社説:旧統一教会会見 解散と責任回避の釈明

 高額献金に悩む元信者らの声を直視せず、組織を守るための自己弁護に終始したといえよう。

 政府から解散命令を請求された世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の田中富広会長が、1年3カ月ぶりとなる記者会見を開いた。

 冒頭で「深く反省し、心からおわびする」として頭を下げたが、「被害者」という表現を拒み、謝罪ではないとした。

 高額献金や不当な勧誘を巡る問題は「伝道者の説明が不足」などとして組織的な責任を認めず、教団改革によって返金要請は減っていると主張した。解散命令請求に対しては「到底受け入れることができない」と争う姿勢を示した。

 会見の主眼は、請求の要件とされた「組織性、継続性、悪質性」を打ち消し、司法の解散判断を回避することだろう。

 国会で議論されている財産保全措置の立法の動きを抑える意図もうかがえる。

 解散が決まれば宗教法人格はなくなり、清算人が財産を処分する。ただ、決定までには一定の時間がかかるとみられ、教団本部のある韓国などに財産が散逸するとの懸念から、被害者の補償の費用を確保すべきとの指摘が出ていた。

 田中氏は昨年7月の安倍晋三元首相銃撃事件以降、要請に応じて約44億円を返金したと説明し、献金被害を訴える元信者らへの補償の原資として、最大100億円を国に供託する案を示した。

 現行の制度では供託は困難で、田中氏は「国で制度を用意していただきたい」と述べた。財産保全措置の立法に関しては「必要性は全くない」とし、「献金は大変尊い。返還請求に何でも応じるわけにはいかない」と予防線を張った。

 被害者を支援する弁護団は、被害額は1千億円程度の可能性があるとしている。元信者側は「反省の姿勢がまったく見えない」と批判を強めた。おわびが届くどころか、不信感を強める結果になったのではないか。

 政府は供託に関して「受け取る法的根拠がない」と否定的な見方を示す。身勝手な主張に応じないのは当然だろう。

 自民党は臨時国会に被害者救済の関連法案を提出する方針を明らかにした。立憲民主党と日本維新の会は宗教法人の財産保全を目的とした独自法案をそれぞれ提出しており、国会で各法案を審議する見通しとなっている。

 与野党で歩み寄り、救済につながる実効性ある措置を急ぐべきだ。

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