華やかな舞台の裏で何が起きていたのか。
宝塚歌劇団が劇団員だった女性(25)の急死を巡り、管理責任を認めて謝罪し、劇団員の負担軽減策などを示した。一方で上級生らのハラスメントは確認できなかったとし、閉鎖性が指摘される歌劇団内での死の真相が解明されたとは言い難い。
女性は入団7年目で、「宙(そら)組」に所属していた。9月30日、兵庫県宝塚市の自宅マンション敷地内で倒れて死亡しているのが見つかり、自ら命を絶ったとみられる。
今年2月、この女性に対して特定の上級生によるいじめがあったと週刊誌が報道していた。
歌劇団が公表した外部の弁護士らの調査報告書によると、女性は新人公演のまとめ役を担い、演技指導など過重な業務を強いられていた。さらに上級生から指導や叱責(しっせき)を受けるなどした結果、亡くなる直前に「強い心理的負荷」がかかっていたと考えられるという。
規律を重んじる「清く正しく美しく」の暗部もうかがわせる。女性が置かれた状況を的確に把握し、対応できなかった事実を真摯(しんし)に受け止めなければなるまい。
女性の遺族側が主張するハラスメントについて判断を避け、上級生から受けた激しい叱責も「社会通念に照らして許容される範囲内」とした。遺族側が「一時代前の価値観に基づく思考だ」と反発するのも当然だろう。
「厳しさを超えて懲罰的なパワハラの構造がある」と証言する歌劇団OGもいる。旧態依然の体質を放置するなら運営側の責任は重い。社会の認識からかけ離れている「悪弊」を取り除かねば、歌劇団の再生はあり得ない。
女性が雇用契約ではなく、フリーランス契約で労働基準法の適用外だったこともずさんな安全管理を招いたとみられる。歌劇団の理事長は引責辞任するが、運営する阪急電鉄の責任はより重い。
弁護士らの調査とはいえ、実態解明への踏み込みが乏しく、一部関係者からは聞き取りもできていない。遺族側主張との隔たりは大きく、安易な幕引きは許されない。
阪急と歌劇団は客観的な第三者委員会などで再検証して悲劇を招いた深刻さを認識し、再発を防がねばならない。
宝塚歌劇団に限らず、近年、芸能界では優越的な関係を背景とするハラスメント被害が次々と明らかになっている。労働環境が抱える共通の問題はないか、他山の石として改めて点検が必要だ。