベントは、いろんな世代やいろんな人種に伝わるものがあるはず。こうして対談したり、イベントの意図を伝えることも怠らずにやっているのがインディペンデントの在り方だし、この時代にこれだけ面白い試みのイベントがあるのを知らしめたいですよね。Borisに関しては、まだここでは言えない試みを当日お披露目しようと考えているので。

河合:たとえばの話ですけど、どれだけ鳥が好きな人でも、鳥だけしかいない動物園に行っても飽きるでしょう? やっぱり虎やライオンも見たいじゃないですか。(昭司に向けて)今日は僕の隣に虎がいるけど。…あ、虎じゃない、狼だ(笑)。だけどそういうものだと思うんですよ。いろんな動物がいてこそ面白いわけで、その感覚って大切だと思うんです。

方法論は違えど、リスペクトできるからこそ共有できるものがある

──話がいろいろと脱線してしまいましたが、今回の『New Vintage Axis』が絶対に見逃すことのできない一期一会の特殊なライブであることはよくわかりました。

昭司:ライブはまあ、とりあえず一発やってみて、みんなが生き残っていたらまたいつかやればいい。

河合:誤解を恐れずに言えば、今回は特殊なイベントかもしれないけど決して特別なライブではないと思うんですよ。さっき昭司さんが「特別なことはやらない」と言っていたけど、それは僕も同感で。みんな次のライブもあるし、このライブだけが特別だという思いは正直なところないんです。

Atsuo:僕らは毎回のライブが特別。毎回が特別だから、ずっと変わらずに一緒。そんなふうにそれぞれ考え方ややり方が違って当然だと思う。

後藤:今回だけが特別ってことはないよね。Borisとのスプリットの曲をやったり、昭司君が入ったりするのは流れだし、普通の感覚の中でやるだけだから。

Atsuo:この対談の流れとは違う話をあえてするけど、日本のパンク/ハードコアの中で仕事をしながらバンドを続けるスタイルってenvyが作ったような気がする。envyはインタビューを受けたりメディアの露出が多いわけでは全然ないのに、なぜか僕はそういう認識なんです。

河合:そんなことを突然言われるとは思わなかった(笑)。

Atsuo:それ、別に褒めてないんですよ。音楽で食うのではなく、仕事をしながらバンドをやるスタイルを広めてしまったバンドというイメージが凄くあるので。だからこそ、僕たちは音楽で食べていく姿を意地でも見せていかなきゃいけないという思いを背負っているんです。

河合:そこに関してはBorisに対してめちゃリスペクトしてますよ。

Atsuo:今やenvyみたいに仕事が別にあるバンドが多くなってきたし、僕らのように自分たちなりの音楽スタイルをキープしながら音楽で食べていく方法論をちゃんと見せないと、逆にこっち側の比率が少なくなる一方なので。

後藤:だから「もっとバンドやれよ!」ってことでしょ?

Atsuo:「このくらいでいいのかな?」と追従している下の世代も多いと思うんです。別の方法で食えていることを良しとしていると言うのかな。

後藤:悪く言えばリスクを背負わないってこと?

河合:リスクは自分なりに凄く背負ってきたつもりなんですけどね。Atsuo君が言いたいことはよくわかるし、メジャーで活躍する友達もたくさんいるし、音楽を生業にしている人たちのことは純粋に凄いと思います。ただ僕が誇りを持って言えるのは、自分の生き方は決して間違いじゃなかったということ。僕が音楽でやれるのはこの程度のことかもしれないけど、仕事の面でもちゃんと人に夢を与えられている自負があるんです。

Atsuo:別にdisってるわけじゃないんだよ。音楽で食べている以上、僕らは生き残ってみせなきゃいけないし、今回のようにスタイルの異なるenvyとBorisが同じ会場、同じステージで一緒にライブをやるのは凄く大事なことだと言いたいだけ。

河合:そうですよね。一緒にセッションまでやっちゃうわけですから。なぜ一緒にやれるのかと言えば、どれだけスタイルが違っても自分の中にBorisに対するリスペクトの気持ちがあるからなんです。鐵槌とBAREBONESもそうだけど、自分たちと同じように何もない道を耕して切り開いていった。だからジャンルが違ってもこうして付き合えるし、ステージもシェアできる。根本的な部分でリスペクトがなければ、どれだけ有名だろうが影響力があろうが一緒にはできないですよ。

Atsuo:それは僕らも同じ。音楽が仕事ではあるけど、仕事とは言えお金だけで動いているわけじゃない。大事なものはまた別にあって、ライブや楽曲作りを共有できている。そういう素晴らしい関係性を保てているのは嬉しいことです。

河合:その昔、Borisと対バンしたときは床に向けてライブをやっていたくらい客がいなかったんですよ(笑)。それが数年前にロンドンで一緒にライブをやったときは900人ソールドアウトできて、Atsuo君とハグしましたもんね。「やったな!」って。

Atsuo:別に売れたいとか思ったことはないし、売れなくても音楽は続けられるし、音楽で食おうと思えば食える。そのサンプルケースが日本は少なすぎるんです。

河合:Atsuo君も最近、音楽で稼ぐにはいろんな方法があることをたまにインタビューで伝えようとしているじゃないですか。その感覚は実は僕も近いんですよ。選択肢はいろいろあって、その中でみんなが吟味しながら成長していければいいわけで。そうやって生き残ってきた4組の最新形の“軸”、それぞれの凄みが今回のイベントで伝われば嬉しいですね。

昭司:そうだね。他では決して味わえない、芳醇な音、彩り、重量感、アドレナリンを味わってほしいよね。お待ちしております。

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