京都で愛された神輿がカンボジアへ 「寂しさあるけど」現地の子どもたちが熱望

カンボジアへ贈るため、倉庫から出された神輿。京都市伏見区深草の住民たちの手でつくられ、守られてきた(8月、同区)

 京都市伏見区深草で住民たちが大切に担いできた神輿(みこし)が海を越え、カンボジアへ渡った。担い手が高齢化し、氏子地域で巡行が厳しくなる中、パイプを持つ男性を通して同国の日本人互助団体に贈られた。現地で子どもらに日本文化を伝える役目を新たに担うといい、「神輿会 藤」の山下哲会長(68)は「寂しさはあるが、新しい場で生かしてもらえれば」と旅立ちを見送った。両国国交樹立70周年の催しで初披露された。

 贈られた神輿は藤森神社(伏見区)の氏子地域の一部住民が1979年に製作した。翌年から神社の本神輿3基が出る神幸祭(毎年5月)の時期に、地域内を巡行した。神社の「東福寺郷神輿」を5分の3サイズで模し、担い手不足で一時は巡行が途絶えたが、2009年に別の住民有志でつくる神輿会が引き継いだ。「これまでは地域の盛り上がりの象徴だった」と、山下さんは振り返る。

 しかし、新型コロナウイルス禍をきっかけに、神輿会は20~23年の4年間巡行を中止。「高齢化で神輿の管理も含めて続けるのが難しくなってきた…」

 橋渡ししたのは、伏見区内で居酒屋や酒店などを展開する井上雅晶さん(58)。藤森神社の氏子組織「深草郷神輿保存会」の会長で、かつて別団体の神輿を譲り受けたことがあった。店に飾ったことをフェイスブックに投稿すると、親交のある「カンボジア日本人会」の小市琢磨会長(48)から依頼が寄せられた。「同様のケースがあれば譲ってほしい」。その後、神輿の引き取り手を探し、神社にも相談していた山下さんらの悩みを知って、小市さんらとの間を取り持った。

 神輿が深草を出発したのは今年8月下旬。名神高速道路の高架下にある倉庫から出され、トラックに積み込まれた。陸路で静岡県の港へ運ばれ、さらに船に載せ替えられ、10月上旬にカンボジア日本人会のもとへ。

 同会の小市さんは「カンボジアにいる子どもたちは日本文化に触れることを熱望している」と、深草からの贈り物に感謝している。2003年から盆踊り大会を催し、日本人の子どもたちはもとより、現地の人にも日本文化を広める活動に取り組んできた。

 今年は日本・カンボジアの国交樹立70周年。11月12日の記念の盆踊り大会で、神輿行列が披露されたという。
 

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