犬は猫よりも愛されている?ヨーロッパの3カ国での研究結果

犬と猫への愛情についての仮説を検証するべく3カ国での調査

「あなたは犬派?それとも猫派?」という質問は、「どちらが好き?」系の質問の定番とも言えるほどポピュラーなものです。

実際に犬や猫と暮らしている人にとっては、「どちらであれ自分と暮らしている子を深く愛している」というのが偽りない気持ちだと思いますが、このテーマについて正式に大規模な調査をした研究結果が発表されました。

研究を実施したのはデンマークのコペンハーゲン大学、アメリカのテキサスA&M大学、イギリスのグラスゴー大学、オーストリアのメッサーリ研究所の研究チームです。

犬と猫への愛情を比較した研究は過去にもいくつか行われており、そのほとんどで犬の方が猫よりも高い愛情スコアを勝ち取っていました。

今回の研究チームは「なぜ犬は猫よりも愛情を注がれるのか」という点について、2つの仮説を立てました。

1つめは、猫は犬よりも独立しており飼い主に愛着を示す度合いも低い、つまり人間の愛情レベルの違いは動物の行動によって引き起こされるという、『犬対猫の行動仮説』と呼ばれるものです。

2つめは、人が犬や猫、さらにはコンパニオンアニマル全般を大切にする度合いは、それぞれの文化固有の動物の扱われ方、慣習、歴史的背景によって形成されているという、『文化仮説』と呼ばれるものです。

この研究ではこの2つの仮説を評価することを目的として、デンマーク、オーストリア、イギリスの3カ国で猫と犬の飼い主を対象にしたアンケート調査を実施しました。

研究のために用いられた質問の内容

アンケート調査は、ヨーロッパを拠点とする調査会社が参加者を募集して行われました。研究の背景などが説明された上で、オンラインによる匿名での参加です。

合計2,117人が犬や猫を飼っていると答え、犬を飼っているのは844人、猫を飼っているのは872人、犬と猫両方を飼っている人は401人でした。ペットへの愛着の度合いは、このための標準化された質問票が用いられ、過去の他の研究でも同じ質問票が使用されています。

次に飼っている犬や猫にペット保険をかけているかどうかが尋ねられました。保険加入は、一般的に飼い主がどれだけ動物を大切に考えているかの尺度として解釈されます。

次の質問は、ペットの救命医療について想像上のシナリオに答えてもらうものでした。

ペット保険に加入していない場合に、ペットが重い病気にかかり高額の治療費がかかる。治療は成功する可能性が高いが、治療費を支払うか安楽死を求めるかというものです。治療費は日本円にして2万円程度から150万円程度の7段階が示されました。

最後の質問は、「普段通院している動物病院では以下のうちどれが受けられますか?」と8つの項目(レントゲン撮影、エコー検査、内視鏡検査、関節鏡検査、院内ラボ、歯科用機器、MRI、CTスキャン)を示すものです。

やはり犬優位の結果だったが、国による違いが明確に

回答を分析した結果、3カ国すべてで飼い主は猫よりも犬を大切にしているという結果が出ました。

犬の飼い主、またはお気に入りのペットは犬と答えた飼い主の方が、猫の飼い主よりも愛着度合いのスコアが高く、3カ国すべてで猫よりも犬の方が保険に加入している数が有意に多かったとのことです。

犬や猫が重い病気にかかった時の高額な医療費も、犬の飼い主の方が出費をいとわない割合が高く、普段通っている病院の設備レベルについては、明確にわかっていない傾向が示されました。

しかし国別の結果を見た場合、単純に「常に犬の方が愛されている」とは言えないようでした。イギリスでは犬と猫のスコアの差はごくわずかでしたが、オーストリアとデンマークでは犬が非常に明確により高いスコアを得ていました。

仮説1の『犬対猫の行動仮説』が正しいならば、国に関係なく犬の方が明確に高いスコアを得るはずだと考えられますが、実際には違っていました。

では、仮説2の『文化仮説』はどうでしょうか。この3カ国は過去の都市化の進展という点で違いがあります。イギリスは16世紀末までに国の大部分が都市化したのに対して、デンマークやオーストリアでは、19世紀まで人口の大半が農業に従事していました。

一般的な農村環境では猫は屋内には入れず、猫と人はお互いに執着しない関係でした。現代でも猫への愛着レベルが低いのは、このような背景から来ている可能性があります。

ヨーロッパでは現代でも猫は外飼いの割合が非常に高いのも、過去の農業との関連の名残かもしれません。ちなみに猫の室内飼いが多いアメリカやメキシコでの同種の調査では、猫への愛着レベルは犬よりもわずかに低いという程度の違いに留まっているそうです。

これらのことから、人々が猫より犬に愛情を感じるという傾向は文化的な背景によって形成され、それは人々のライフスタイルの変化によって変わっていく可能性があると研究者は締めくくっています。

まとめ

デンマーク、オーストリア、イギリスの3カ国で犬と猫の飼い主にペットへの愛情に関する調査を行なったところ、犬への愛情がより強い傾向があったものの、国によって犬と猫の差に違いがあったという結果をご紹介しました。

研究者は今後、世界の他の地域、犬や猫の飼い方についてのさらに掘り下げた質問項目などを含めて調査することで、全く違う結果が出る可能性についても言及しています。

犬や猫に対する人々の態度や思いが、歴史や文化に影響されているというのはとても興味深いテーマですね。

《参考URL》
https://doi.org/10.3389/fvets.2023.1237547

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