吉川産山田錦を守りたい、まずは赤ビールで 麦芽の香ばしさ、酒米の余韻を追求 兵庫・三木の製造業者

山田錦入り赤ビールを手にする、なごみふぃーるどの和田裕行さん=三木市吉川町水上

 兵庫県三木市吉川産の山田錦を使った赤ビールが完成した。その名も「吟米麦酒 赤」。吉川町で山田錦入りビールを販売する「なごみふぃーるど」が開発し、麦芽の香ばしさと山田錦の余韻が感じられる仕上がりが人気を呼んでいる。代表の和田裕行さん(49)=同町水上=は「このビールを通して吉川産山田錦を一人でも多くの人に味わってもらい、山田錦のブランドを守りたい」と力を込める。(長沢伸一)

 和田さんは大学院で小麦の研究に取り組み、野菜の種苗メーカーをへて、15年前に実家を継ぐため、ふるさとの吉川へと戻ってきた。

 だが、当時は日本酒の需要が下がっており、山田錦の生産や出荷量も制限されていたという。思い起こしたのは前職で付き合いのあった奈良県の農家の言葉。「全国的にも有名な農産物の産地を一から作ろうとしても無理。その産地を今後も守っていくことがよい」

 米はビールの原材料にも使われていることを知り、それなら-と「山田錦入りのビール」を思いついた。10年ほどかけて企画を進め、自ら生産した酒米を用いて市外のビール会社と山田錦ビールを共同開発した。

 酒類販売免許を取得し、5年前になごみふぃーるどを立ち上げた。オリジナルブランド「吟米麦酒」として販売すると、日本酒のような味わいや華やかな香りが人気を呼んだ。

 「1点では物足りない。違うビールに挑んで山田錦の良さを伝えたい」と考えた和田さんは、第2弾として赤ビールを企画。市の「ふるさと納税返礼品開発支援事業」に応募し、クラウドファンディング(CF)で資金を工面した。

 今年3月、製造に着手。明石市の「明石麦酒工房 時」に醸造を依頼した。

 何度もサンプルを作り直した。米の味わいが強すぎるとビールの風味がなくなる、少ないと米の味わいがなくなる…。米を蒸したり、煮たりと加工法の研究も重ね、満足のいくまで風味を追求した。完成品をCFの協力者に送ると「飲みやすい」「普段の白とは違う味わいだった」と感想が寄せられたという。

 「ふるさとを離れていたからこそ、吉川産山田錦の価値が分かった」と振り返る和田さん。「地球温暖化の影響で、これまで同様の栽培方法は難しくなる。山田錦ブランドを守るためにはまずは知ってもらわないといけない。新しいビールや日本酒を造っていきたい」と話している。

 赤ビールは山田錦の館(三木市吉川町吉安)などで取り扱っている(定価1本600円+税)。また、三木市のふるさと納税の返礼品にもなっている。

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