社説:慢性的な薬不足 安定供給へ対策を急げ

 医療機関で処方される薬の供給不足が続いている。

 感染症の拡大が見込まれる冬を乗り切るため、国と製薬業界は必要とするところに届くよう流通を調整し、一刻も早く不足を解消しなければならない。

 日本医師会によると、院内処方をしている医療機関の9割が「入手困難な医薬品がある」と回答している。院外処方の機関でも、7割以上が薬局から薬不足の連絡があったという。

 足りないのは、せき止め薬やたんを切る薬を中心に、解熱鎮痛剤、抗うつ剤など多岐にわたる。新型コロナウイルスやインフルエンザの流行で需要が伸びた。

 厚生労働省は経済対策の中に、増産に協力する企業への支援を盛り込んだ。供給量は一定増える見通しだが、収束するめどはたっていない。

 不足の背景には、ジェネリック医薬品(後発薬)メーカーの不祥事が相次ぎ、出荷が縮小した影響があるからだ。

 2020年に福井県のメーカーで健康被害を伴う品質不正が発覚して以降、国の承認と異なる方法で製造したり、製造工程に違反したりなど、今年5月までに15社が業務停止命令や改善命令を受け、減産が続いてきた。

 先月には最大手の沢井製薬で医薬品の品質試験に不正があったことが明らかになった。供給不足に拍車がかかる可能性もある。

 不正は薬の安全性を脅かし、業界の信頼を損なう行為にほかならない。メーカーには再発防止と法令順守の徹底を求めたい。国や都道府県による監視強化が不可欠である。

 国は医療費抑制を目的に、先発薬より薬価が安い後発薬の普及を主導してきた。今や国内の処方薬全体の約8割を占める。

 国は急拡大する市場に、小規模企業を参入しやすくした一方、薬価は毎年改定するよう見直し、下げ続けた。メーカーは収益を得るため、さまざまな種類の薬を少しずつ手がける「多品種少量生産」で収益を確保している。品質管理体制が追いつかず、増産余力のある会社も少ないことが、不足が長引いている要因とされる。

 厚労省の有識者会議は先月、企業間の品目統合などを盛り込んだ中間報告を公表した。

 品質確保と安定供給の両立に向け、当面の対策とともに、薬価制度や医療機関の処方の在り方も含めた抜本的な基盤強化が必要だろう。

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