世代超え愛された食堂「春駒」101年の歴史に幕 牟田さん夫婦「やり切った」 佐賀市高木町

「春駒」ののれんを下ろす3代目店主の牟田達也さん(右)と妻の京子さん=佐賀市の食堂春駒

 佐賀市高木町で101年にわたって続いてきた老舗食堂「春駒」が、閉店した。看板メニューの皿うどんなどが地域で世代を超えて親しまれ、多くの人に愛されてきた。夫婦で店を続けてきて年ごとに体力的に厳しくなり、物価高などの影響も受けて幕を下ろすことを決めた。

 春駒は1922(大正11)年、牟田丈一さん(故人)が長崎県での修行を経て創業した。看板メニューの「皿うどん」は、焼き目の付いたちゃんぽん麺が野菜の甘みとシャキシャキとした食感がとろみのある鶏ガラスープのあんに絡み、人気を博した。ちゃんぽんや釜揚げのだしを用いた和風の「カレー丼」も人気だった。

 「もやしとしょうゆは地元業者から仕入れていて、これがないと春駒の味にならない」と丈一さんの孫・京子さん(62)。その不可欠なもやしの業者から8月に廃業を知らされた。代替業者を探したが、仕入れ価格が1.5倍になり、味が落ちることも懸念された。次第に閉店を考えるようになった。

 店を継いで38年となる3代目店主の牟田達也さん(67)は、長年の立ち仕事で疲労が蓄積されてきた。「あと2、3年は続けたかったが、体を壊す前にやめようという気持ちもあった」。10月末で閉店することを決め、その2カ月ほど前からテーブルの上に閉店を案内するスタンドを立てた。

 それからは連日、店の前に行列ができた。常連の女性客はいつもと違って大盛りの皿うどんを注文し、「もう食べられなくなるから今のうちに食べる」とほおばった。「気が変わって続けないの?」「懐かしい味がなくなるのは寂しい」といった声も次々と寄せられた。皿うどんやちゃんぽんは通常、1日100皿ほどの注文だったが、最終日には140皿に上った。

 閉店の1週間後、店内には春駒の歴史を紡いできた食器や調理器具の片付けなどにいそしむ牟田さん夫婦の姿があった。達也さんは腕に貼った湿布をさすりながら、「やり切った。これからゆっくり旅行でもしようか」と京子さんに笑いかけた。(上田遊知)

閉店の知らせを聞き、大勢のファンが店を訪れ行列をつくった=佐賀市の食堂「春駒」

© 株式会社佐賀新聞社