ドナルド・トランプと対決した日本人ギャンブラーの壮絶な最期とは? スコセッシ×デ・ニーロ『カジノ』に登場する〈KK・イチカワ〉のモデルになった実在の人物

『カジノ』© 1995 Universal City Studios LLC and Syalis Droits Audiovisuels. All Rights Reserved.

レオナルド・ディカプリオ主演『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』が絶賛公開中のマーティン・スコセッシ監督。ロバート・デ・ニーロは11回目のスコセッシ作品出演となるが、5度目のタッグ作がシャロン・ストーン、ジョー・ペシ共演の仁義なきギャンブル業界ドラマ『カジノ』(1995年)だ。

『カジノ』に登場する日本人は何者か?

70年代の米ラスベガスを舞台に、カジノをめぐる表と裏の人間模様を描く『カジノ』。デ・ニーロ演じる主人公の“エース”ことサムは、賭博の才能を買われてカジノのマネージャーとなる。エースが辣腕を発揮しカジノは成功を収め、美しい女ハスラーのジンジャーを見初めて結婚。豪奢な生活を始めるが、長年の相棒ニッキーがラスベガスに乗り込んできたことで、ギャングたちの欲と暴力に巻き込まれていく――。

そんな『カジノ』のとあるシーンに、日本人ギャンブラーの「イチカワ」なる人物が登場する(セリフでは「KK Ichikawa」と呼んでいる)。演じる松久信幸は世界的なシェフで、映画公開前年の1994年にはデ・ニーロと共同で日本料理レストランをオープン。その後も<Nobu>名義でいくつものレストランやホテルを共同でオープンさせていて、業界を超えた盟友と言える間柄だ。

おそらく2人の関係性が松下のカメオ出演に関係していると思われるが、実はこの日本人キャラクターには実在のモデルがいる。

ドナルド・トランプと対決した日本の不動産王

劇中のイチカワは、カジノでちまちまと粘って何億円も勝ったあげくホテルのアメニティを根こそぎ持ち帰り、しかもプライベートジェットの送迎付きという“用心すべき”日本人客という役柄。セリフらしいセリフもなく、ほんの数分の出演で最終的には儲けをチャラにされてしまうのだが、エースが“カジノ経営の秘訣”を解説する序盤のシーンで登場する重要キャラでもある。

そんなイチカワのモデルとなったのは、不動産投資家の柏木昭男氏(1992年没)。貧しい生まれながら地元山梨で不動産業のほか強引な金貸し業などで財を成し、70~80年代からカジノにのめり込んでいった。主にバカラ(仮想カード対決の勝者を予想するシンプルなゲーム)を好んでプレイし、90年代にはオーストラリアのカジノで30億円弱もの勝利を収めたという。

90年代初頭、ラスベガスに並ぶ勢いでカジノ産業が盛んになっていた米ニュージャージー州アトランティックシティも彼の主戦場だった。当時、そこで「トランプ・プラザ・カジノ&ホテル」ほか複数のカジノを経営していたのが、あのドナルド・トランプだ。2人はトランプが経営するカジノにてバカラで勝負したが、柏木氏はトランプの長期戦略に乗ってしまい優勢を覆され、結果的には数億円も負け越したそうだ。

壮絶ギャンブル人生、そして無惨な最期

その豪遊ぶりから世界中のカジノの太客だった柏木氏は実際、劇中のイチカワのように移動も宿泊も全てタダだった。「客に賭け続けさせる」というカジノのセオリーや、「かつてケイマン諸島のカジノを潰した」というエースの独白など、イチカワ登場シーンの元ネタになったであろう“柏木伝説”は凄まじいものばかりである。

とはいえ決して“最強のギャンブラー”だったわけではなく、複数のカジノに多額の借金をしていたという柏木氏。そして1992年1月、氏は山梨の自宅にて無惨な姿で発見される。遺体は全身をメッタ刺しにされていたが犯人は長らく捕まらず、2007年に時効を迎えた。

そんなこんなを思い出しながら観ると100倍興味深く、かつ(主にジョー・ペシの存在が)恐ろしく観ることができる『カジノ』。お話が進むに連れてヤクザ者たちのクライムバイオレンスのようになってくる、ギラギラしたスコセッシ節が堪能できる傑作だ。

『カジノ』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2023年11月放送

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