162年前の南部凧絵発見、制作年代分かる品で最古か 静岡の凧収集家入手 青森県伝統工芸士が復元模写

江戸期に描かれたとみられる南部凧絵の手本(左)と髙橋さん作製の復元模写
凧絵が入っていた封筒

 162年前の江戸期に描かれ、制作年代が分かる品では最古とみられる「南部凧(だこ)」の凧絵の手本が見つかった。静岡県磐田市の凧収集家・瀬川耕平さん(25)が入手し、津軽凧の県伝統工芸士・髙橋勝良さん(青森県弘前市)の工房に持ち込んだ。当時の南部凧の特徴が分かる貴重な史料で、瀬川さんは「地域性や描き手の人生が表れるのが凧絵。大切にしたい」と話している。

 瀬川さんは2022年12月、八戸市の商家の所蔵品を古物商から購入した。

 凧絵は「加藤清正の虎退治」。縦約97センチ、横約67センチで、作者は不明。髙橋さんによると、細部まで描き込まれるなど、江戸凧の影響を受けた南部凧の特徴が表れている。また、江戸期に使われた、黒みがかった赤の染料が使われている。

 一部の色や目が描かれていないのは「目を最後に描く絵師はいるし、当時は色の種類が少ないので使う色は自然と決まってくる。師匠が弟子に描き方を伝えるには、これで十分だったのでは」(髙橋さん)という。

 作品が入っていた紙袋には「御手本 凧絵」「万延二 辛酉」(1861年 かのととり)などの墨書きがある。鑑定バラエティー番組の人形鑑定士で凧絵師の林直輝さんや、髙橋さんの見立てでは、袋や墨書きは相当古い上、後から年号が書き加えられた形跡もみられないという。

 南部凧は、史実や伝承などを題材にした図柄が特徴で、県南地方に古くから伝わる。髙橋さんによると、現存する南部凧絵はこれまで、著名な八戸の日本画家・奈須川半蔵が1892(明治25)年に作成した物が最古とされ、津軽凧絵は80(明治13)年作の「つしま粉本(手本)」が最古。今回発見された作品は、津軽と南部を通じて最も古い凧絵とみられる。

 髙橋さんは今年10月、瀬川さんの依頼を受け、同凧絵を復元模写。当時使われていた染料や墨、和紙など同じ材料を使い、目なども入れて絵を完成させた。瀬川さんは「絵全体から迫力を感じる。髙橋さんが昔の技法を受け継いでいるから再現できた。すごい」と喜んでいた。

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