社説:辞任ドミノ 政治不信が募る一方だ

 1年前の混乱をほうふつとさせる。政権担当能力が疑われる事態ではないか。

 岸田文雄首相が、過去の税金滞納を認めた自民党の神田憲次財務副大臣(衆院愛知5区)を事実上更迭した。

 9月の内閣改造以降、政務三役の辞任は3人目である。山田太郎文部科学政務官が女性問題で、柿沢未途法務副大臣が東京都江東区長選の公職選挙法違反事件に絡んで辞めた。柿沢氏に関する件では、今も捜査が続く。

 いずれも職責にふさわしくないゆゆしき不祥事であり、岸田氏が改造時に強調した「適材適所」の言葉がむなしい。

 神田氏は2013~22年にかけ、代表を務める会社保有の土地と建物の固定資産税を滞納し、計4回も差し押さえを受けていた。税理士の資格を持ちながら、義務付けられた研修を受講していないことも認めた。

 先週発覚したが、神田氏は国会で、税の督促状などへの対応は「業務多忙で関知できなかった」などと釈明し、辞任しない考えを示した。

 こんな納税意識を欠いた人物を、財務省を指揮する三役に据えながら、首相官邸側は当初、「法律に抵触してはいない」として続投の構えをみせた。

 山田、柿沢両氏が相次ぎ辞める中、昨秋に政治資金問題などで4閣僚が辞任した「ドミノ」の再来を恐れたともみられる。

 補正予算案など国会審議に影響が及ぶなどとして、自民内からも突き上げられた形で決断したが、遅きに失している。

 そもそも自民党国会議員が土地などを差し押さえられていたなら、政府内で調べればすぐに分かるはずだろう。

 「女性ゼロ」でも問題になった副大臣・政務官人事を、岸田氏が党派閥の推薦をほぼ「丸のみ」して決めた弊害ではないか。

 岸田氏は先の2人の辞任後と同じく、「任命責任は重く受け止めなくてはならない」と繰り返した。これも、あまりにむなしく響くというほかない。

 岸田氏は年内の衆院解散・総選挙は見送る意向を固めたが、内閣支持率が3割を割り込み、政権浮揚の足がかりがつかめずに追い込まれた感も否めない。

 物価高などで国民の暮らしが厳しくなる中、相次ぐ政権幹部の辞任により、さらに政治の信頼は地に落ちていると岸田氏は自覚すべきである。

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