社説:補正予算案 不安を高める借金膨張

 次世代に負担を押しつけて、国民に税収増の「還元」とは聞いてあきれる。

 岸田文雄政権は、約13.1兆円の2023年度補正予算案を閣議決定した。

 歳入(収入)に計上した税収の増加分は1710億円にとどまり、全体の7割近くの8.8兆円を「借金」となる国債の増発で賄うという。当初予算と合わせると、23年度の歳出(支出)総額は127.5兆円、新規国債発行額は44.4兆円に膨張する。

 一般会計の歳出総額は前年度の132兆円を下回るものの、100兆円前後で推移した新型コロナウイルス禍前を大きく上回る。40兆円台の借金に依存した財政は、4年連続になる。

 岸田政権はコロナ対応の5類移行を踏まえ、6月の骨太方針で非常時の歳出構造を「平時に戻していく」と明記したはずだ。これでは水ぶくれのままではないか。

 政府は20日に臨時国会へ提出し、今月中の成立を目指す構えだが、緩み切ったままの日本財政に国民は将来不安を強めている。徹底した審議を求めたい。

 鈴木俊一財務相は、国債の発行額を昨秋の補正予算時(22.8兆円)より減らせたとして平時化へ「一つの道筋を示せた」と強調したが、苦しい釈明だろう。

 岸田氏が「税収増還元」の物価高対策として打ち出した3.5兆円規模の減税は、来年6月からのため、今補正には計上していない。含まれるのは低所得世帯への7万円給付の経費1兆円余りだ。

 見かけ上は国債発行を抑えたが、鈴木氏自身、国会で「(コロナ禍からの景気回復で)税収の増えた分は政策的経費や国債の償還(返済)に既に充てられてきた」とし、減税には国債発行が必要と明言。「還元」の元手は使い切り、借金頼みであることを認めた。

 岸田氏の説明は、国民を誤解させる「甘言」だったと言わざるを得ない。衆院・解散総選挙を有利に運ぶ狙いは明らかだろう。

 補正案に、低所得者給付の2倍にあたる公共事業費増額(2.2兆円)を「国土強靱(きょうじん)化」などを名目に押し込んだ点も理解に苦しむ。資材費など物価高を助長しかねない。

 日銀が大規模緩和を修正し、長期金利が上昇傾向にある中、1千兆円を超える借金の利払い増への懸念が急速に高まっている。金利1%上昇で、3年後の借金返済は4兆円近く増えるとされる。

 岸田氏は減税案を見直し、財政健全化の方策を明示すべきだ。

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