「あえて言えば9年間は無駄だったんじゃないか」語り始めた「元裁判長」 袴田事件“再審決定”“釈放” 9年前の判断の裏側【単独インタビュー】

再審=裁判のやり直しが始まり、再び注目を詰めている「袴田事件」。SBSは9年前の2014年、袴田巖さん(87)の釈放という異例の決定を出した元裁判長への単独インタビューが許されました。裁判官といえど、公務員。異例の決定に対する周囲からの意見はあったのか。なかなか聞けない決定の裏側を可能な範囲で語ってくれました。

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村山浩昭さん(66)。袴田巖さんの釈放を決めた元裁判官です。

1966年、静岡県旧清水市(現静岡県清水区)で一家4人が殺害されたいわゆる「袴田事件」。逮捕された当時30歳の袴田さんは無実を訴えましたが、死刑が確定し、裁判のやり直しを求め続けました。

状況が大きく動いたのは、事件から48年が経った2014年でした。

「釈放は理論的にも可能だと」

静岡地方裁判所は、袴田さんの再審開始を決定。さらに、「これ以上拘置を継続することは耐えがたいほど正義に反する」として、死刑囚という立場だった袴田さんの釈放を決めたのです。

この時の裁判長が村山さんでした。裁判官といっても公務員。異例の決定に対する周囲からの意見はなかったのでしょうか。

<元静岡地方裁判所裁判長 村山浩昭さん>
周りからというのは一切ないですね。これはもう裁判所は独立ですので、事件を担当している裁判官の中で決めることですから。ただ、私の、その当時調べた限りでは、裁判所の決定によって、死刑になっている確定者を釈放するという前例はなかった。その点については議論をしたと。その結果、(袴田さんの釈放は)理論的にも可能だと

ようやく開いたかに見えた「再審の扉」。

しかし、検察側がこの決定に不服を申し立てる「抗告」をし、それを受けた東京高等裁判所は2018年、再審開始決定を取り消しました。

この決定に対して、弁護側も抗告。最高裁判所は議論が十分でないとして、東京高裁でもう一度、議論を尽くすよう差し戻しました。

そして、2023年3月、東京高裁は、村山さんと同じく再審開始の決定を示し、検察が抗告をしなかったため、再審開始が確定しました。

はじめの開始決定から実際に再審が始まるまでには、9年がかかりました。村山さんはこの「9年」という時間を痛烈な言葉で非難しました。

「説得できなかったという悔しさ」

<元静岡地方裁判所裁判長 村山浩昭さん>
あえて言わせていただければ(この9年間は)無駄だったんじゃないかと、思います。やはり高裁の裁判官を説得できなかったっていう、私たち自身に対する、その悔しさっていいますかね。

2014年の再審開始決定の直後、検察は東京高裁に対して、決定を不服とする即時抗告をしていますが、村山さんは東京高裁に検察の申し立てを棄却するよう意見書を提出したことを最近になって、明らかにしました。

2021年退官し、現在は弁護士として活動する村山さん。各地で開かれるシンポジウムに積極的に参加し、再審の問題点について訴えています。

「法曹がきちんと説明する責任がある」

<元静岡地方裁判所裁判長 村山浩昭さん>
こう言ってはちょっと語弊があるかもしれないんですけれども、(袴田事件には)本当に再審制度の問題が分かりやすく凝縮されている。現にこの日本でそういう過酷な目にあっている方がいると。じゃあ、なぜ、そうなっているのかという原因を私たち法曹がきちんと説明する責任があると考えている。

袴田さんの再審の判決は、2024年夏に下される見通しで、過去の事例から袴田さんにも無罪判決が下される公算が大きいとみられていますが、時間が戻ることはありません。

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