高齢ドライバーの事故が増加中 泣く泣く免許を自主返納する人 「生活できない」と運転続ける現実も

高齢者が運転する自動車による事故のニュース…「信号無視」をはじめ、「ブレーキとアクセルの踏み間違い」「道路の逆走」「歩道や店に突っ込む」など、連日のように報道されていますが、反面、車がないと生活できない高齢者が多く存在することもまた事実です。高齢者を取り巻く自動車運転免許の現状を取材しました。

「まだ運転をやるつもりだった…」 91歳男性が信号無視で犬をはねる

2023年7月、名古屋市緑区で91歳の男性が車を運転中、横断歩道を渡っていた6歳の女の子が連れていた犬をはね、死なせる事故が起こりました。原因は男性の信号無視。女の子がはねられていてもおかしくなかったこの事故について、女の子の母親は高齢者が運転する怖さを強く訴えます。「高齢で運転する危険性」についてどう考えているのか、という問いに対して男性は…

(男性)
「(まだ運転を)やるつもりだったけど、もうやれなくなったのでやめます」

男性はこの事故の後、免許を返納しました。一方、愛知県瀬戸市では2023年10月19日に、高齢ドライバーが運転する車が喫茶店に突っ込む事故も発生しています。

相次ぐ高齢ドライバーによる事故。特に75 歳以上の後期高齢者による事故が急増しています。アクセルとブレーキの踏み間違い、前方不注意など、運動機能や認知機能の衰えで、車は容易に「凶器」となります。

そんな事故の増加とともに増えているのが、高齢者による運転免許の“自主返納”です。名古屋市内の運転免許試験場では、一日平均約10人の高齢者が免許を返納しています。

自主返納する高齢者がいる一方、車なしでは生活できず運転し続ける人も

名古屋市緑区に住む、79歳の内木千枝子さんも免許を返納した1人。

(内木千枝子さん)
「(事故が)起きてからでは遅いと思う。悔しいですけど、一歩手前で返納した方がよいのでは。ちょっと寂しい。すごく寂しいです」

内木さんは免許を返納して、30年間続けてきた車の運転をやめました。週に1 度は通っているコーラス教室も車では行けなくなり、今までは車で30分だった道のりを1時間に3本しかないバスで1時間半かけて教室へ通います。

(内木千枝子さん)
「それ(歌)がないと何も刺激的なことがない。なんとか維持していきたい」

内木さんの生きがいにもなっている「歌」。しかし、免許を返納した今は教室に通うのも一苦労です。

(内木千枝子さん)
「車でしか行けない買い物もある。そういうところが悔しい。家族に負担をかける」

一方で、簡単に免許を手放せない人もいます。愛知県津島市に住む82歳の加藤君子さんは、子どもは近くに住んでおらず 1人暮らし。車なしでは生活が成り立たないといいます。近所に住む83歳の友人を車に乗せて、病院へ向かいます。

(加藤君子さん)
「全部が全部80(歳)以降は返納だなんて、とんでもないこと。生活できない」

楽しみのカラオケも、車でないと行くことができません。

(加藤君子さん)
「趣味は、年をとって有るのと無いのとではものすごく差がある。人間、生き生きしてくる、好きなことをやれると」

75歳以上が対象! 免許更新時の「認知機能検査」とは

高齢者が起こす事故が増える中、2009年からは免許更新の際、75歳以上のドライバーに認知機能検査が導入されました。技能テストも行われるようになり、高齢ドライバーをいわば「ふるいにかける」ようになっています。

この日、免許更新に来た高齢者は6人。まずは、認知機能検査からです。16枚のイラストを暗記し、一度別の問題で注意を逸らした後、何のイラストがあったかを回答します。このほか、日付や時間を聞くなど認知症の有無を簡易的に検査。実際に運転技能もチェックされます。

(受講した女性 81歳)
「自分の見ている感覚と、車の距離。何センチ後ろにあるのかは、普段からわからないまま乗っているので。あらためて気をつけるように」

運転のミスなどありましたが、全員無事に免許更新ができるようです。

(受講した女性 81歳)
「これから先、いつまで頑張れるかわからない。今から早速免許をもらいに行ってきます」

高齢者の免許更新を担当する担当者も、身体の衰えや視力、聴力の低下は自覚してもらいつつ、遠出を避けたり、夜間を避けたりして車を活用してほしいと考えています。

警察とスーパーマーケットが協力 “暗い時間帯の運転を減らす”取り組み

高齢者の運転による事故を少しでも減らしたい警察。そこで、スーパーマーケットと連携して、ある試みを行いました。毎週木曜日の卵のタイムセールを、午後2時から3時までと、今までより3時間も早めてもらったのです。

今の時期、午後5時から7時は特に交通事故が多く、過去5年で見ても死者数は昼間に比べて約3倍になっていて、警察はこの時間帯を「魔の時間」と呼んでいます。セールの時間帯を早めてもらうことで、「魔の時間」に買い物客が集まらないようにし、事故に巻き込まれる人を減らすことが狙いです。

(買い物客)
「明るいうちに来て、主婦だから少しでも安くなればうれしい」

今や、免許保有者の4人に1人が高齢ドライバー。車を運転することが暮らしに不可欠だったり、生きがいになっている趣味とつながる人も多い中で、単に「高齢者に運転をやめてもらう」だけでは対策にはなりません。公共交通機関のさらなる充実など、免許を返納しても安心して生活できる社会づくりが求められています。

CBCテレビ「チャント!」10月25日放送より

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