長期金利の上限「1%をめど」に引き上げ、私たちの生活にどのような影響がある

日本銀行が10月末に開催された金融政策決定会合にて大規模な金融緩和策を修正したことにより、日本の長期金利が上昇しています。ニュースを見ていると、日銀が金融政策を修正したことや、長期金利が上昇したことは目にする機会が増えたかと思いますが、それが具体的に私たちの生活にどのような影響を及ぼすのかを理解できていますか?

今回は日銀の金融政策の修正や、それに伴う金利の上昇が生活に及ぼす影響を解説していきます。


日本銀行の政策変更とは?

日本銀行が10月末に開催された金融政策決定会合において、1%としていた長期金利の上限を「1%をめど」にすることを決めました。「めど」という言葉が用いられ、具体的にそれがどれぐらいの金利水準を指すのかは分かりませんが、一般的に政策金利が0.25%刻みで修正されることから、1.25%程度を指すのではないか、との声も多く聞かれます。

これまで国債を買い入れることで長期金利を1%以下に抑え込んでいた日銀が、なぜこのタイミングで長期金利の上限を引き上げたのでしょうか。おもに米国の長期金利が想定以上に上昇したことと、日本の物価見通しを引き上げることになったことなどが理由といえるでしょう。

なかには足元で進行する円安を止めるために長期金利の上限を引き上げたとの指摘もありますが、中央銀行が為替水準を操作するためだけに金利を動かすことは考えにくいため、つぎのようなロジックに基づいた指摘なのだと考えます。

ドル円相場と日米の長期金利差は連動する傾向にあるため、日本の長期金利が上昇することで円安が一服して円高方向にトレンドが転換されれば、輸入物価指数の伸びが鈍化して、結果として国内のインフレ圧力を低下させることができる、というものです。

異次元の金融緩和

そもそも、日銀が行っている異次元の金融緩和というものはどのような政策なのでしょうか。学校の教科書にも載っている内容ですが、一般的に景気が悪くなると、中央銀行は金利を下げて、家計や企業が借金をしたり、融資を受けて消費や投資をしたりしやすいように、景気を浮揚させようとします。

このとき、中央銀行が操作するのは短期金利であり、長期金利はあくまで市場における需給によって金利が決まるようになっています。しかし、2016年9月に日銀が導入したのは「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)」という手法で、長期金利の操作目標を示したうえで、それを実現できるように国債の買い入れオペを行い、長期金利も低位に押さえつけているのです。

しかし、おもに10年国債の利回りを押さえつけていたなかで、世界的な金利上昇局面において10年国債以外の部分の利回りが上昇することで、国債の利回り曲線(イールドカーブ)の形が歪になってしまい、企業の資金調達などにも支障が出始めました。そのため、日銀は2022年12月に黒田前日銀総裁が長期金利の上限を0.25%から0.5%に引き上げましたが、2023年の7月には植田総裁が1%に上限を引き上げ、そして、今回は「1%をめど」とさらに引き上げたのです。

私たちの生活への影響は?

前述のように日銀が2022年の12月から長期金利の上限を引き上げるたびに、長期金利の利回りは上限に向けて上昇していきました。今回は「1%をめど」としているため、おそらく早々に日本の長期金利は1%に達し、さらに多少は上振れることになるでしょう。それでは、そうなった時に私たちの生活にはどのような影響が生じるのでしょうか。

いちばん分かりやすいところでいえば住宅ローンの返済負担が高くなるということです。しかし、長期金利の変動は固定金利型の住宅ローンにのみ影響を与えるため、多くの方が選択している変動金利型の住宅ローンには影響はありません。また、事業をしている方にとっては、新規に融資を受けようとする際に返済時に支払う金利の負担は上昇するでしょう。

10月末の金融政策の修正の影響は12月に反映されると考えますが、金融政策決定会合の前からジワジワと長期金利は上昇していたため、すでに11月の住宅ローンの固定金利は上昇しました。

プラス面についても言及すると、メガバンクは定期預金の金利を大幅に引き上げることを決定しました。0.002%だった10年物定期預金の金利は一気に100倍の0.2%に引き上げられています。しかし、物価が1年間で4%ほど上昇していることを考えると、引き上げ幅が100倍という言葉のインパクトほどは影響がないことが分かります。

これから金利上昇の影響が本格化する

植田総裁は9月に大手新聞社のインタビューにて、年末までに物価や賃上げ動向に関するデータが十分に出そろう可能性があるとし、マイナス金利の解除後も物価目標の達成が可能と判断すれば金融緩和の終了も選択肢に入ると語りました。段階的に長期金利が上昇していくなかで、短期金利も上昇していくと考えるのは普通でしょう。

そうなれば、多くの人が選択している住宅ローンの変動金利も上昇していくことになります。ただでさえ賃金上昇が物価上昇に追い付かないなかで節約を進めている家計においては、毎月の支出が増えることは大きな痛手となるでしょう。

もちろん、影響を受けるのは住宅ローンだけではありません。自動車ローン、カードローンなど様々なローンの金利にも影響を与えます。

過度に不安だけを煽っても仕方がありませんので、さいごに安心材料も共有しておきます。仮にマイナス金利が解除されて短期金利が上昇し適用金利が変わっても、5年間は毎月の返済額は変わらない「5年ルール」や、毎月の返済額は従来の1.25倍までしか増えない「125%ルール」があるため、毎月の返済額が金利の上昇に伴い青天井に増えていくということはありません。

多くの民間エコノミストは2024年の4月にマイナス金利が解除されると予想しています。まだ半年近く時間はありますから、住宅ローンを変動金利で組んでいる人や、これから住宅ローンを組もうと考えている人は、契約内容をみなおしてみることをお勧めします。

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