わがまちの変遷 足利・相田みつを 筆一本で生きた「いのちの詩人」

人々の心に染み入る数多くの作品を残した相田みつを

 「にんげんだもの」をはじめ、人々の心に染み入る言葉を独自の書体でしたため続けた書家・詩人相田(あいだ)みつをは、1924年、足利に生まれた。

 旧制足利中を卒業後、歌人山下陸奥(やましたむつ)に師事。生涯の師匠と仰ぐ高福寺の先代住職武井哲応(たけいてつおう)老師に出会い、道元禅師の教えも学んだ。また書家を志し、書家岩沢渓石(いわさわけいせき)にも師事した。

 96年に開館した「相田みつを美術館」(東京都千代田区)館長で、みつをの長男一人(かずひと)さん(68)は、父を「筆一本で生きた人間。書いている時の集中力はすさまじかった。命懸けで書いていた」と回想する。

 「旅館なか川」(現・めん割烹(かっぽう) なか川)の初代女将(おかみ)は、みつをの作品を数多く購入した。4代目中川知彦(なかがわともひこ)さん(50)は「一生懸命自分の作品について語った先生に感じるものがあったのでは」と推察する。

 初めての個展は市内で54年に開催。また市内和菓子店の包装紙のデザインなども手がけた。84年に出版した書籍「にんげんだもの」で存在が世に広まり、91年、67歳で生涯に幕を閉じた。

 戦争で2人の兄を失ったみつをは「いのちの詩人」とも呼ばれる。来年生誕100年を迎えるに当たり、一人さんは「もし生きていたら、今の世界情勢を嘆いただろう。命の尊さを伝えるものとして(作品を)改めて多くの人に見てもらいたい」と語る。

 現在、足利市通3丁目の足利商工会議所ギャラリー・カッサでは、地元商店主が所有する作品が並ぶ「相田みつを ふるさと展」を開催中。12月3日まで生誕の地で、みつをの作品に触れることができる。

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