社説:博物館の資金不足 貧弱な文化行政のつけ重く

 国立科学博物館(東京都)が今年8月から行ったクラウドファンディング(CF)に約9億円が集まった。

 約5万7千人に上る寄付の人数と総額は国内のCFによる資金募集として過去最大という。

 多くの人が博物館の運営に関心を寄せ、目標を大きく上回る寄付が集まったが、「国立」と冠する施設でさえ市民から運営資金を募らねばならない現実が浮き彫りになった。

 長い間かけて積み重ねられてきた知の蓄積の保存や継承に誰が責任を持つのか。国や自治体の役割が問われる事態だ。

 国立科学博物館は恐竜などの化石や鉱物、生物標本など、幅広い科学関連の資料約500万点を収集、保管する。自然科学系の博物館としては全国で最大規模の施設だ。

 予算の8割は国からの交付金が占めるが、毎年減額されている。近年は新型コロナウイルス禍で来館者が急減した上、燃料費高騰の影響もあり、資金不足を補うためCFに踏み切った。

 その成功は「科博ファン」を広げる展示や広報の取り組みを続けてきた努力の結果だろう。

 気になるのは、寄付金が標本の整理や保存、管理といった博物館の基幹業務に充てられることだ。博物館の運営に不可欠な仕事や光熱費が運営交付金で賄えないのは正常とは言えない。

 国立博物館などは2001年から次々と独立行政法人に移行した。独自運営ができるようになった半面、効率性が重視され、運営交付金も05年前後から減額傾向が続いている。

 イベントやグッズ販売などで収入確保に腐心するものの、全体の運営を下支えできるような広がりは見込めない。

 知名度の高い科博でさえ維持が困難な状況に陥っているのは、貧困な文化政策の帰結と言わざるをえない。

 京都や滋賀も含め、各地の博物館・美術館の運営環境は厳しい。施設の老朽化や収蔵庫不足が指摘されている。大阪府では府所蔵の美術品が府庁舎の地下駐車場に保管されていることが大きな問題となった。

 専門性が求められる学芸員らも、非正規への置き換えが進んでいると指摘される。日本博物館協会の19年の調査では、3分の1の施設で学芸員資格を持つ常勤職員がいなかった。

 昨年の博物館法改正で、博物館は地域の観光振興への貢献も求められることになった。博物館の存在をアピールする機会でもある。

 京都市京セラ美術館ではCFを取り入れて自主企画展を開催し、一定の成功を収めるなど、各地の博物館や美術館で独自の試みが続いている。

 文化行政は国民の知と創造性の泉ともいえる。国は現場の工夫や努力任せにすべきでない。

 そのためには、年1千億円程度と先進国では際だって少ない文化庁の予算増額が不可欠だ。

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