社説:日大の薬物事件 無責任の体質にメスを

 社会常識とかけ離れた独善的な組織体質は改まらず、信頼回復をさらに遠ざけたのではないか。

 アメリカンフットボール部の薬物事件を巡り、日本大の対応を調べた弁護士らの第三者委員会が、林真理子理事長ら上層部に多大な問題があったとする報告書を公表した。

 大麻を所持していた容疑などで部員2人が逮捕され、他の部員にも薬物が広がっていた疑いが浮かび上がっている。

 報告書は、林氏らに「事実を矮小(わいしょう)化し、時にはないものとする不適切な姿勢があった」とし、法令順守意識を欠いて「ガバナンス(組織統治)が機能不全に陥った」と厳しく批判した。

 重く指摘を受け止め、根本からメスを入れねばならない。

 特に三者委が疑問視したのは、元検事の沢田康広副学長が7月に部の寮で大麻のような不審物を見つけたのに警視庁に届けず、保管した「空白の12日間」だ。

 記者会見で沢田氏は「自首させたいと考えた」と主張したが、林氏が報告を受けたのは7日後で、学内規定に基づく理事会報告をしなかった。「隠蔽(いんぺい)体質を疑わせ、信用を失墜させた最大の原因」と断じ、沢田氏の説明をうのみにして調査を指示しなかった林氏の責任も問うたのは当然である。

 根底にあるのは「情報を都合よく解釈し、自己正当化の姿勢が顕著」とされた組織の体質だろう。昨秋以降、複数部員が関与したとの情報や、大麻の可能性が高い状況がありながら軽視を続けた。

 最初の逮捕を受けたアメフト部への活動停止処分を「個人犯罪だ」としてすぐ解除したが、他部員の関与疑惑から寮を再び家宅捜索された。穏便に済ませようと上層部が保身に走り、問題をより大きくしたと言わざるをえない。

 日大は、田中英寿元理事長のワンマン運営や脱税事件などで批判を浴び、運営の立て直しを卒業生で著名作家の林氏に託した。新理事の4割に女性を起用するなど体制一新を図った。

 一方で林氏は危機管理を沢田氏に委ねる形で、必要な情報共有を行わなかった。統治機能を改善させられなかったことを猛省すべきだ。

 文部科学省は、日大に関係者の責任の明確化を求めており、対応を問題視して日大への私学助成金は3年連続で全額不交付となった。国内最多の約7万人の学生の教育・研究環境に不利益が生じることがあってはなるまい。

 うみを出し切る不退転の覚悟で改革に臨んでもらいたい。

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