王道かつ下ネタ上等の“オトナ対応”わんこ映画『スラムドッグス』監督が語る! 製作プレゼン秘話&ホッコリわんこ撮影エピソード

『スラムドッグス』© UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.

犬が主人公の映画に、人は何を求めるのか? それはもちろん、犬たちの可愛さに癒されること。あるいは彼らと人間の絆に涙すること。リンチンチン、ラッシー、ベンジー、ベートーベン、マーリー……と、“犬映画”に登場した名犬たちの歴史を振り返っても、その法則は揺るぎない。

そんな犬映画のホッコリした歴史に、果敢にも(無謀にも?)一石を投じる作品が現れた。それがこの『スラムドッグス』だ。

飼い主のダグに車で遠い場所に連れて行かれ、置いてきぼりにされたボーダー・テリアのレジー。よくある犬映画、たとえばディズニーの『奇跡の旅』(1993年)あたりの記憶が甦れば、ここからレジーが愛する飼い主と再会するまでの冒険が繰り広げられる。

本作も、飼い主のもとへ戻ろうとする基本ドラマは想定内。しかしレジーの目的は、自分を捨てたダグへの復讐。彼の“局部”を噛みちぎる使命にめざめたレジーが、道中で出会った仲間とともに旅を始める。

「ぜひ大人向けの犬映画を作りましょう!」

本来ならファミリー向けの犬映画。しかし、本作はアメリカではR指定(日本ではPG-12)。お子様には見せられない危険な描写、つまりシモ系のネタがたっぷりと盛り込まれているのだ。癒しを与えてくれるワンコたちが、本能もあらわにして、目を疑う行為を見せつける。同じことを人間がやったら完全にアウトだけど、ノリとしては、いわゆる“中学生レベル”のギャグ。ゆえに日本でのPG-12は大歓迎! クマのぬいぐるみが大暴走した『テッド』(2012年)や、スーパーヒーローの常識を変えた『デッドプール』(2016年)あたりの悪ノリを楽しんだ人には、最高の映画になっている。

プロデューサーが、『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018年)の脚本を手がけたフィル・ロードとクリストファー・ミラーのコンビと聞けば、ソソられる人も多いはず。そして監督はジョシュ・グリーンバウム。前作『バーブ&スター ヴィスタ・デル・マールへ行く』(2021年)は2人の中年女性の珍道中を描いたコメディで、日本では限定公開ながら、映画ファンの一部に偏愛されている。

そのグリーンバウムは、『スラムドッグス』で「犬映画」の常識を逆手にとったことを次のように明かす。

犬映画には、ある程度、大きなマーケットがあるんです。犬が出ているだけで多くの人が注目してくれますからね。でも基本的に子供向け、ファミリー向けの作品が多いので、「ぜひここで大人向けの犬映画を作りましょうよ!」と、スタジオ(ユニバーサル)に15分の映像でプレゼンしました。ユニバーサルも、この業界の中では新鮮なチャレンジを受け入れやすいスタジオなので、そこが合致したと思います。

こうしてR指定の犬映画の製作が始まったわけだが、グリーンバウム監督は「『テッド』や『デッドプール』に比べて、誰もが気軽に楽しめるジョークもいっぱい盛り込んだ」とのことで、犬映画としてのピュアな魅力も備わった作品が完成した。

本物の犬が演じることで生まれるリアルと“不気味の谷”回避

気になるのは犬たちの映像。近年、『ライオン・キング』(2019年)や『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(2022年)あたりの映像を観慣れた人たちは、実写映画で監督の思いのままに動く生き物たちは、もはやすべてCGなのでは……と勘ぐりがちになる。しかし本作では、ほとんどのシーンで実際に犬たちの演技がカメラに収められた。この決断は、グリーンバウム監督にとって必然だったようだ。

たとえば『ライオン・キング』に出てくるラインやゾウであれば、一般の人は動物園へ行った時や、ドキュメンタリーの映像を観た時など、1年でせいぜい5分くらいしか目にしないでしょう。

ところが犬の場合、飼っている人はもちろん、そうでない人も日常的に頻繁に視界に入ってきます。ですからCGを多用すると、違和感が積み重なってしまうのです。いわゆる「不気味の谷」(アニメやCGを実写に近づけようとすることで生じる微妙な違和感)という現象ですね。

いったんその谷に入り込むと、観ている人は「これは実写? それともCG?」と落ち着かなくなります。それを防ぐため、犬たちが話す際の顔や、ワシに捕まえられるような危険なスタントという最低限のシーンだけ、フルCGに頼ることにしました。

その結果、精鋭の“犬アクター”たちによって、グリーンバウム監督の目的はほぼ達成されたという。ただし、あくまでも相手は言葉が通じないので、撮影中には想定外の動きもあり、そこは臨機応変の対応が必要になった。

ボストン・テリアのバグが森の中を歩くシーンで突然、彼の目の前に一枚の葉っぱが落ちてきたんです。そうしたらバグ役の犬がめちゃくちゃ怖がって、飛び上がったのですが、僕はそのまま撮影し、本編でも使うことにしました。その後、脚本家のダン・ペローとバグの声を担当するジェイミー・フォックスに相談し、葉っぱに悪態をつくセリフを追加したり、犬重視のスタンスで柔軟な対応をとりました。

この撮影を通して、犬アクターたちの健気な仕事ぶりに感動したグリーンバウム監督は、レジーの子犬時代を演じた1匹を引き取り、現在は幸せな生活を送っている……なんてエピソードを聞くと、『スラムドッグス』の毒気も薄まる気がする。

あの名作青春ロードムービーや伝説的コメディ集団からの影響大!

そして『スラムドッグス』は飼い主に復讐を誓うレジーを中心に、ボストン・テリアのバグ、オーストラリアン・シェパードのマギー、グレート・デーンのハンターの4匹のロードムービーとしての楽しさも備えている。このあたりの過去の映画からの影響について、グリーンバウム監督は予想どおりの作品名を挙げる。

当然、『スタンド・バイ・ミー』(1986年)ですが、これは皆さん誰もが(本作と)重ねてくれるでしょう。もう1本は『ヤング・ゼネレーション』(1979年)。高校を卒業し、日々をダラダラと過ごす4人の仲間が自転車レースに出る青春映画ですが、主人公たちの“負け犬”感に本作は通じるものがあります。大傑作なので、未見の人はぜひ観てください。

あとは『ブレックファスト・クラブ』(1985年)、『フェリスはある朝突然に』(1986年)などジョン・ヒューズ作品は無意識レベルで影響を受けていますし、ギャグに関しては子供の頃から父親に観せられていたモンティ・パイソンが、本作はもちろん、前作の『バーブ&スター』のヒントになっているはずですよ。

犬好きの人には“あるある”ネタが満載で、犬映画の伝統も受け継ぎつつ、先に挙げたように『テッド』や『デッドプール』の危うさと痛快感も鮮やかに配備した『スラムドッグス』。意外なほど多くの人がハマるのでは?

取材・文:斉藤博昭

『スラムドッグス』は2023年11月17日(金)より全国公開

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