社説:武器輸出の緩和 「密室協議」で進めるな

 武器輸出の制限を際限なく緩めれば、戦後日本の平和主義の在りようを変質させかねない。

 防衛装備品の輸出ルールの見直しを巡り、自民、公明両党が実務者協議を再開した。安全保障面などで協力関係の深い国への地対空ミサイルなどの輸出も検討する見通しだ。

 国会論議もなく、与党だけの「密室協議」でなし崩し的に制限緩和を急ぐのは看過できない。

 日本は「武器輸出三原則」に基づき、長らく禁輸政策を貫いてきた。だが、2014年、当時の安倍晋三政権が武器輸出を「防衛装備移転」と言い換え、解禁にかじを切った。岸田文雄政権も昨年12月、国家安全保障戦略を改定し、防衛装備品の輸出や他国軍支援への前傾を強めている。

 日本を取り巻く安全保障環境の改善に加え、国内防衛産業の再生が狙いとするが、紛争を助長する懸念が拭えない。

 実務者協議は、政府の輸出ルール見直し方針を踏まえて検討。今年7月、一定の条件を満たせば殺傷能力のある武器の輸出も容認するといった論点整理を公表後、9月の内閣改造で中断していた。

 焦点の一つは、地対空ミサイルなど防御目的の武器の輸出解禁であろう。論点整理にも盛り込まれていなかった。

 ここに来て俎上(そじょう)に載せるのは、インド太平洋地域の同志国の防衛能力向上が狙いで、中国への対抗が念頭にある。ロシアが侵攻したウクライナにも提供できる仕組みを整備する意図も透ける。

 しかし、戦闘機を撃ち落とすミサイルなどの輸出は国際紛争を激化させ、日本が戦闘に加担しているとみなされるリスクが大きい。

 輸出した装備品の目的外使用や第三国への流出なども懸念され、平和国家として培ってきた国際的な信用を失うことになる。

 国際共同開発する装備品の扱いも論点とされる。英国やイタリアと共に開発する次期戦闘機の第三国への輸出を念頭に、輸出可能な装備の範囲や具体的な要件などを詰めるという。現在、運用指針で輸出を認めている救難や輸送などの非戦闘「5分野」の見直しも歯止めなき拡大につながる。

 規制の大幅な緩和を狙う自民と慎重な公明で溝があるが、結論を急がす政府の求めに応じ、両党は来月にも意見を集約する。

 国会論議を避け、国民への説明を欠いたまま閣議決定などで武器輸出の「たが」を外すのでは、理解は得られまい。

© 株式会社京都新聞社