「最も暑い年」に

 季節の事典をめくると〈11月は木枯らし、しぐれ、小春日和を繰り返しながら冬に向かっていく月〉とあった。秋の穏やかな晴天が小春日和で、寒さでいったん姿を消した虫たちに“再会”するのも今時分に当たる。〈木枯らしもしばし息つく小春かな〉岡田野水(やすい)▲…と、事典の通りに書いてみたが、この秋がそうでないのは皆さん、肌で感じるところだろう。木枯らしというほど風を冷たく感じなければ、小春日和というほど穏やかな好日ばかりではない▲11月というのに列島のあちこちから気温25度以上の夏日の知らせが届いた。言うまでもなく、暑さは日本に限らなかった▲欧州連合(EU)の気象情報機関は、1~10月の世界の平均気温が観測史上、過去最高だったと発表した。今年は「最も暑い年」になることが確実だという▲英米では小春日和を「インディアンサマー」と呼ぶ。のどかな秋の日は多くの国の人々にも好まれるに違いない。そんな“良き日”を軽く頭越しにしたような暑さも、これからはようやく収まるのかどうか。寒暖差にはお気を付けて▲〈きりぎりす忘れ音(ね)に啼(な)く火燵(こたつ)かな〉芭蕉。きりぎりすは今でいうコオロギで、忘れ音とは季節を過ぎて虫が鳴く音をいう。か細く鳴く虫の声に物寂しさを覚えるほどに秋が深まるのはいつだろう。(徹)

© 株式会社長崎新聞社