<現地取材>地域CL刈谷ダービーでwyvern・GK常澤聡が好セーブ連発!大会敗退も最年長GKがチームに大きな財産を残す

全国地域サッカーチャンピオンズリーグ2023の1次ラウンド第3試合が12日に全国各地で行われ、グループB宮城県会場で開催された最終戦は東海社会人1部wyvernが、全国社会人選手権覇者の東海社会人1部FC刈谷に1-0で勝利した。この日後半11分から左ひざを痛めたGK土屋ヒロユキに代わって出場したチーム最年長38歳のwyvern・GK常澤聡が好セーブを連発してチームに勝利をもたらした。

緊急出場のなかでも大ベテランは落ち着いた立ち振る舞いを見せた。

後半9分に荒れた芝生に足を取られるように土屋が倒れ、左ひざをさするようにうずくまっていた。土屋のプレー続行が不可能と判断すると、間瀬秀一監督は常澤をピッチへ送り出した。今季公式戦初出場の大ベテランは落ち着いた様子で前線にロングキックを展開し、的確なコーチングでディフェンスラインを統率。1点を追う刈谷から鋭いシュートがゴールマウスに向かってきても、見事な好セーブを連発してゴールに鍵をかけてみせた。

試合終了間際も集中力を一切乱さない守護神は、こぼれたボールも全力疾走で処理するなど闘志が込められたプレーでチームをけん引。そのままスコアは1-0で今季最終戦を白星へと導いた。

刈谷ダービーの勝利に大きく貢献した常澤は「いつでもベンチ入るときは、出られるように準備している。突然だったので、ちょっと慌ているかなと思ったけど、思ったより全然普通に入れました。いつも練習でやってることしかできないと思うので、自分のやれることをやろうと思った。特に思ったより緊張しなかったです(笑)」と、ベテラン守護神はやり切った表情に満ちていた。

ただwyvernは今大会1次ラウンドで2勝1敗と勝ち越したが、惜しくも最終ラウンド突破条件の各グループの2位で最上位成績に満たなかった。この試合で宿敵の刈谷を完封で打ち破るも、目標の複数得点は達成できなかった。

「本当はこっちとしてはもっと点を取りたかった。もっと点を取れるように自分がみんなを動かしてあげたら良かったかもしれない。最低限失点しないところが1番だったので…。刈谷さんの勢いにちょっと押し負けていたのかなというか…。1-0で勝てはしたけど、本当はもっと点がほしかった。ゼロで抑えられたのは良かったですけど、大会をトータルで考えると少し悔しさが残るというのがありました」と唇をかんだ。

偉大なベテランがwyvernに大きな糧を残す。

試合後に間瀬監督は涙を流しながらイレブンの奮闘を称えた。大会敗退の悔しさ、今季最後の公式戦の勝利、土屋やMF清水貴文の負傷離脱などアクシデントも重なった。複雑な感情が入り混じる中で、選手たちの目頭も熱くなっていた。

間瀬監督は「(常澤の出場は)運命だと思っていて、この最後の試合に1番経験があるベテランで、あんなに素晴らしいプレーヤーが今季(公式)試合に出ていなかった中で、彼が試合に出る場面があった。あれだけ枠内に飛んできたシュートを全部弾き返して、生きてて良かったって思える出来事ですよね。こういうことが運命的に起こったことがね。もちろん若い土屋がケガしてしまったことはすごく残念です。でも彼は常澤と比べたら若い選手なので、またしっかり回復してやってくれると思います」と背番号1の奮闘を労った。

常澤も胸中が複雑だ。「自分は高校卒業して20年目なんですけど、出ていない時間のほうが長い。出てないときに、いかにどうしていくかということが自分の中では大事です。突然出ることもあり得ますからね。いつでも試合に出る準備は自分の中ではしていた。土屋のケガは残念というか悲しいです。アクシデントの中で、自分にチャンスがきたから複雑な感情というか。しっかりゼロで抑えられたことは嬉しいですけど、もっと点を取れるようにしたかったなというところが嬉しさと悔しさがありますね。複雑ですね、そういうことが多いんですGKは」と、これまで活躍してきた土屋のケガをおもんぱかるように下を向いた。

プロGKは公式戦出場ゼロで引退する選手が多くいるほどきびしい環境でプレーしなければならない。東京ヴェルディ、FC東京などJ1チームに所属したことがある常澤は、J1でプレーすることは1度もなかった。それでも2013年シーズンのモンテディオ山形では35試合に出場するなど、J2通算104試合に出場した。前述したように過酷なプロの世界で、GKという難しいポジションで100試合以上の出場は素晴らしい功績だ。

背番号1は「東北は山形で2年間プレーさせてもらって、1年目は35試合か出させてもらいましたけど、次の年はゼロでした。いい思いもさせてもらったし、悔しい思いもした。そういう意味では東北には縁があるのかなというのは何となく感じました」と、会場の隣県山形に思いを馳せていた。

チームは2015年に創設。地域CLは初めての出場だった。過酷な3日連続での試合、難しいピッチコンディションなど、このチームは数多くの課題、難題と向き合うことを強いられた。結果敗退となってしまったが、それでもこのピッチで戦った選手たちはチームに大きな財産を残した。

「チームは2015年からできた新しいチームです。いろいろなことが初めてでした。そういう遠征をする大会に出場するのも、先月の全社が初めてでした。そういうところで、まだいろいろと分かっていないところが多かったチームでした。今回もいろいろなところで、もう少し改善しなければいけないところがあったと思う。1個ずつ積み上げていくことが大事だと思っています。そういう意味では、決勝ラウンドに行けないとしても、めちゃめちゃ大きな意味のあった大会だったと思います」と感慨深い表情を浮かべた。

これまで東海地域では刈谷FCやマルヤス岡崎などのアマチュアチームが数々の実績を積み上げてきた。若いチームのwyvernにとってこの大会で得た糧は今後上を目指すうえで必要な経験となりそうだ。

「この経験があったからこそ、これがあって良かったと思えるようになっていければと思います」と常澤は未来を見据えた。

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wyvernの激動のシーズンが終わった。今季は東海1部無敗優勝など飛躍を遂げたチームは、この大会を通じて上にあがる難しさなどを噛みしめた。来季以降このチームが高みを目指してどのようなサッカーを見せるのか楽しみで仕方ない。

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