人と話すときに緊張を感じると、自分の気持ちをうまく伝えることができずに葛藤やストレスが強くなります。
「ちゃんと話したいのに」と思っても、そんな自分を相手に知ってもらうことすら難しいですよね。
人との会話に苦手意識を持つのは、感情のスムーズなやり取りが叶わずに後で苦しむからです。
少しでもリラックスして話すためには、何を意識すればいいのでしょうか。
会話下手になってしまう理由と対処法は?
緊張する理由は「良く思われたい」から
「誰と話すときも緊張が抜けない」「話した後でどっと疲れる」とこぼす人たちの声を聞いていると、会話を楽しみたい気持ちはあるのにその自分を正しく伝えられないストレスが見えてきます。
話すことが嫌なわけでは決してないのに、会話のテンポが「自分のせいで」おかしくなったりトンチンカンなことを言ってしまったり、そんな自分に自信を失うのですね。
どうして緊張するのか、仲のいい友人と話すときでもつい身構えてしまうのは、相手に良く思われたい意識があるから。
「良く思われたい」は誰もが持つものです。会話は相手がいてこそ叶うものであって、そこで楽しい感情を共有したいと思うのは当然です。
でも、そんな気持ちが前のめりになり「楽しませなければ」のような焦りになると、緊張が生まれます。
「こんな自分と話していてもつまらないのでは」と不安になると、会話がうまくいかないことで相手のなかで自分の価値が下がるような恐怖を感じますよね。
「良く思われたい」のはそもそも相手のことが好きだから。緊張するのはいい関係でいたいからともいえます。
緊張は関係を大事にしたい、次も楽しく話したいと願うからこそ生まれる「それができない自分」への葛藤ですが、心をリラックスさせるためには、どうすればいいのでしょうか。
まずは「聞く」ことで焦りをなくそう
「何か言おう」とするより「まずは聞く」をやってみましょう。
「相手に良く思われたい」という気持ちが強いと、とにかく言葉を発することに集中してしまいます。
いいことを言う人、理解してくれる人など、「こう思われたい」があるとそれを叶えようとして焦るのですね。
一方でその場の状況を考えると、相手にとっては「まだ話し終わっていないのに言葉を挟まれた」「極端な考えを持っているのだな」など、こちらの思惑とはまったく違うことを考えているかもしれません。
言葉は思いでありその人を印象づける大切なものですが、それならなおのこと「何か言おう」とするよりまずは相手の言葉にしっかりと耳を傾ける姿勢が、より相手の気持ちに沿った言葉を生みます。
「聞く」ことは、相手を知る貴重な時間です。
どんな話がしたくてその事柄をどう思っているのか、じっくりと聞いていれば相手の気持ちや本音が少しずつ伝わってきます。それを掴んだうえで生まれる自分の気持ちを知れば、それが落ち着きになります。
何か言おうと必死になると、言葉を作ることに躍起になり心が落ち着かず、それがトンチンカンな返答をする自分になるのもよくあるパターンです。
言うよりも「聞く」、その姿が相手にとっては「心を開いてもらえている」という安心感を生み、リラックスして言葉を発することにつながります。
会話のコミュニケーションの肝は互いを知っていくこと、そのためには相手の言葉に集中する意識が、焦りを抑えるといえます。
返す言葉の「正確さ」にこだわらない
相手が本当に言いたいことや気持ちを想像すると、それに正確に応える言葉を返すことが自分の役割だと思う人がいますが、そもそも自分とは違う人間のことを「正確に」把握するのは不可能です。
会話で気まずい思いをするパターンに、「発した言葉が相手の気持ちを損ねて雰囲気が悪くなった」というものがありますが、発する側の原因には「こうだと思ったことが相手の本音と違っていた」「これが正解だと思ったけれど相手には違っていた」など、考え過ぎが見えるときがあります。
「相手にとって正しい言葉を返さなくては」という意識は、相手の気持ちを尊重するからこそ生まれるものです。
その姿勢は正解だとしても、何が「正確か」を完全に掴むのは難しいものです。それは自分の気持ちが相手にまっすぐ伝わらない場面を経験するとわかります。
誰だってこちらの気持ちに寄り添ってくれる言葉はうれしいけれど、それを返すことにこだわり過ぎると、自分の本心や本当に言いたいことを口にできなくなり、窮屈な思いをします。
会話は相手の正解を叶えるのが目的ではなく、違っていたとしても自分の気持ちを素直に伝えること、知ってもらうことで、お互いの理解を深めていく機会です。
相手の気持ちの正確さにこだわらず、自分のなかに生まれる気持ちや言葉を大切にする意識が、ストレスを減らす距離感となって会話を助けてくれるのです。
相手の気持ちを決めつけない
たとえば片思いの人に告白して振られた話を相手がすれば、「悲しいに違いない」「きっとつらいだろう」と自分の価値観で気持ちを判断してしまい、「落ち込まないで」「次はいい人に出会えるよ」など先回りした返事をして「落ち込んでないよ」と気まずい空気で返される。
「振られたけれどすっきりした」「伝えられたことに満足している」など、相手は前向きな気持ちを持って話しているのに、それを「落ち込まないで」など勝手に決めつけられたら、あまりいい気分はしませんよね。
寄り添ったつもりでも反発する言葉が返ってくれば、お互いに「わかってもらえない」のようなネガティブな感情が生まれ、後味の悪い会話で終わります。
きちんと相手の言葉を聞けば、「次はもっと幸せな恋愛ができるね」など、相手と同じように前向きな言葉が出たかもしれません。
自分はそう思っても相手も同じとは限らず、こんなすれ違いを避けるには「最後まで話を聞く」姿勢が必須です。
どんな内容であれ結論は人それぞれで、「失恋=つらいもの」と思わない人も当然にいます。
相手の気持ちを「こうだろう」と推測するのは大切ですが、それが本当かどうか、話を聞きながら判断する冷静さもつまずかない会話では重要といえます。
自分と等しく相手にもその人の価値観や考え方があることを、忘れてはいけません。
「相づちを打つ」のは立派なスキル
よく「うまい返答ができずに相づちを打ってばかりになる」「相手に話してもらう一方でこちらは無言になってしまう」と悩む人がいますが、「相づちを打つ」のは「話を聞いている姿」であり、それを伝えられるのは立派なスキルだと筆者は考えます。
話している最中に「それは」と自分の意見を挟んできたり、最後まで言ってないのに「こういうこと?」と結論を決めつけたりする人との会話は、楽しいでしょうか。
「うん」「そうなんだね」とうなずく言葉は、相手にとって「話してもいいのだ」という大きな安心です。
余計なことを言われないから屈折を覚えず自分の気持ちを素直に言葉にできる、これが相づちを打たれている側の状態で、「遮られない」のはありがたいですよね。
話す側の気持ちになると、「相手が『うん』しか返してこない」と不安を感じる人もいますが、こちらの話に関心を持たず適当に聞き流しているか、先を促すつもりで力強くうなずいてくれているかは、声のトーンやタイミングでわかるものです。
話を聞いていれば自分にも言いたいことが生まれますが、それを堪えて「相づちを打てる」のは相手の話したい気持ちを尊重する姿勢であって、誰もができることではありません。
うんしか言えない自分の印象が不安になるときは、「ちゃんと聞いているからね」と一言添えるのも、お互いにリラックスして話すのを助けてくれます。
感情を言葉にする機会を作る
自分が話す側になったときや相手に感想を言いたいとき、思ったことをそのまま言葉にするのは意外と難しいものです。うまく言葉が出てこずに、気まずい沈黙が横たわったとか焦っておかしなことを言ってしまったとか、失敗は誰にでもあると思います。
会話はまさに感情のライブ中継、その場の勢いも無視できません。
ネガティブな気持ちほど「嫌だった」「つらかった」とはっきりとした言い方をするのは気が引けて、本心を伝えられずに会話が終わってしまえば後悔が残りますよね。
生まれた感情を言葉にするのは勇気が必要で、それを育てるには普段から「口にしてみる」ことが重要です。
相手の振る舞いの何が引っかかったのか、例えば「こっちが話しているときにスマホをいじられてショックだった」と実際に言ってみると、そのときの自分を否定せず客観的に見る意識が生まれます。
「そりゃ誰だっていい気はしないよね」とひとり言が続くときもありますが、そうやって実際に言葉にする機会を多く持つと、「すぐに置いてくれたらよかったな」と別の本心も見えてきて、「自分はしないでおこう」など思えるものです。
「好き」「楽しい」などの好意も、相手に知られたら恥ずかしいと思えば口にすることをためらいますが、肝心な場面で伝える勇気がないと、相手との関係もうまくいきません。
会話は感情のライブ中継なら、その本番を楽しむためには普段の訓練がものをいいます。
気持ちを素直に言葉にできる自分を知れば、それが自信となり相手と向き合ってもリラックスして会話ができます。
「伝えない限り届かない」のが気持ち
こちらが何を言っても相手がどう受け止めるかはわからないのが会話の現実で、それが怖い、「間違った受け止め方をされる自分」を避けたいから会話から逃げるという人もいます。
そんな不安もあって当然ですが、こちらの気持ちや状態は伝えない限り相手が知ることはなく、何も言わないのに「わかってよ」「汲んでよ」とおかしな態度で相手の関わりをねだるのは、子どものすることです。
会話はお互いを知っていくための貴重な機会であり、どんな内容でも言葉のやり取りで信頼や愛情が育ちます。
会話に苦手意識を持つのはありのままでいられないから、相手のありのままを受け止められるか不安だから。そういう人もいると思います。
それでも、伝えていこうとする姿が相手の心を開くのもまた本当で、それで失敗しても「できたこと」が自信になるはずです。
自分が相手に信頼を覚えるとき、相手はどんな姿を見せてくれているか。そのなかには会話によって思いやりを知ったり行動からは見えない愛情がわかったり、「話したから知ることができた」も多く含まれます。
緊張は「良く思われたい」から、良く思われたい目的は相手との関係を慈しみたいから、それなら自分の気持ちを伝えていく姿勢を、まずは忘れたくないですね。
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相手がどんな存在であれ、人と話すときに緊張するのは自信がないからといえます。
言葉がうまく出てこないときは「まず相手の話を聞くこと」に集中すると、黙っている間に気持ちが落ち着き、相手の状態も冷静に見ることができます。
会話はお互いを知っていく大切なコミュニケーションなら、「伝える自分」を諦めたくないですね。
(mimot.(ミモット)/ 弘田 香)