「朝来るたびに壁にされていないか 不安しかない」心に大きな傷負った店主も…止まらぬ“落書き被害”「割れ窓理論」で防げ【現場から、】

たかが、落書きと思うかもしれませんが、被害を受けた人が心に大きな傷を負ったり、地域に思わぬ悪影響を及ぼしたりします。キーワードは「割れ窓理論」。アメリカでは、落書きの犯罪学に基づいた実践的な運動もありました。

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3年に1度の「藤枝大祭り」。コロナ禍を経て、10月、盛大に実施されましたが、この祭りに水を差す残念な出来事がありました。

<篠原大和記者>
「藤枝市藤枝にある山車の倉庫です。『まつりだ、バカヤロー』と大きな字で落書きがされています」

スプレーのようなものによる落書き。祭り初日の朝、屋台などを保管する小屋に落書きがされているのを住民が見つけました。

<小坂地区 一言藤夫町内会長>
「みんな非常に腹立たしい思いでした。子どもから年配の人まで楽しみにしている祭りなので、出鼻をくじかれた」

静岡県内では2023年、落書きの被害が相次いでいます。静岡市では8月、駿府城公園や国の登録有形文化財・安倍川橋など、10か所以上で落書きが見つかりました。世界文化遺産・富士山の構成資産「白糸ノ滝」近くの道路でも落書きの被害がありました。

<吉田町職員>
「ここまでなし。こちらも落書きなしで」

吉田町では、町の職員が公園などのパトロールを強化していました。町が管理する公園で10月、トイレの壁など4か所で落書きが見つかったためです。

<吉田町建設課 坂本喬さん>
「住民に気持ちよく公園を利用してもらうため、早く修繕をしたいと考えています。被害箇所が多いため、数十万円程度の修繕費用がかかる予定です」

落書きを消すのにかかる数十万円の費用。これも大きな被害ですが、心に大きな傷を負った被害者もいます。藤枝市内の寿司店は、これまでに4回被害を受けました。

卑わいな言葉が柱や扉、壁に…

<はら喜鮨 原木広陽さん>
「これが一昨年やられた落書きです」
Qなんと書いてある?
「大好き、大好け、どちらか読めませんけども…卑わいな言葉が、この柱や扉、壁に大きく書かれていて、お客さんには本当に見せられない状況」

この寿司店が初めて落書きをされたのは3年前。はじめは、入り口の引き戸や壁などが塗料で汚されていました。その後、落書きはエスカレートし、2021年5月には、卑わいな文字などが壁や柱に大きく書かれていました。

警察に被害届を出しましたが、犯人は見つかっていません。不安な日々を過ごす原木さんは、病院で不眠症と診断されました。

<店に落書きされた原木広陽さん>
「朝来るたびに、この壁に落書きされていないか、不安しかないです。この3年間、本当に眠れない日が続いています。本当にビクビクして生活しています。まったく身に覚えのないことをされると、自分たちがここで店をやっていいのかと思います」

手間だし腹も立つが…

「割れ窓理論」。たとえ小さな異変でも、放置することは危険だという犯罪学に基づく理論です。

<静岡県立大学 津富宏教授>
「割れた窓が放置されてると、この地域は犯罪が起きても誰も気にしない、というサインになる。僕もやっていいのかなと、模倣・追随する人を誘う」

割れた窓ひとつを放置することで監視が緩い地域と誤解され、地域の治安が悪化するという「割れ窓理論」。米・ニューヨークでは、約20年前、この理論に基づいて落書きをされたら、すぐに消すなど徹底的に取り締まった結果、犯罪発生率が大幅に低下したという実績もあります。

<犯罪学を専門とする静岡県立大学 津富宏教授>
「割れ窓理論に従えば(落書きは)放っておかないことが大事。手間だし、腹も立つが、書かれたらまず消す」

落書きがあった藤枝市の屋台小屋は、地域の住民が費用を出し合い、修復しました。

落書きは、犯罪で器物損壊罪などの罪に問われる可能性があります。器物損壊罪の法定刑は、3年以下の懲役、または30万円以下の罰金です。

簡単な気持ちで行われることが多い落書きですが、あまり伝えられることのない被害者の苦しみは、とても大きいものだと取材を通して感じました。

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