【MLB】 大谷翔平争奪戦の大穴は? 若手スターが揃うレッズがダークホース?

写真:今季は大谷とデラ・クルーズが戯れるシーンも

今オフのストーブリーグの目玉、大谷翔平の獲得レースは混迷を極めることが予想されている。史上最高額となることが確実視されるその契約規模、そして大谷本人がどのような価値観で新天地を選ぶかなど、あまりに多くの不確定要素に満ちているためだ。

大谷争奪戦の行方はファンやメディアに限った話ではなく、球界関係者にとっても予測がつかないものになりそうだ。ガーディアンズのGMマイク・シャーノフは「彼は二刀流選手というだけで、まったく違ったダイナミックさをもたらしてくれる。それが市場でどう評価されるかは想像もつかない」「どうなるのか見当もつかない」と頭を悩ませている。

そういった球界関係者の声を取材する『USAトゥデイ』のボブ・ナイチンゲール記者によれば、GMたちはこう語っている。「唯一保証されているのは、誰もが予想しなかった“ミステリーチーム”が最終候補に残ることだ」と。

アストロズのデイナ・ブラウンGMも「彼がどこに行き着くのかは誰もわからない」としつつも、「ワイルドカードのチームが現れるかもしれない。こういうチームは突然現れるものなんだ」と意外な球団が大谷獲得に近づく可能性を指摘している。

これまで本命として報じられているのは、ドジャース、カブス、レンジャーズといった実力と資金力を兼ね備えたチームたち。そういった本命から外れて、ミステリーチームとなり得るチームを選ぶとしたら、どこになるのか。

編成や財政の状況から大谷獲得に動いてもおかしくない意外なチーム、それがシンシナティ・レッズだ。

レッズは2023シーズン、100敗を喫した昨年から持ち直して82勝をマーク。エリー・デラ・クルーズやマット・マクレイン、スペンサー・スティアーといった新人の打者たちが続々と芽を出し、来季以降の展望が非常に明るいチームだ。

ここまで大谷争奪戦においてほとんど名前が挙がっていないのは、レッズが典型的なミドルマーケットのチームであるためだろう。レッズの開幕時の年俸総額ランキングは毎年常に10位台中盤から20位台前半を推移しており、2000年以降の最高順位は11位(2014年)に過ぎない。

ではなぜレッズを“ミステリーチーム”に推すことができるのか?それは今オフのレッズは財政的に余裕があると考えられているからだ。

レッズは今季限りでジョーイ・ボットー、そして開幕前にリリースされたマイク・ムスタカスとの2件の大型契約が終了。球団一筋のボットーは衰えが顕著、ムスタカスは契約を1年残してリリースとなっていることからも分かる通り、この2人との契約は不良債権化していたと言って良かった。今季はこの2人だけで合わせて4300万ドルの年俸を支払っていたが、来季以降はこの負担から解放される。

レッズの2024年の年俸総額の確定額は、現時点でわずか3600万ドルほど。安価な延長契約を結んでいるエース候補ハンター・グリーンの333万ドルが現時点で最高給となるレベルで、年俸調停の予想額でも2021年新人王ジョナサン・インディアの350万ドルがトップだ(インディアと2番目に高いニック・センゼルはしかもトレード・ノンテンダーの候補にも挙げられており、さらに低くなる可能性も)。

レッズよりも来季の確定額が低いのはほぼ焼け野原の再建球団アスレチックス(約3300万ドル)だけであり、プレーオフを狙える陣容ながらレッズがいかに財政的に余裕があるかが分かるだろう。

そして、ポジションの兼ね合いだが、一塁手のボットーと袂を分かったこともあって現在レッズにはDH専門の選手はいない。しかし、レッズは野手が溢れている状態だ。マクレインの台頭、そして有望株ノエルビ・マーテのデビューによって、本職は内野手のスティアーが外野に、インディアがDHへと押し出されている。

ただ、レッズはシーズン中からインディア放出の噂が持ち上がっていたように、野手をトレードに出すことがしきりに噂されている。ニック・クロールGMも『ジ・アスレチック』に対して他球団と野手のトレードについて話し合ったことを認めている。さらにレッズは現時点でFAの一塁手・三塁手のジェイマー・キャンデラリオに興味を示していると報じられており、それが本当ならば野手陣のトレードは既定路線となっている可能性もある。

余っている野手をトレードに出し、有望な若手が多いながらも故障に苦しんだローテーションを補強、そしてDHに大谷を迎え入れる。大谷がトミージョン手術から復帰した際にはグリーンや今季ブレイクしたアンドリュー・アボット、今季ドラフト全体7位のレット・ロウダーらと強力ローテーションを結成する…という青写真はひとまず成立する。

しかし、大谷獲得に動かない理由を挙げればキリがないのも事実だ。

クロールGMは来季の予算はまだ確定していないと語っている。球団史上最高の年俸総額は2019年の約1億2627万ドルで、大谷を加える余裕はあるようにも思えるが、レッズはコロナ禍による財政的ダメージを最も受けた球団でもある。年俸総額をどの水準にまで戻すかは定かではない(だからこそ“大谷マネー”を期待して獲得に動くという見方もできるかもしれないが)。

野手陣のトレードの噂についても、「現時点で誰かをトレードする必要はない」とクロールGMはトレードしないという選択肢も示している。怪我人、若手の成績下降といった不測の事態に備え、あぶれた選手たちはDHを含めて回していくのは、合理的な選択肢のひとつだ。

ただそれでも、なかなか予測し得ないからこその“大穴”であり、“ミステリーチーム”なのだ。デラ・クルーズやマクレインといったスター候補たちと大谷がもし共演すれば、レッズは今にもまして、球界で最もエキサイティングなチームとなるに違いない。

およそ1週間後に迫るクオリファイング・オファー(QO)の受諾期限で、順当に大谷がQOを拒否すれば、大谷争奪戦は本格化していくことだろう。本命視されるドジャース、カブスの動向はもちろんのこと、思わぬ“ミステリーチーム”の存在にも注目して見守りたい。

※)年俸関連は全て『Cot’s Baseball Contract』から引用

文=大鳥敬太

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