犯罪やめて「絵だったら表現できる」就労移行支援施設利用者がポスター 警察署長から感謝状

優秀賞の賞状を受け取り、顔をほころばせる橋本さん(中央)=大津市打出浜・大津署

 知的障害や発達障害がある人が特別支援学校などを卒業後、社会で生きていくためのスキルを学ぶ就労移行支援施設「くれおカレッジ」(大津市)の利用者たちがこの秋、全国地域安全運動のポスターを作った。犯罪被害防止を願う作品が見る人の防犯意識に強く訴えかけたとして、滋賀県警大津署は署長感謝状を贈った。

 橋本萌生(もえ)さん(19)は軽度の知的・発達障害があり、くれおカレッジに通い始めて2年目。幼い頃、姉の影響で絵を描き始めると、その楽しさに夢中になった。「もともと言葉でのコミュニケーションはちょっと苦手だったが、絵だったら自分の好きなものが表現できる」。小中学生の時には何度もコンクールで入賞している。

 今年の夏、くれおカレッジで防犯教室が開かれ、利用者たちは大津署員からすりや痴漢、盗撮などの犯罪被害を学んだ。その後、同署から全国地域安全運動(10月11~20日)で掲示するポスターを作ってみないかと打診があった。

 橋本さんは、駅のエスカレーターでスカートの中を盗撮される被害を伝えようと考えた。「犯罪はやめてほしい、なくなればいいのにという気持ちで描いた」という。

 手の描写が苦手で、何度もやり直しながら2時間かけて下描きし、彩色にもとことんこだわった。家に持ち帰り、イラストマーカーや蛍光ペン、色鉛筆などいくつもの画材を組み合わせ、何日もかけて丁寧に着色していった。出来栄えには大満足だという。「頑張って自分の実力で描けて良かったです」

 橋本さんを含む10人の利用者がそれぞれの思いを込めてポスターを描き上げ、運動期間中、大津署に掲示された。くれおカレッジには署長感謝状が、橋本さんには優秀賞が贈られた。

 贈呈式で竹谷均署長は10人の作品をしみじみと眺め、「犯罪をなくしてほしい、周りの人にも気付いてほしい、というそれぞれのメッセージが伝わってくる。被害に遭わないよう、(市民を)守りたいという気持ちがますます強まった」と話した。賞状を受け取った橋本さんは、「驚きを隠せません。頑張った成果が出てうれしい」と笑顔を見せた。

 今月からはカレッジで就労移行支援が始まる。仕事を見つけるのはこれからだけど、得意なことを生かせたら―。橋本さんはそんな願いを抱いている。「将来もし何でもできるのなら、イラストレーターになりたい」。絵のことに話が及ぶと、とたんに声が弾んだ。

くれおカレッジの利用者たちが作成したポスター

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