脳死による臓器提供 全国でも提供数が多い長崎県 命と家族に寄り添う医師らの思い

「臓器提供という選択肢を示すことは重要」と述べる長崎大学病院の田﨑教授(右)と、「ご家族の思いをしっかり聞くことを大切にしている」と話すコーディネーターの竹田さん=長崎市坂本1丁目、同院

 脳死による臓器提供が全国で千例を超えた。厚生労働省の資料によると、都道府県別の累計提供数で長崎県は人口当たりで見ると、全国で4番目に多い。その拠点となっているのが長崎大学病院。命と向き合い続ける現場の医師は、脳死状態になった患者の家族に「臓器提供という選択肢があることを示すことが重要」と話す。
 脳死による臓器提供を可能にした臓器移植法は1997年施行。2010年に改正され、家族の承諾でも提供が可能となった。日本臓器移植ネットワークが公表している県内の脳死による臓器提供数は計22例。1件目は改正直後の10年12月だった。このうち15例が長崎大学病院。他に国立病院機構長崎医療センター、長崎みなとメディカルセンター、佐世保市立総合病院(現・同市総合医療センター)、長崎労災病院も提供実績がある。
 提供数が多いことについて長崎大学病院高度救命救急センター長の田﨑修教授は「積極的に増やそうという意識はない」と言う。その上で「命を救うために日夜働いているが、不幸にして脳死や心停止になる方はいる。最後に自分たちができることは患者さんの家族に納得のいく最期の迎え方をしてもらうこと。その一つが臓器提供も可能だという選択肢を示すことだ」と語る。
 厚労省の資料によると、高度な医療を提供している医療機関約900施設のうち、臓器提供施設として必要な体制を整えているのは約半数にとどまっている。田﨑教授は「主治医の負担は特に大きい。マンパワーが十分ではない医療機関にとって体制整備は簡単ではない」と指摘する。
 同院は数年前に各分野の専門医らによる支援チームを発足。チームで中心的役割を果たしている田﨑教授は「1例ごとに振り返りの会議を開き、課題を共有して改善を図っている」と説明する。医師による丁寧な選択肢提示と体制の充実。これらが提供数の底上げにつながっている。
 加えて、家族と医師の間を取りもつ臓器移植コーディネーター、竹田昭子さん(県健康事業団)の存在も大きい。主治医らが選択肢を示した後、家族と面談を重ねる。竹田さんはまず「今の思いを話してもらえるようにしている」と話す。移植を決めた場合、承諾書を書いてもらうのも役割の一つだが、「初回の面談で承諾について話すことはない」とじっくり向き合う。
 県内22例のうち、15歳未満は3例。竹田さんは「年齢に限らず、家族が決断するのは簡単ではない」としながらも、対象が子どもの場合、判断に時間がかかるケースが多いと実感する。「家族によっていろんな考え方がある。『誰かの役に立ってほしい』という思いもあれば『(脳死状態でも)生命の存続を』という方もいる」と、それぞれの思いに寄り添ってきた。
 田﨑教授は「提供を決断した家族が前向きに捉えてくれていることを後からコーディネーターに教えてもらうことがあるし、提供を受けた患者さんの症状が劇的に改善したことも伝えてもらっている。こうした経験を積み重ねることで選択肢の提示は大切だと確信を持てるようになっている」とコーディネーターの役割の大きさを語る。

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