Vol.71 「ファーストレスポンダー」としてのドローン[小林啓倫のドローン最前線]

ウェブブラウザから操縦可能

前回の記事では、暗闇でも安全に飛行可能なドローンが登場し、それが法執行機関の監視能力の強化につながることが予想される(そして懸念される)ことについて解説した。

しかし警察用ドローンの進化はそれだけではない。より高度なドローンを、より手軽に運用することを可能にする仕組みが研究されている。たとえばいま注目されているのが、遠隔地にあるドローンを、普通のウェブブラウザを通じて操縦するという技術だ。

この技術を開発しているのは、サンフランシスコに拠点を置く、Paladin Dronesという新興のドローンメーカーである。彼らはKnighthawkというブランド名で自社ドローンも製造しているが、他社製ドローンも対象とすることが可能な、ドローン管理システムを開発している。特に警察や消防など公共機関を顧客としており、彼らが事件・事故現場において、ドローンを活用した状況把握を行うことを支援している。

彼らが開発した、その名も「Watchtower」(監視塔の意味)というドローン管理プラットフォームは、クラウドベースのシステムとして開発されている。そのためインターネット回線を通じてどこからでもアクセスし、接続されたドローンをコントロールすることができる。そのタイムラグは0.5秒にまで抑えられているそうだ。

しかもアクセスに特殊なソフトウェアは必要なく、パソコンやスマートフォンに搭載されたウェブブラウザで利用できる。ユーザーはドローンから送られてくるライブ映像を見ながら、タップやクリックだけで操縦することができ、また別のユーザーと映像や各種情報を共有できる。

こうしたシステムは近年、「DFR(Drone as a First Responder)」と呼ばれるようになっている。直訳すれば「ファーストレスポンダーとしてのドローン」となるが、意訳すれば「ファーストレスポンダーの役割をドローンに果たさせる」と表現できるだろう。

ファーストレスポンダーとは、「最初に(ファースト)」「対応する人(レスポンダー)」という意味の通り、事件・事故現場において最初に対応に当たる人物を意味する。それは警官や消防隊員、救急隊員のような専門スキルを持つ人物でないことが多く、彼らが現場に到着する前に、必要最低限の初期対応を行うことになる。DFRではドローンの機動力を活かし、事件・事故の通報を受けて直ちに現場に急行させ、後続の活動に必要な情報を収集させることが目指されている。

Paladin DronesのWatchtowerシステムでも、限られた人員とドローンで、適切な状況認識に向けた情報収集を行うことが念頭に置かれている。そこでウェブブラウザだけでドローンの操縦・管理が可能な仕組みを開発したというわけだ。

銃声検知ソフトとの統合も

「ドローンをファーストレスポンダーとして、できる限りの情報収集に努める」というコンセプトの通り、Watchtowerシステムではドローンに機能追加する仕組みも実装されている。そのひとつが、銃声検知ソフトウェアとの統合だ。

銃声検知ソフトとは、音響センサーから得られた音のデータをリアルタイムで分析して、その中に銃声が含まれていないかを検知するものである。データを集める音響センサーの数は1台や2台ではなく、都市の特定のエリアをカバーするほど膨大なもので、またその設置場所の位置情報も事前に把握されていることが一般的だ。それにより、銃声を検知した場合、それがどこで発生したかの特定までを行うことができる。

以下はそのデモ映像だが、システム(EAGL Technologies社製)が銃声を検知することで、ドローンが自動的に離陸して現場に急行する様子が収められている。

またPaladin Dronesによれば、自動車のナンバープレートを自動で読み取るソフトウェアとの統合も可能とのこと。こうした機能統合を行うことで、ドローンの情報収集能力をさらに向上させるわけである。

同社のウェブサイトでは、実際の警察署に配備された際の効果についても紹介されている。たとえば米ニュージャージー州の都市エリザベスの警察署が導入した事例では、2022年5月31日から2023年1月13日にかけて、DFRシステムを週4日・10時間のシフトで運用した結果が検証された。それによれば、期間中にドローンが出動したのは1390件。そのうちドローンが収集したデータのみで案件がクローズされるに至ったのは、25%だったそうである。またドローンが収集したデータのおかげで犯人逮捕に至ったケースも、16件確認されたそうだ。

もちろんこうした効果については、運用にかかったコストとの兼ね合いで考えたり、プライバシー侵害のリスクといったマイナス面にも目を向けたりした上で、最終的な判断を下さなければならないだろう。しかし法執行機関の関係者にとっては、無視できない数字のはずだ。

これからさらにテクノロジーが進歩していくことを思えば、私たちが事件・事故の通報をしたときに最初に現場に現れるのは、1機の小さなドローンであるという日がすぐそこまで来ているのかもしれない。

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