ゴジラ最新作、山崎貴監督「神様と怪物、両方を兼ねた存在」

日本に強烈なインパクトを与えた、1954年の初代『ゴジラ』(監督:本多猪四郎、特殊技術:円谷英二、音楽:伊福部昭)。特撮映画としてあまりにも完璧すぎたため、以降の映画人はその呪縛からずっと逃れられずにいたが、2016年に庵野秀明が『シン・ゴジラ』で60年ぶりにその呪縛を解いたのは記憶に新しいところ。

映画『ゴジラ-1.0』で脚本・監督・VFXを担った山崎貴監督

その『シン・ゴジラ』の次作はどの監督が担うのか。誰もが二の足を踏みそうな重圧のなか、オファーを真正面から受けきったのは、卓越したVFX技術と演出力で、『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズ、『海賊とよばれた男』などを手がけてきた山崎貴監督。ゴジラフリークの評論家・ミルクマン斉藤が話を訊いた。

取材・文/ミルクマン斉藤

◆「作り終わってから『これは神事だな』と」

──今回の『ゴジラ-1.0』、面白かったです。ゴジラ映画のなかでは格段にドラマ性があって。

初代のゴジラがそうですからね。怪獣映画って、怪獣と人間とで話が分かれがちなんですよ。なんとかそれをリンクさせようと意識しました。

映画『ゴジラ-1.0』 (C)2023 TOHO CO., LTD.

──怪獣映画はどうしてもバトルの話になりがちなんで。ゴジラも、シリーズの初頭から平成ゴジラまでそうなっちゃった。やっぱりゴジラの登場というのは、水爆実験で安住の地を追われた結果なので。

そうそう。核実験があって生まれた生物というのがまずストーリーとしてありますよね。

──ちょっと感慨深かったんです。核時代に突入してしまった恐怖、戦争で無念にも亡くなった方の怨念が具象化して、それでゴジラというものが成り立っているわけで、やはりゴジラって、いみじくも「GODZILLA」とも書かれますが、まさに「怒れる神」的側面が強い。

やっぱり神様と怪物、両方を兼ね備えている存在が日本のゴジラだなと。ハリウッド版ゴジラは、怪物(モンスター)としての要素が強い印象があります。

──ただ怪獣王じゃなくてね。

どこかに神様の素質があるというか、言うなれば「祟り神」ですよね。だから、核によって生まれたんだとしたら、本来日本に来るべきではないのに、祟り神になって暴走して、日本にやってくる。『もののけ姫』の祟り神も、全然関係ない村に来て荒らしまわるじゃないですか?

ああいう昔から人間が恐れていた、すごい怨念を持ってしまったものが、こっちに来たらどうしようみたいな感覚って日本人じゃないと持ち得ない。そして、倒すというより鎮める。作り終わってから、「ああ、これは神事だな」と思ったんです。ゴジラという災厄をみんなで一生懸命鎮めて帰ってもらうのがゴジラの物語だと改めて感じましたね。

◆「3代目なんです、僕のゴジラとしては」

──確かに儀式的なもの、鎮魂的なものを感じますね

国産のゴジラを作るという意味が、意外と日本に属するものなんだなという感じがしたんですよ。ハリウッドのゴジラは日本とは桁違いな製作費をかけて作られていますが、やっぱり本質は日本にあるんだなと。「ゴジラにおいてはそこは譲れんよ」というのを、作り終わってから感じたんです。

1954年の初代ゴジラが、まだ戦争の傷跡も残ってるのに核実験もたくさんおこなわれてしまって、日本はどうなるんだろうという人々の不安がゴジラという形でやってきたから、いろんな人たちの心に刺さったと思うんです。

映画『ゴジラ-1.0』 (C)2023 TOHO CO., LTD.

──不安の時代という意味では、現在まさにその最中に我々はいますね。

いろいろと世界情勢、キナ臭い問題もありますよね。あと、作っている最中に世界がコロナになって、どんどん映画の内容とリンクしていって。『シン・ゴジラ』が3.11のメタファーだったように、これも今の不安なんかが怪獣となって現れて、それが祟り神を鎮めるという意味なのかなと思いましたね。

──今回、主人公・敷島(神木隆之介)が、戦争でのトラウマを克服するために奔走します。山崎監督は、これまで『永遠の0』(2013年)や『アルキメデスの大戦』(2019年)など、戦争映画を何本か撮ってられるじゃないですか。東宝的に見てみると、監督なりの8.15シリーズ(※註)という感じがすごくしたんです。

※岡本喜八監督『日本のいちばん長い日』(1967年)など、東宝が手がけた一連の戦争映画

8.15シリーズ+ゴジラですからね(笑)、本丸中の本丸です。僕の戦争映画は事実を描くだけじゃなくて、違った切り口をもっていると思うんです。例えば『永遠の0』なら、おじいさんが何を思ってるかを現代の若者たちが探っているうちに真実が浮かび上がるみたいな、いわゆる戦争映画じゃなかったじゃないですか。

『アルキメデスの大戦』に関しても、大和の沈没を前提として、大和を作ることの是非を問う映画でしたからね。同じ列に並んでいる。ちょっと違う切り口で戦争を描きたかったんです。そういう意味では今までと同じですね。戦争が終わって生き残った人たちの想いを映画のテーマにしたというか。

「生き残った人たちの想いを映画のテーマにした」と山崎貴監督

──まさに東宝らしく、8.15シリーズのなかにスポッと今回のこのゴジラが入っている気がします。しかしドラマ性は強いんだけど、ゴジラの出し方にはためらいがないですよね(笑)。

はい(笑)。オープニングからそうですね。

──山崎監督が手がけた『ALWAYS 続・三丁目の夕日』でフルCGのゴジラを見たとき、あまりの格好良さに、きっとゴジラ好きに違いないと。フォルムといい動きといいアングルといい、おそらく山崎監督はゴジラを撮りたいんだろうなと。

そういう意味で言うと、『続・三丁目の夕日』があって、「西武園ゆうえんち」で『ゴジラ・ザ・ライド 大怪獣頂上決戦』というアトラクションをやって、で、今回のゴジラですからね。3代目なんです、僕のゴジラとしては。満を持して本編。ようやくここに辿り着いたという感じですね。

◆「あれは本来、人間側の反撃のテーマ」

──今回の造形にも直接関わられていますが、どんなところを重点的にデザインされましたか?

立体でもデザインしたし、絵もいっぱい描いたんですけど、「『ゴジラ・ザ・ライド』のゴジラが一番良いんじゃねぇか?」となって。というのが、『ゴジラ・ザ・ライド』は究極のゴジラを作ろうと始めたものだったんです。それに対してのカウンターで作っていたんですが、最終的には『ゴジラ・ザ・ライド』をベースに、さらに映画用にブラッシュアップしようと。「俺たちのゴジラはこれだ!」と。

映画『ゴジラ-1.0』 (C)2023 TOHO CO., LTD.

──『続・三丁目の夕日』のゴジラは、オリジナルのフォルムに近かったですよね。今回ちょっとガタイがデカいというか。

マッシブですよね。ゴジラのカッコいいところを集めて作った感じです。いろんな時代のゴジラがあるけど、でも、誰が見てもゴジラだねって思えるようなゴジラで、それでいて凶暴で恐ろしいものを見たくて。

──そして、海のシーンが多い。

もう、大変だったんですよ(苦笑)。特にCGの時代は、1カットごとに全部シミュレーションしないといけないから、海はメチャクチャ大変で。でも、今までと違う感じを出したかったんです。あと、軍艦も出したかったから(笑)。あの時代を調べていくと、機雷処理の人たちがすごく活躍したということが分かってきて、そんな人たちなら貧しい船でも機雷の力でゴジラと戦えるんじゃないかと。

──そして、抜群のタイミングで伊福部昭さんの音楽が出てくる。もちろん、佐藤直紀さんの音楽もシンフォニックで素晴らしいんですが。

佐藤さんが作ってくれた部分はかなりストイックだったんです、音の使い方が。最初聴いたとき、もっとメロディアスな感じになると思っていたら、わりと現代音楽に近かったんで大丈夫なのかな? と。でも、音をつけてみたら、ものすごくゴジラの品格が上がって。

で、ここいちばんというシーンでは、伊福部サウンドじゃないですか。僕はもっと違う曲を想定してたんですけど、佐藤さんが「いや、ここはやっぱり伊福部先生でしょう」と、あえて当てたところなんですよ。

映画『ゴジラ-1.0』 (C)2023 TOHO CO., LTD.

──佐藤さんも伊福部ファンなんですかね?

というか、学校の先生らしいです。実際に伊福部さんの教えを受けてるんですって。

──え、そうなんですか!? どうりで、使い方をよく分かってるなぁと。僕みたいな伊福部マニアにはグッとくる(笑)。

ですよね(笑)。

──作戦のシーンは伊福部さんが自ら編んだ『SF交響ファンタジー第1番』冒頭をほぼそのまま使って、ゴジラ出現時には12音技法的なゴジラのテーマで。人間が立ち向かうタイミングで例のテーマが流れる。

あれは本来、人間側の反撃のテーマですからね。そこであのテーマ曲を当てるというのは非常に正しい使い方だと思います。実際、あそこは盛り上がりますよね。テーマ曲の強さは時間を超えますね。『ミッション・インポッシブル』でも、いざとなったらあれがかかる。

◆「シーンとしてはオマージュが結構ある」

──そういうマナーに則りながら、主となっているのは敷島と典子(浜辺)の人間ドラマ。ゴジラvs軍隊ではなく、いわば戦争でさまざまな傷を負った庶民の物語ですね。

臆病だったが故にたくさんの仲間を死なせてしまった、そういう後悔を抱えた男がなんとか人間らしさを取り戻そうとした瞬間、その怒りがすべてゴジラに向かっていくという物語を軸にして、僕なりのゴジラを描きたかったんです。

やっぱり人間ドラマがゴジラという存在にどうリンクするかが大きなテーマだったので。それは初代ゴジラが人間のドラマと怪獣のドラマをちゃんと相対峙させていたからなんですね。そこがないと初代を目指した意味がないなぁ、と思ったんです。

敷島浩一役の神木隆之介(左)と大石典子役の浜辺美波 (C)2023 TOHO CO., LTD.

──意図的だと思いますが、初代ゴジラの登場人物は一切出てきませんよね。例えば、芹沢博士とか。

そうですね。どこかのゴジラの話と繋げるつもりはまったくなかったので、これはこれでひとつのゴジラの物語として作りました。

なのでリンクはさせてないですが、シーンとしてはオマージュが結構あるんですよ。ゴジラが電車を咥えたりとか、塔が倒れたりとか。

──中継のアナウンサーに「みなさん、さようなら」(初代ゴジラの名セリフ)とは言わせられないまでも、塔が倒れるシーンはちゃんと入れているという。

さすがに言わせられなかったですね(笑)。だけど、初代の報道魂だけは残しました。それに、ゴジラが咥えた電車のなかの乗客はどんな恐怖に晒されてたんだろうか、と。それをぜひやりたくて。だったら、典子を乗っけちゃおうと思って。電車の運転手も顔の似てる役者さんを探してきて。並べて見ると面白いですよ。

映画『ゴジラ-1.0』 (C)2023 TOHO CO., LTD.

──こんな風に初代と繋げるんだ、と感激しました。

もう、ゴジラは電車を咥えてナンボだろうと(笑)。予算の都合で電車が作れないかもって話になったけど、「お願いだから作ってくれぇ!」と頼み込んで。「電車の一部だけでも。あとはデジタルでなんとかするから」と言ったら、そこだけは本当に動くセットを、ちゃんと重力もかかるように作ってくれて。

──もともと監督はVFXをやっておられるから。今回もかなりガッツリやられたんでしょうか。

はい、もうガッツリと(笑)。デジタルネイティブの若手がだんだん力をつけてきてて、彼らがすごいんですよ。生まれたときからCGがあって、息を吐くようにCGを作るんです。今まで見たことないようなのを作ってくれたんで、楽しかったですね。これまでの技術屋たちが焦ってますよ。

中堅どころが「それは難しいです」って言うと、若手が「できますよ、やってみましょうか?」と作っちゃう。今までの技術に胡座かいていられない時代が来たんですよ。でも、うちの会社の良いところは、中堅が若手に対して、「それ、どうやってやるの?」と一緒になって作ってる。ああ、良い会社だなと思って僕なんかは見てます。

「ゴジラは電車を咥えてナンボだろうと(笑)」と語る山崎貴監督

──山崎監督が所属する「白組」って、もともと創立者の島村達雄さんが実験的なアニメーションを作っておられましたしね。進取の気概がある。

それは喜びますよ、島村会長が。もう完全に引退すると言ってましたけど、まだ自主制作で謎のアニメーションを作ってますからね。昔は相原信洋さんらとも実験映画を作ってましたし。

──CGといえば、今回、町中がものすごい爆風にのみ込まれるシーンが出てきますよね。

恐怖心というか、ゴジラは本来そういう存在だと思うんです。初代の『ゴジラ』は第五福竜丸の話もあるなかで作られたから、そこは切っても切り離せないものがある。やはり核については少しメタファーとして感じさせないとゴジラにならないんじゃないかなと。

『ゴジラ-1.0』

脚本・監督・VFX:山崎貴
出演:神木隆之介、浜辺美波、山田裕貴、青木崇高、吉岡秀隆、安藤サクラ、佐々木蔵之介、ほか
配給:東宝

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