育児と仕事に追われエスカレートする飲酒量 親から子に負の連鎖も 識者「沖縄は日本一の“酒害県”」

アルコール依存症の入院治療を受け、回復を目指しているカナさん=10月、本島中部(画像を一部加工しています)

 仕事や育児の重い負担にあえぎ、知らぬ間に飲酒量がエスカレートして依存症の深みにはまっていた。アルコール依存症の入院治療を受ける沖縄本島中部のカナさん(39)=仮名=は「“アル中”だよねと冗談で言い合うことはあっても、まさか病気だなんて思いもしなかった」と語る。話を聞くと、適度な飲酒量や依存症のリスクを広く沖縄社会に啓発し、親から子への連鎖も止める重要性が浮き彫りになった。(デジタル編集部・篠原知恵)

 高校卒業後にすぐ出産し、約1年で離婚。相手は同級生で養育費は受け取れなかった。必死に子育てしながら働き、子どもが中学に入った20代後半に大型商業施設の経理業務を任された。

 緊張やプレッシャー、激務に加え、男性管理職から「でぶ」などと容姿をからかわれ続けて心がすり切れた。約10年間いた職場。辞めたくないと歯を食いしばったが眠れなくなった。「酒で無理やり眠って、やり過ごした」。こんな生活が長く持つはずがなく、うつ病と診断され、程なくして退職した。

■父はアルコール性肝硬変で死去、母も…

 幼少期から酒は身近な存在だった。両親は晩酌を欠かさず、休日は朝からビール缶を空けた。父は50代の若さで、アルコール性肝硬変で死去。家庭第一だった母はカナさんらが独立し、父が亡くなると、寂しさを紛らわすかのように酒量を増やした。

 「大人は酒を飲むものと思っていた。『適量』が分からなかった」。仕事を辞め、一日の予定がなくなると昼間も飲んだ。働き出しても酒のせいで朝起きられず、辞めざるを得なくなる。コロナ禍も重なり、失業期間が長引くうちに酒量がまた増える悪循環を繰り返した。

 30代後半には体のしんどさが急に増し、飲酒が原因の急性膵炎(すいえん)などで5回入院した。欠かさなかった家事もできなくなり、子どもが周囲に助けを求め、弟の支えで依存症治療に結び付いた。

 カナさんは「ずっと自制が効くと思って飲んできた。でも治療を受けて初めて、父も母も私も依存症だから酒をやめられなかったんだと分かった」と話した。

■犬尾仁医師「沖縄県を挙げて対策強化を」

 県内の依存症専門医療機関の一つ、沖縄リハビリテーションセンター病院(沖縄市)の女性部屋は満室状態が続く。犬尾仁医師は「ここ最近、女性のアルコール依存症患者が増えた実感がある」と説明する。

 女性はもともと体格や体質的に、男性に比べて依存症や肝硬変といったアルコールの害を受けやすい。

 女性患者が増えた背景には、働く女性が増えると同時に男性多数の中で矢面に立つ機会が増えたり、仕事と育児の負担が過度に集中したりし、ストレスが大きくなっていることが一因にある。酒量が増えているところに、コロナ禍で自制の効きづらい家飲みが広がり、依存症の引き金になるケースも多いという。

 犬尾医師は「依存症は孤独の病だ。家族を含めケアを受けなければなかなか治らず、県内はカナさんのように親から子への世代連鎖が関係していることも少なくない」と指摘。「沖縄は『日本一の酒害県』とも言える。県を挙げて対策を強化すべきだ」と訴えた。

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