W杯男子日本代表12人の今——海外組(渡邊雄太、富永啓生)とポイントガード編(河村勇輝、富樫勇樹)

男子日本代表がパリオリンピック出場権獲得に成功したFIBAバスケットボールワールドカップ2023の歓喜が収まるよりも早く、国内ではBリーグが、北米ではNBAやNCAAの公式戦が幕を開けている。あの12人は今、どのような活躍を見せているだろうか。個々の所属先での状況をまとめてみたい。ここでは海外組の渡邊雄太と富永啓生、ポイントガードの河村勇輝と富樫勇樹の4人について、11月5日時点までのデータを紐解きながら紹介する。

それぞれの所属チームで信頼を勝ち得ている渡邊雄太、富永啓生
渡邊雄太(フェニックス・サンズ)

©FIBAWC2023

渡邊は新天地のサンズで自身初となる開幕初戦からのローテーション入りを実現し、11月5日までに7試合連続出場を果たした。数字としても平均6.1得点、2P成功率62.5%、0.6スティールはキャリアハイペースだ。33.3%の3P成功率は今一つの数字に見えるものの、開幕からの4試合では16本中7本成功の43.8%。波はあるだろうが、今後上昇してくることは十分期待できる。

渡邊のプレーぶりからは、NBAで日本人として最長となる6シーズン目のキャリアを継続中という実績と、代表活動で得た総合力に対する自信が感じられる。また、ケビン・デュラントやデビン・ブッカーらリーグを代表するスターからチャンスでパスが回ってくる現状が、さらにその自信を強固にしてくれているような、前向きなムードが活躍ぶりから伝わってくる。ワールドカップで大会全体の3位に入る1.8ブロックを記録した渡邊は、北米の実況や解説、評論などでリム・プロテクターとしての存在感やヘルプディフェンスのうまさを高く評価されることも多い。さらなる飛躍を予感させるシーズンだ。

富永啓生(ネブラスカ大、4年生)

©FIBAWC2023

富永は10月29日(北米時間)に行われたドエイン大とのエキジビション・ゲームにスターターとして出場したが、前半に左足首をねんざして戦列を離れている。ただし、フレッド・ホイバーグHCは富永について、「装具も外して歩けていた。翌日の朝は痛みもあり腫れていたけれど」と話し、現地6日(日本時間7日)にホームのピナクル・バンク・アリーナで開催された2023-24シーズン初戦への出場の可能性もほのめかしたほどで、重度のケガではなかったようだ。

それでも開幕戦は結局欠場。11月5日時点では富永の調子や成長の度合いを測るデータはない。とはいえ、スターター起用は期待値の高さの表れだ。ちなみにドエイン大戦では、8分26秒間の出場でフィールドゴール3本中1本を成功させて2得点を挙げたほか、2リバウンド、2スティールを記録している。

©FIBAWC2023

ワールドカップでプレーした日本代表の中で、現在海外でプレーしているのは渡邊と富永の二人だけだが、両者がそろって所属チームで信頼を得ていることは、日本のバスケットボールのブランディングや強化の観点から大きな意義があるように思える。もちろん二人のほかに八村 塁がロサンゼルス・レイカーズで活躍しているのであり、さらにはカレッジバスケットボールの舞台で複数のプレーヤーが頑張っている。彼らの活躍により、海外の競技関係者の間で「よし、日本のプレーヤーを見てみよう」と考える人々も増えるに違いない。

続けてポイントガードの二人、河村勇輝と富樫勇樹について次ページでまとめる。

世界では通用しないというステレオタイプを吹き飛ばすダブルユウキ河村勇輝(横浜ビー・コルセアーズ)

©FIBAWC2023
ワールドカップで平均13.6得点と大会全体3位対タイの平均7.6アシストを記録した河村は、Bリーグでは平均24.0得点、5.6アシスト、1.4スティールがいずれもリーグのトップを争う数値だ。得点に関しては、昨シーズンの平均19.5得点から4.5ポイントジャンプアップ。アジア地区予選段階からトム・ホーバスHCに得点への意識を強く求められたことに奮起した成果が大いに見てとれる。

10月28日の広島ドラゴンフライズ戦で沈めた第4Q終盤のクラッチ3Pショットは、フィンランド戦終盤に成功させた一撃をほうふつとさせたし、11月5日の仙台89ERS戦でも、タイトなディフェンスを相手にトリッキー、スピーディーかつ正確なドリブルからプルアップ・ジャンパーやレイアップを何度も沈める様子は圧巻だった。ディフェンスの強度も落ちていない。ただしチーム成績が今一つ(11月5日まで5勝6敗)。それだけに、今後の横浜BCが怖い存在に感じられる。

富樫勇樹(千葉ジェッツ)

©FIBAWC2023

日本代表でキャプテンを務めた富樫も、河村と同じく昨シーズンから個人成績を大きく向上させている。平均22.2得点は昨シーズンから7.2ポイントの「爆上がり」。スティールも昨シーズンの0.7本から1.2本へと上昇している。EASL(東アジアスーパーリーグ)で、台北富邦ブレーブス(チャイニーズ・タイペイ)相手に、3Pショットを9本成功させて38得点を奪い、チームを勝利に導いた活躍も記憶に新しい。

河村の横浜BCとは事情も異なるが、千葉Jもややスロースタートで11月5日時点では6勝5敗と貯金が一つだけだ。EASLとの並行日程でチームのコンディショニングが難しいことなど、言い訳しようと思えば様々な要素が浮かぶだろうが、富樫としても悔しいはず。今後どのようにチームをけん引していくかは、司令塔としての腕の見せどころだ。

世界的に比較するとかなり小柄なポイントガード二人が、力を合わせて日本代表をけん引した直後の国内リーグでそろってレベルアップを感じさせている事実は、世界で勝つことを心底信じて戦うこと、そして実際に勝つことの意義を感じさせる。また、彼らの活躍は、小柄なガードは世界で通用しないというこれまでのステレオタイプが幻想でしかないことを証明している。これからの時代は、身長170cm以下、あるいは170cm台のガードがBリーグのトップで君臨し、世界をあっと言わせるような活躍をし、NBAの関心さえ引いても、喜ぶべきことではあっても驚くべきことではない。今、小さな子どもたちが、彼らの背中を見ながら成長してくると思うと、男子バスケットボールの将来が夢いっぱいに思えてくる。

© 日本文化出版株式会社