小田和奏 - ソロ活動10年という節目を迎え、映像&音源作品『Songs on the Piano』リリース記念ライブをLOFT HEAVENで開催!

人生は1回しかないし絶対に後戻りができないから、やりたいことをやろう

──『Songs on the Piano』、DVDで楽しませてもらいました。曲の合間に挟まれるインタビューを耳にして、“コロナ禍”での自身の変化がこの作品が生まれる一つではあったのかなと思います。コロナ禍、和奏くんはどんなふうに活動をされてましたか?

和奏:うん、小田和奏というソロ名義の活動と同時にCodaとして『ジョジョの奇妙な冒険』のテーマソングを歌ったりしていて、この2つがリンクしない…同じ自分の活動なのに、ソロとしてはライブをやるだけならやろうと思えばやれる状態ではあったけど、Codaとしてはイベント等もたち消えになって動けない。自分の中の整合性を取る・筋の通し方が自分の中で難しかったんですよね。だからもう、誰もが安心してライブに足を運べるところまでは待とうと(決めた)。それで、去年の9月ぐらいから自分の中で“よし、自分で責任を持って動こう”って動き始めて。だから約2年半は(コロナ禍の)様子を見てた感じですよね。

──自宅などで、音は鳴らし続けて。

和奏:そうですね。配信ライブをやったり、自分の作品に限らず制作やいろんなアーティストやバンドのアレンジをやったり、作ることをメインに。リモートでもできたし、そうやって凌いでいたみたいなところもありましたね。いち早く(ライブ等をしたり)動いてた人間からすると“いつまで我慢する必要があるんだよ”みたいな、見えない文字だけど見えるメッセージもあったりしたけど、これに関しては正解が皆違うしね。僕、去年の7月にコロナに実際に罹患したんですよ。後遺症のようなものも特別ないですけど3日間高熱が出たりして、それで自分の中で1本筋が通り始めたんですよ、“やってみなきゃわかんないことは、やってみよう!”って。それでやっと踏ん切れた。それまではずっとどうしたら良いんだろう、動かないのは正解なんだろうかと思っていたことが。だから自分で歌う曲を書くのが一番難しかった、何を歌ったら良いのかわかんなかったから。それがコロナ罹患後にだんだん、自分の中で価値観が定まっていった感じでしたね。だからコロナ禍を経て自分の人生観みたいなものもアップデートされたところもあるのかな。

──“人生観のアップデート”、具体的にはどのように?

和奏:うん、やっぱりね、人に会いたい。僕の今のテーマで、“誰かのハッピーのきっかけであろう”っていうのがあって。音楽がそもそもそういうものだと思うし、コロナでいろんな人に会えなかったからやっぱり、いろんな人に会いたいなぁって。そもそも僕、最近いろんな人に“柔らかくなったね”って言われるんですよ。前は僕そんなにキレキレだったのかな?(笑) それと前から思っていた価値観ではあるけど、やっぱり人生って1回しかなくて絶対に後戻りができない、だったら全部(やりたいことは)やってみようって。

──今、お話しされていたようなことはまさに『Songs on the Piano』DVDでのインタビューでも語っておられますよね。

和奏:そうですね。何かもう…ね、遠慮してるのはもったいなくない?(笑)っていうのはあるかな。誰もが経験することで言うと、人って生まれてきて死ぬ…死生観の話になっちゃうけど、いつか死ぬっていうことを身近に経験していくと余計に、今生きていることを精一杯やらなきゃもったいないな、って腹を括らざるを得ないと言うか。僕は基本的に欲張りで食いしんぼうで、行きたいところもやってみたいこともいっぱいある。でも遠慮してたら、そういうものを全部食べ切れないで死んじゃうんじゃないかって思って。あとは“丁寧に生きよう”ってことも思いますね。これが俗に言う、歳を取ったことだとも言われるんですけど(笑)。

──和奏くんも40代になって、年齢を重ねるからこその良い変化なのではと思ったりしますよ。“丁寧に生きる”というのは、もう少し具体的に伺うと?

和奏:たとえばSNSのやり取りとかにしても、コイツにはタメ口でコイツにはタメ口じゃない、みたいなのを全部やめようと思ったんですよ。あと、朝起きて人に会ったらちゃんと“おはよう”って言えるとか、本当にそんな感じのこと。だけどそれで変わったし、ブログみたいに書いてるnoteも今、1400日ぐらい連続で書いてて。そういうグッドルーティンができてくると、今度は朝ちゃんと起きるんですよ。もっと言うと夜更かしもしなくなるんですよね(笑)。お酒は今も変わらず好きだけど、飲む頻度は本当に減ったし。

──X(旧Twitter)を朝に開くと大体、和奏くんの「雑記」というタイトルでnoteのリンクを見ています。noteに思いを書くことで自分の考えをまとめられて浄化できたりもして、まさにグッドルーティンなのではと思いますよ。

和奏:そうですよね、まさにデトックス。書き始めたときは創作のヒントがいっぱい埋め込めるんじゃないかなと思ったふしもあったし、今書いていることはコロナが明けたら盛大な布石として面白い素材になるんだったら最高だなと思ってましたね。今やっていることも全部、後々のストーリーの途中になっているんだな、って、書き続けてることによって思えるようになったと言うか。もともと読み物とか本が好きだし、思いっきり文章を書いてしまえ! みたいな(笑)ところから始めたんですけどね。

──ちなみに、最近読んだ本でオススメがあれば教えてください。

和奏:いろいろあるなぁ…林真理子さんの本とか、あとランニング・走るのが好きなので駒澤大学(陸上競技部監督を務めた)・大八木弘明さんの本で『必ずできる、もっとできる。』とか。今読んでるのはつんく♂さんの『凡人が天才に勝つ方法』で、最近は生きるヒントになるような本を読むことが多いですね。

今からでも、やりたいことはやるべきだから

──『Songs on the Piano』はDVDとCD、2形態でのリリースです。まず、ピアノ1台で弾き語りの作品を作ろうと思ったのは?

和奏:きっかけはいろいろあるんですけど、まずはNo Regret Life(以下、ノーリグ)が解散して今年10年で。ということはソロでもう10年やってきたんだな、と不思議な感じがして。ピアノはバンド時代はちょっとしたスケッチのように、メロディはこれがいいかなって弾くことはあったんですけど、ちゃんと弾くようになったのはソロになってからで自分の中では原点的な感じもあるんですよ。でもバンド時代にピアノを弾いてる人は知らない人のほうが多いと思うし、そんな姿をほとんど見せてきてないけど、(これまで)いろんな曲があるなと思った中で、グランドピアノ1台で歌を歌うという映像作品を作ろう、というのはわりと閃きと…チャレンジですね。

──ソロになったタイミングのとき、ギターの弾き語りで音楽を鳴らすこともできたと思うのですが、そもそもピアノを主に選んだのはなぜでしょう?

和奏:ギターは直球ストレートなんですよね、それでピアノはちょっとした変化球も投げやすい。バンド時代の曲もそうなんだけど、最初はギターで弾き語りをやっていた曲をピアノでやってみたら“このテイスト、面白いかも”って思ったんですよね。自分が小さいときに習っていたピアノは歌の弾き語りでも全くないし、何ならクラシックピアノだから全然違って譜面を見て弾くのが普通なんだけど、でもバンドって譜面じゃなくてコードじゃないですか。ピアノは逆にコードを見ても弾けないんですよね(笑)。そういうところから始まってピアノは入り口も切り口も違ったんですよね。もともとビリー・ジョエルとかエルトン・ジョンとか、坂本龍一さんも大好きだし。

──なるほど、憧れのようなものもあって。

和奏:教授(=坂本龍一)は『Playing the Piano』と題して(ライブや音源制作を)やっていて、最後の作品は息遣いまでマイクで録られてて、生きるってこういうことなのかなって思ったりしたし。だから憧れが一つ、そして今作に関しては一発録りで待ったなしっていう、僕がこれまで避けてきたことに初めて向き合おう、と。それは(インタビュー前半で話したように)心意気が変わったからで、何だろうな…未完成な自分を受け入れ始めてる(笑)というのがありますね。そもそも良い音楽の基準っていうのがわからなくなってますけど、最終的には自分の直感が良いと思えば良い音楽だし。レコメンドという意味で、“周りの皆が良いっていうから聴いてみたら良かった”っていうのは大事だけど、でも自分が良いなと思うものが必ずしもヒットしているわけではないし、自分だけの宝物のような良い曲もある。だから“良い”って思う、自分の直感を大事にしないとなぁって。

──そう! 自分の直感を信じて大切にするのはミュージシャンだけでなく、同時にリスナー側にも必要なことだと思います。そして“一発録りで収録した”という部分、DVDを見てても一発録りなのは明らかで、これはすごいチャレンジをしたなと思ってました。

和奏:うん、今回の作品の中で全てがパーフェクトだったかというと全然そんなこともなかったし、見れば見るほどこうしたかったなというのはあるんだけど、それも含めて。作品の帯にも自分で書いたんですけど、“綺麗にデコレーションされた音楽も、雑多な感情を切り取るところから始まる。整った美しさもあるけど、我武者羅にゴツゴツした魂を発することは美しいのかな”って。美しくしたものも、そのままのものでも、どっちだから良いってことじゃなくて、今までは感情や衝動を、綺麗に整理整頓して作っていた作品がほとんどで、今回は初めて雑多なまんまで装飾もほとんどない。アレンジメントもそんなに決め込んでないんですよ。そもそも『Songs on the Piano』っていうタイトルを先につけて、“ピアノの上で自分の歌を転がしてみようぜ”っていう感じで演ってみたんです。だからずっとピアノで演っている曲もあればピアノで初めて演ってみた曲もあるし、収録しながら(曲も)決めていったりして。それでちょっと余計な音が入ってしまって撮り直しとかはあったけど、ほぼ1テイクで撮っていく感じだったんです。緊張もあったし実際にカツカツな感じでしたけど(笑)、でもやっぱり、面白かったなぁ。

──収録された楽曲の中には、ノーリグ時代の楽曲もありますね。

和奏:オフィシャルなものとしては初めてバンドの曲を入れたので、ノーリグを聴いててくれた人にも聴いて欲しいなっていうのと、僕のバンド時代を知らない人に知って欲しいのもあって。バンドでもなければギターでもなくてピアノだし、あんまり面白くないよって思われるかなって勝手に一人ネガティブに考えたりもしたんですけどそんなこと言っても始まらんし、自分が良いと思う形をやってみよう、って踏み切りました。

──「メロディー」(2005年)は、懐かしさと共にあの当時の自分が蘇ってきました。

和奏:もう、約20年ぐらい経つんですよね。メジャーから最初に出したシングルで、東京に来て最初に録った曲で。

──ノーリグの曲もあれば、たとえば「眠らない夜」は年齢を重ねた和奏くんだから書ける楽曲では、と思える素敵な曲もあったり。現在は楽曲制作自体もピアノでしょうか?

和奏:いや、アコースティック・ギターと半々ぐらいですかね。ある種、ギターもピアノもどっちもできるのは自分にとって都合が良くて、同じ旋律を弾いてても別のインスピレーションが湧いてくるから2曲分書けるので(笑)。作っていくうちに、“これはピアノのほうが面白いかな?”ってピアノにしたり。

──そして「ハヤテ」という新曲。これが今の和奏くんの気持ちを集約した1曲なのだなと今日、お話を聞きながらもつくづく思います。

和奏:そうですね。動き始めてからやっと…この曲が書けて、次に進めるなって思えた曲で。今の自分はこんなモードだよっていう気持ちをこの曲に書いて。“やってみなきゃわかんない”っていうことに話は尽きるんですけど、音楽以外で唯一の生きがいみたいなことが僕は走ることで。“走るのってしんどい”って言われたり(笑)何で走るんだとか言われたりしますけど、公園とかにふと行くと子どもたちが意味もなく駆けっこを始めるのを見たりするわけですよ。ゼーゼーしながらも皆、顔は笑って走ってる。あの気持ちを俺たちは忘れてるんじゃないかな、って思ったりしたんですよね。どこがゴールとかも決めずに駆けっこしてる子どもを遠目に見て、大人になって賢くなって知恵がつくと、何かをやる前からこれはできる・これはできないって決めちゃう。でもそれって要るのかな? みたいな。“始める前にさ 終わらせてみたり”って歌詞を書いたとき、これはまさに自分が陥りがちだった自分だな、って。まずは、やってみようよ、って。

──はっとさせられる歌詞でしたね、年齢を言い訳にしがちな自分に。

和奏:歌い出しは“小さな頃から 思い描いてた 未来はそばにあるかい?”で、自分とか周りの人に同じように問いかけると“どうかなぁ?”っていう人が多い気がしてて。でも、今からやりたいことをやっても良いじゃん、って僕はすごく思う。そしてそういう曲を…やっぱり自分のために書いたところが大っきいのかな。今年の頭ぐらいにプロトタイプができたけど、曲を書きながらも本当に、自分で震えながら。“これは自分が歌えるのかな?”って。

──和奏くんはこのフレーズに沿って自分のことを鑑みると、どうでしょう?

和奏:なりたかった将来の夢としては全然、違う大人になってますね。バンドを始めたときは全国各地のライブハウスをいっぱいにできるロックバンドでい続けようとかもあったけど、今はそれとは違う未来が自分の現在地点で。でもそれで悪い生き方をしてるとは思わないし、「ハヤテ」の問いかけで言うならば…自分がなりたいものに向かって行ける、そんな自分でいるか、って問われると、自分は今そういうモードにやっと帰ってきたなっていうのはすごくある。だから今は、この曲もちゃんと歌える、うん。

──今月末にロフトヘヴンのグランドピアノ1台でこの曲やいろいろな曲が聴けるのは本当に楽しみですね。和奏くん、どう歌を届けるんだろうって。

和奏:うん、基本的には作品とリンクする内容で(ライブを)演りたいなと思ってますね、僕はグランドピアノ1台で。ロフト系列がグランドピアノがある小屋(=ライブハウス)を作ってくれたのがすごく嬉しくて。

ロフトスタッフ:そのピアノ自体もずいぶんと歴史があって、すごくヴィンテージなグランドピアノなんですよ。

和奏:そうなんだ、それをガッツリ弾かせてもらうっていうのは楽しみだなぁ。この日は山陰のhommeっていうバンドのアキヤマヒロキくんがゲストでいるんだけど、彼が僕のピアノを好きでいてくれて、彼のバンドで僕もピアノを弾いたりしてるから(この日も)何か一緒にやりたいなと思ってるかな。それと僕のミュージシャン人生においてロフトグループとはたくさんの思い出というか(笑)、そこで育ててもらったようなところがあって。(ノーリグでは)ツアーは下北沢シェルターがスタートっていうのがほとんどだったし、最後にロフトでイベントもやらせてもらったり、いっぱいあるから。自分の大事な作品がリリースのタイミングで、ロフトの名前がついた場所で演らせてもらうのは感慨深いですね。(現在ロフトがある歌舞伎町に移転する前に)西新宿にあったロフトのスケジュールを高校生のときに(雑誌等で)見ながら“何だ、ここ〜!!”って想像してたあのときの僕から、今も地続きですから(笑)。

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